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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第4章 テスラ大迷宮探索
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第65話 帝国への対処:第4フェーズ②


 俺は収納からテントを取り出して、皇太子の天幕横に設置した。

 設置と言っても風で飛んだりしないよう空間固定するだけだが。


「キル殿…このテントには精々二人しか入れぬぞ?」


「えーと…ジェイド殿、中の案内を頼めるかな?俺たちは簡単だが持て成し料理を作るので」


「承知しました。アレイトス殿下、レイティア殿下、兄上、僭越ながら私が中を案内致します。恐縮ですが私の後に続いてお入りください」


 何故か少し得意気なジェイドを先頭に、皇太子たちがテントの中へと入って行く。

 怪訝な視線を送っていた番兵たちが、小さなテントに二人、三人と入って行く様を見て目を剥いた。


「番兵諸君、殿下に用がある時はこのボタンを押してくれ。あと、黒猫が出入りするが気にしないでくれ。頼んだぞ?」


「は、はい…承りました」


 俺たちが中へ入ると、皇太子たちは未だに玄関で大騒ぎをしていた。


「キル殿!これは何なのだ!どんな大魔術を使えばこれ程の物が造れると言うのだ!?」


「耳元で大声出すなって。ジェイドの案内で思う存分驚いてくれ。レイティア、お前が大好きなアレも完備してるぞ」


「はうっ!?本当でございますか!?何て素敵なテントなのでしょう!私は喜んでテントに定住しますわ!」


 これだけ喜ばれると、製作者としても嬉しいものがある。

 さて、迷宮探索の為にと思って仕込んでおいた食材だが、戦勝祈願も兼ねて美味いモノを食わせてやろう。


 俺は結構な不安を抱えながらもルルとフェリの二人を調理助手として厨房に入り、仕込んでおいた食材を収納から出して料理を始めた。


「うわぁ…もう美味しそうですぅ…」


「キルって何でも出来るのね。あたし少し切なくなるわ…」


「料理も戦闘も同じだっての。数を熟せば上手くなるんだよ。ほら、ルルはその容器に入ってる肉を捏ねろ。フェリは牛乳を遠心分離しろ」


「「はぁーい」」


 小一時間程で七人と一匹分の夕食が仕上がった。

 俺たちがダイニングへ料理を運んでいると、タイミングを見計らった様にグリムが帰って来た。


「にゃー!ハンバーグにゃ♪しかも鉄板にゃー!」


「グリム、報告はメシ食いながら聞く。ジェイドたちを呼んで来てくれ」


「了解にゃ!」


 グラスを並べて屋敷のセラーから取ってきた赤ワインをデキャンタに移していると、何故か汗だくの皇太子がダイニングに姿を現した。


「…何で汗だくなんだ?」


「キル殿…このテントは帝城など比べ物にならぬ程に快適ではないか…。私は驚愕し通しで疲労困憊であるぞ…」


「殿下の仰る通りですな。この快適性には一部の隙も見当たりません。いや感服致しました」


「キル様!食後にお風呂を使わせて頂いてよろしいでしょうか?」


「ああ、屋敷の大浴場に比べれば小さいが、後でルルたちと一緒に入るといい」


「キル様のお屋敷のお風呂が巨大過ぎるのですわ。ここのお風呂でも帝城にある浴場の三倍は広いですもの」


「なんと…キル殿の屋敷の風呂はどれ程に巨大なのだ。ところで…素晴らしく良い香りがするのだが?」


「ああ、皆席についてくれ。今夜は俺たちの手作り料理で持てなそうと思う。先ずは乾杯するか」


 何故かレイティアが皆のグラスにワインを注ぎ始めた。

 ジェイドとブラッドはかなり恐縮している様子だ。


 乾杯の音頭を皇太子に頼むと、皇太子は少し畏まった様子で言葉を紡ぎ始めた。


「キル殿はこのテントの様な人物だ。初めて父上からキル殿の話を聞いた折は『そんな馬鹿な』と幾度も思った。しかし私はこのテントに入って痛感したよ。人の心根や力量は外見だけで計れるものではないのだな。私も皇太子という身分に胡坐をかかず、日々精進を怠らぬ生を送ろうと思う。キル殿、今後はキルと呼ばせて貰えないだろうか?私のことはアレイトスと呼んで欲しいのだが…」


「ああ、勿論だアレイトス。俺は高尚な精神など持ち合わせていないが、繋いだ縁は大切にしたいと考えている。今後は良き隣人として宜しく頼む」


「当然だともキル!我らのみならずテスラと帝国が良き隣人となれるよう、私はこの身を捧げると誓おう!乾杯の言葉も決まった。“人々の素晴らしき世界のために!”」


「「「「「「「人々の素晴らしき世界のために!(にゃ!)」」」」」」」


 柄じゃないなと思いつつも、体の奥がじわりと熱くなる気がした。

 素晴らしき世界のために、か。悪くないかもな…


「何だこのワインはっ!?」

「美味すぎるっ!?」

「美味しいですわっ!?」


 せっかく雰囲気に酔ってたのに台無しだよ。


「このワインは超ヴィンテージだからな。料理も冷めない内に食ってくれ。香辛料を効かせてあるから、この重いワインとも合うはずだ」


「ぐおっ!?」

「ぬおっ!?」

「きゅわっ!?」


 何なんだこいつらは…


「キル様の料理は美味しいですぅ♪ルルは大好きですぅ!」


「ほんと、何をやってもキルには敵わないわ。だから愛しちゃうんだけど♪」


「キル殿の屋敷で出させる料理はどれも絶品ですよ。帝国へ戻るのを躊躇してしまう程に」


 ジェイドもウチに馴染んだもんだ。

 最初は恐縮して飲んでたコーヒー牛乳も、最近では三本一気に飲むようになったしな。


「キキキキキル!この料理は何なんだ!?テスラの宮廷料理なのか!?」


「そんな大層な物じゃない。これはハンバーグという料理で、言うなれば庶民の味だ。今回は香辛料を多く使ったから庶民には作れないが、基本的な材料は叩いた肉と少量の香味野菜だけだ」


「テスラの食文化は進んでいるのですな…」


「私、キル様のお屋敷にずっと住みたいですわ!」


「この焼いたパンも絶品だ。バターとガーリックの香りがたまらない。この付け合わせの野菜も素晴らしく良い味だ。これはジャガイモ、ニンジン、トウモロコシであろう?」


「ああ、至って普通のジャガイモ、ニンジン、トウモロコシだ。料理も魔術も工夫次第で化けるって話だ」


 皆で料理に舌鼓を打ち、決戦が二日後に控えているとは思えない和気藹々とした雰囲気の中で時間を過ごした。

 美味い酒と料理は明日の活力とは良く言ったものだ。


「さて、デザートを食べながらグリムの偵察報告を聞くとしようか。ルル、フェリ、プリンと生クリームを運んでくれ」


「「はぁーい♪」」

「私もお手伝いをしますわ♪」


 デザートに出したフルカスタードプリンの生クリーム添えに、帝国チームが大騒ぎをしたのは言うまでもない。

 一口目を頬張った時は、驚きを通り越して動揺さえしていた。


「さてグリム、報告をしろ」


「了解にゃ。公爵軍は公表どおり五万人で行軍速度も予測どおりにゃ。でも暗部がちょうど百人混ざってたにゃ。百人の内で三十人が魔導士級、十人が正魔導士級、残りの六十人は物理特化にゃ。例の部隊長Aが指揮してるにゃ。公爵軍は僕だけで殲滅できるにゃ」


「そんなもんか。数百人の暗部で別動隊を組む可能性も考えていたが、かなり舐めた編制だな」


「ちょっ、ちょっと待ってくれぬか。今、グリムだけで公爵軍を殲滅できると聞こえたのだが?」


「アレイトスの聴覚は正常にゃ」


「そうだな。アレイトスの聴覚は正常だ」


「そ、そうか、私の聴覚は正常か。それは良かった…」


「アレイトス殿下、グリム殿はキル殿に次ぐ強者なのです。それはルル殿もフェリ殿もお認めになっている事実でして」


 アレイトスが『マジで!?』という表情をルルとフェリに向けると、ルルとフェリがコクコクと頷いた。

 フェリは『生みの親がキルだし?当たり前?』などと言っている。


 実際のところグリムは強い。

 隠密特化のイメージで創生したものの、俺の魔力と能力まで受け継いでしまった為、一対多数の殲滅戦まで出来る化け猫になってしまった。


 おまけに質量保存を無視した分体まで出来てしまうのだから、国の一つや二つは軽く潰せるだろう。

 悪夢のような黒猫を生んでしまってゴメンって感じだ。


「キル殿、失礼ながら私も一つお聞きしたいのですが、よろしいですか?」


「ああ、何だ?」


「弟のジェイドが反乱軍側から来る暗部を始末するとは聞いたのですが、キル殿は三十万…いや、三卿の兵を除いた二十一万ですか。その二十一万の兵をどう相手取るおつもりで?」


「んー、会敵する際の反乱軍の陣形にも因るが、基本的には一撃で殲滅する予定だ」


「っ!?…二十一万の兵を一撃で殲滅…出来るのですか?」


「最終的な戦術は明日の偵察結果を基に決めるつもりだが、まあ問題ないだろ。とは言え、俺の戦闘を見たことが無いアレイトスとブラッドからすると…不安か?」


「いえ、不安と言う訳では…」


「ブラッドよ、キルを相手に隠し事などする必要はない。存念を打ち明けるがよい」


「はっ!私も一軍を預かる将なれば、キル殿の言われる一撃の詳細を知っておくべきかと」


 当然の懸念だな。

 むしろ、それを切り出したブラッドは評価に値する。


「わかった。百聞は一見に如かずだ。これから俺の力の一端を見せよう」


「これは嬉しい誤算だ!ブラッド、お前の手柄であるぞ!」


「有難きお言葉なれど、外は既に闇夜なれば…」


「その辺も含めてだ。玄関へ行って靴を履いてくれ」


「はぁーい!」

「今日は何が見れるのかしら♪」

「私も楽しみですわ!」


 女性陣も物見遊山的に参加するらしい。

 俺は玄関から瞬間移動でテスラの南東端に在る未開地へ飛んだ。


「今のが件の瞬間移動か…何の違和感もないのだな」


「正に神業ですな…。してキル殿、ここは何処なのですか?」


「ここはテスラの南東端にある大公直轄の未開地を見渡せる高台だ。野営地からの距離だと3万km超ってとこだな」


「瞬間移動とは凄まじいものだな…。軍事的にも経済的にも世界を牛耳る事が可能ではないか?」


「まあ、その気になれば使い道は色々あるだろうな。さて、此処が未開地である理由を見せてやろう。 重炎合式【恒球】」


 俺は夜襲の無効化を目的に創った術式を発動した。

 重力系統と炎爆系統を合わせて創出したミニ太陽が高空へと急速に上昇しながら光量を増し、広域を照らし出した。


「まるで昼間の様だ…」


「これだけで納得してしまいますな…」


「上空の恒球じゃなくて眼下を見ろって。この地域は湿地帯で、その面積は1000平方kmにも及ぶ。水深50m級の陥没穴が草木で覆われた状態で点在してるから、開発の手を入れるのが困難って場所だ」


「あ…わかった。キルってばこの湿地帯を造成しちゃう気ね?陛下と宰相が喜びそうだわ」


「フェリは鋭いな。内政の才能があるんじゃないか?」


 フェリは『褒められちゃった♪』とご満悦だが、ルルは悔しそうにフェリを睨んでいる。


「フェリが言った通り、今からこの湿地帯を造成する。工程は水を無くす、地面を押し固める、平地にする、の三工程だ。少し魔力を高めるから、俺の魔力に飲み込まれない様に50mくらい離れててくれ」


「少し高めて50mの距離が必要なのか…。キルの魔力とはどれ程か」


 皆が離れたのを確認した俺は、魔力と魂力を高めて循環して融合させる。


「魔魂融合、多重術式、魔咒絶式―重球」


 高度50m地点にバスケットボール大の超大質量な重力球十個が出現し、掻き消える様にして四方八方へ散開した。

 重球が大地の水を対象として超重力を発生させると、湿地帯の至る処から巨大竜巻の如き水流が上空に昇り、重球に吸収されていった。


 空に昇る最後の水流が消えた時、湿地帯は地平の先まで乾いた大地と化していた。

 俺は重球を霧散させ、次の術式へと移行する。


「魔咒絶式―禍落」


 術式が発動した瞬間、ミニ太陽が発する光を遮る程の高空に、暗灰色をした巨大な立方体が出現した。

 巨大な立方体は薄く引き伸ばされる様に拡がり、水が消失した1000平方kmの湿地帯全域を覆う天井と化した。


 刹那、暗灰色の天井が音も無く大地へと高速落下を始めた。

 その様は、むしろ大地が暗灰色の天井に向かって上昇していると錯覚してしまう程の超質量を感じさせる。


 暗灰色の天井が大地に接触し沈む。沈む。

 大地が激しく軋み、脳を揺らす様な重低音が大気を震撼させる。

 自分の体を抱き締めなければ耐えられない程の衝撃と重低音が消えた時、1000平方kmの乾いた大地は、深度100mの暗黒クレーターへと変貌していた。


「地殻複式―広域隆起」


 恒球によって再び照らされた大地が、轟轟たる響きを上げて隆起する。

 この光景を前世の人々が見たならば、夢か幻か三次元CGかと思うだろう。

 大地の轟きが止んだ時、眼下には1000平方kmの平地が広がっていた。



 イメージ通りの造成具合に満足して振り返ると、俺に向けて笑顔と拍手を送るルルとフェリの横には、両腕をぶらんと垂らして大口を開けた男三人と女一人の姿があった。


 俺は『ジェイドもかよ』と呟きながら皆の元へと歩き、恒球を霧散させて瞬間移動を発動した。


 景色がテント内の玄関へと切り替わった瞬間、アレイトス、レイティア、ブラッド、ジェイドの四人は電源を投入したかの様に喋り始めた。


「キルあれは駄目だ!帝国が人の住めない場所になるから!」

「キル様!キル様!アレが人の上に落ちたら潰れてしまいますわ!」

「キル殿その節は大変無礼な発言をしていまいました!何卒ご容赦をっ!」

「このジェイド、未だにキル殿の力量の一端すら理解していませんでした…」


「お前ら支離滅裂すぎて意味がわからんぞ?ほら、リビングへ行って一息つけよ。…ってオイッ!靴を脱いで上がれ!スリッパに履き替えろ!」



 ルルとフェリが協同で淹れた“気分が落ち着くハーブティー”なる怪し気なお茶を皆が飲む。

 俺は皆が飲み込んだ後も暫く様子を見る。真紫色のハーブティーなど見た事がないからだ。

 ルルとフェリがジト目で俺を見ているが、不滅すら凌駕しそうな毒物を口にするなんて御免だ。

 ふむ…大丈夫そうだな。


「四人とも落ち着いたか?」


「取り乱してしまった。すまないキル」


「父上が『彼の者と対立しては帝国が立ち行かぬ』と言われた意味が解りましたわ」


「私の懸念など、杞憂とさえ言えない馬鹿げたものでした。お詫びします」


「ルル殿やフェリ殿のお気持ちが解りました。キル殿の傍らが、世界で最も安らげる場所ですね」


「違いますよぉ?ルルがキル様の安らげる場所になりたいんですぅ!」


「そうそう。あたしはキルを護る為なら何だってするわよ?」


「はぁ…同じ女性としてお二人が羨ましいですわ。私もキル様のお傍に置いてくださいまし」


「もう満員ですぅ!」

「却下よ!」


「お前たち三人は風呂でも入って来い。うるさいから」


「「「はーい…」」」


 立場や環境は違えど、ルルもフェリもレイティアも孤独な想いを抱えていたのだろう。

 その三人が素直に言葉を交わせる現状も悪くはないな。


「さて、アレイトスもブラッドも憂いは晴れたか?」


「無論だとも。逆にキルの資質が羨ましいとさえ感じるよ」


「私も全面的にキル殿の指示に従います」


「なら二人は後の為にも戦力を消耗しないよう心掛けてくれ。フェリが広域防御結界を張るから、密集陣形がいいかもな」


「承りました。全軍に陣容変更の通達を発します」


「ジェイドはフェリの結界外で狙撃をする形になるから、この魔導器を渡しておく」


「魔導器…初めて見ました。これをどう使えば?」


「それは多重結界を半径2mに自動展開する魔結晶内蔵型の魔導器だ。ライフルや弾丸の魔力と同調させてあるから、多重結界内からでも狙撃が出来る。弾丸を電磁加速する術式へ魔力を供給する機能もあるから、防御や魔力残量なんぞ気にせず撃ちまくれ」


「…防御不考慮で撃ち放題ですか。相変わらず非常識な物をお造りになる」


「全くだ。全世界を敵に回しても、キルだけは敵に回してはならんな」


「殿下の仰る通りです。キル殿の助力を得られた事は、ジェイドのみならずガルダイン帝国にとって最大の僥倖かと」


「そんな大仰に考える必要はないさ。俺は自分の目的に向かって進んでるだけだ。兎も角だ、ジェイドは全力で戦功を挙げろよ?」


「承知しました。全力で暗部を排除します!」


「よし、今夜はこれで解散だ。明朝はグリムが起こしに行くまでゆっくり寝てていいぞ」


 俺はシャワーを浴びながら明日の偵察行動に思考を傾ける。

 偵察行動そのものに問題はないが、その結果を基にした戦術の組立てには注意を払うべきだろう。

 不要な人的被害や環境被害を排除し、且つ、二十万人超を瞬く間に殲滅する電撃戦。

 俺にはそれを成せる力があっても経験はない。足りない経験は情報で補うしかないよな。


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