第64話 帝国への対処:第4フェーズ①
三大公爵の動向を皇帝に知らせたところ、『西部領主の中には仕方なく公爵に従う者もいる』と言われ、とある領主貴族三人を敵性対象から外す事になった。
ひっじょーに面倒な話である。
戦場で三人を判別するのは困難なので、『出兵するな。もしくは最後方の離れた場所に陣を構えろ』という内容の勅旨を皇帝に用意して貰った。
その三領主はジェイドも見知った人物らしく、俺はジェイドを連れて瞬間移動で会いに行った。
と言うか、その三人の領主を公都の屋敷へ纏めて拉致って来た。
「陛下の勅旨を読んだだけでは信じられなかったが…」
「間違いなくここはテスラ大公国の公都ですぞ…」
「我らを殺すくらい何時でも出来るという事か…テスラ畏るべし」
最後のオッサンちょっと待て。解釈が間違ってるぞ。
単に一度で片付けたかっただけだ。
「カイラン卿、モーズリー卿、ペリドン卿、どうか陛下の勅旨を受け入れてください。三大公爵に帝国の行く末を握らせる訳にはいかないのです!」
「そうですわ。私からもお願いしますわ」
「レイティア皇女殿下が此処におられ、死んだと聞かされたジェイド准将もこうして生きておる、か。この勅旨は我々への陛下のお心遣いであるな…。このカイラン、陛下の勅旨に従いましょうぞ!」
「しかしカイラン卿、出兵せぬわけにはいかぬであろう?」
「モーズリー卿の言うとおりだ。我ら三人が出兵せぬとなれば、先ずは我らに向けて暗部が放たれるであろうよ」
確かに三大公爵ならやるだろうな。暗殺大好きみたいだから。
「ジェイドちょっといいか?三人は帝国貴族でも古い家柄だろ?爵位も辺境伯に伯爵なんだから、最後方に布陣しても別に変じゃないだろ?」
「そうですね。公爵にべったりな領主に新興家が多のは確かです」
「なら、公爵べったりな貴族どもに手柄を譲る体で最後方に布陣してくれ。因みに、三人の動員数はどれくらいだ?」
「カイラン卿が五万人、モーズリー卿とペリドン卿が各二万人…でしょうか?」
「然り。流石は武門のエスタシオン公爵家、良く知っておるな」
「ではカイラン卿、モーズリー卿、ペリドン卿、最後方に布陣して頂くという事でお願い致します」
「「「承知した」」」
「良かったですわ。三卿が健在ならば、後々の西部復興が早まるのも間違いありませんわ」
「レイティア皇女殿下、ご存知のとおり我ら三家はエスタシオン公爵家同様に古い武門家にございます。しかし、三大公爵に餌付けされておる者どもは、金に物を言わせて多くの魔術師を兵力として抱えております。キル殿がどれ程の戦力を有しているかは存じませんが、そう簡単に勝てるとはお考えになりませぬよう」
「そんな…キル様、大丈夫でしょうか?」
「心配するなレイティア。相手が三十万人の正魔導士だとしても問題ない」
「「「「「………」」」」」
聞いた本人まで閉口するなって。
俺も前世だったら敵が三十万人とかソッコーでバックレるけどな。
三領主を瞬間移動で自領へ送り届けた俺は、ジェイドを連れて工房へと入った。
「広い…ですね。此処も拡張ですか?」
「ああ、この工房はフェリが拡張したんだ。ところでジェイド、お前は暗部の枢密院が何処に在るか知ってるか?」
「確認した事はありませんが、帝都から50kmほど離れた場所に在る古代遺跡が本拠地だという噂です」
「古代遺跡?」
「はい。神蝶の森と呼ばれる小さな森が在るのですが、その中央に神殿造りの遺跡が建っています。私の曾祖父の時代は神蝶の森で狩りをしていたらしいのですが、暗部が台頭して以降、神蝶の森へ入った者の尽くが行方不明なっているのです」
「へぇ…距離的にも本拠地の可能性は高いな」
神殿造りの古代遺跡か…僕神に会えるっていう場所の一つか?
まあ別に会う必要もないんだが。
「ところでキル殿、そのやけに長い金属棒は何ですか?それとこの大量にある金属の礫も…」
「これは超長距離スナイパーライフルで、こっちは50口径弾だ」
「すないぱ…何です?」
「実演した方が早いな。ちょっと移動するぞ」
俺はスナイパーライフルを収納し、ジェイドを連れてテスラ南端の浜辺へ瞬間移動した。
「ジェイドは自分が魔力の直接操作を出来ると自覚しているか?」
「魔力の直接操作ですか?意味さえ解りませんが…」
「ふむ、無自覚なんだな。ジェイドは剣の刃先だけに斬撃の威力を増す魔術的な効果を付加していた。それと、気力や勁力ではなく、魔力を使った身体強化も実行していた」
「そういう意図はありましたが、魔力を使っている自覚はありませんでした」
「ステータスプレートの固有スキルの欄に“魔力直接操作”って載ってないのか?」
「…載っていませんね」
「ふむ、ちゃんと発現してないレベルってことか」
「よし、発現の手助けをしてやるから剣を構えてみろ」
俺はジェイドの背後に立って背中に掌を当て、ジェイドの魔力の動きを解析し始める。
「このまま斬撃の威力を増しながら振り抜いてくれ」
「わかりました。…はっ!」
なるほど…斬り裂くという事象イメージが明確なんだな。
イメージ先行だから魔力操作を意識してないと。
ジェイドの様に特異な潜在能力を秘めた人物は多いのだろうか?
まあ、探そうと思って探せるものでもないか。
「じゃあ、今度は剣を構えたまま自分の魔力に意識を集中してくれ」
「はい」
俺は解析したジェイドの斬撃イメージを精神干渉系の術式に付加し、ジェイドの意識領域に流し込んで魔力に触れさせた。
ジェイドの体がピクリと反応する。
ジェイドの意識と術式化した斬撃イメージが結び付き、ジェイドが魔力の動きを操作し始めた。
「これが…」
「それが魔力の直接操作だ。今のは魔力と事象イメージの相互干渉が解り易いように、俺が術式化した斬撃イメージを流し込んだ。ジェイドが意識的に魔力と事象イメージを結び付ける事が出来れば十全に行使できるだろう。最大の特長は発動速度の飛躍的上昇だな。斬撃の威力も増すだろう」
「これは、凄いですね!」
シッ!シッ!っと僅かな風切り音と共にジェイドが繰り返し剣を振る。
振る度にジェイドの剣筋は鋭さを増し、刃先の魔力集束率も上昇していった。
十分ほど眺めていると、ジェイドの振るう剣から風切り音が消えた。
「覚えが早いな、才能ってやつか。この分なら明日にも会得できるだろう。さて、ここまでは前置きだ。ジェイドには魔力直接操作を利用した狙撃をやって貰うぞ」
意味が解らない様子のジェイドを尻目に、俺はスナイパーライフルに弾丸を込めて構えた。
狙いは海岸に疎らと生えている直径1m程の樹木だ。
「このライフルには俺が採掘した魔結晶と雷速術式を組み込んである。今俺が覗いているのはスコープという。このスコープを除きながらターゲットを捕捉するイメージをすれば、遠くにいるターゲットが拡大される。狙いを定めた後に弾丸を撃ち出すイメージをしながらこの引き金を引けば…」
―――バシュッ!
電磁加速された弾丸の射出音と共に、数百m先に生えている樹木の幹が爆散して直径50cm程の貫通穴が穿たれた。
「と、こうなる訳だ。因みに有効射程距離は5kmくらいある。わかったか?…ジェイド?」
ジェイドは樹木に開いた大穴を見詰めて呆然としている。
まあ無理もないのだが、ジェイドにはこのライフルで暗部を始末して貰わなければならない。
「おいジェイド、これをお前がやるんだぞ?と言うか、やれるようになって貰わないと困る」
「えぇっ!?これを私がやるのですかっ!?」
「そうだ。俺の予想では暗部が皇太子軍に対して攪乱や破壊工作、場合に因っては将官級の殺害を仕掛けてくるはずだ。皇太子軍の近傍に魔術は撃ち込めないから、ジェイドには接近してくる暗部を逐次始末して貰う。まあ…ぶっちゃけて言うと、ジェイドには一目瞭然な戦功を挙げて貰う必要があるんだよ」
「な、なるほど。しかし暗部を見つける事が出来るのでしょうか?」
「それは対策済みだ。このスコープにはもう一つ仕掛けがある。ジェイドは暗部が共通して装備している魔道具を知っているか?」
「いいえ。何故キル殿がそれを知っているのかが不思議ですけど…」
そんなもん、敵を捕獲したら装備の分析をするのは当然だろうに。
説明するのが面倒だからスルーだ。
「簡易通信用だと思うんだが、二種類の特定魔力を常に送受信している魔道具を暗部は装備している。おそらく“安全・危険”とか“実行・撤退”みたいな状況判断を共有する為だろう。このスコープにはその特定魔力を探知する術式が刻印してある」
「…もう言葉がありませんよ」
「初めて会った日に『深く考えるな』と言っただろう?兎に角、ジェイドには今日から毎日ライフルを扱う特訓をして貰うからな。頑張ってくれよ?」
「承知しました。精一杯務めます」
皇太子軍が帝都を発つのが五日後。
反乱軍…と言うか、公爵どもが戦場と定めている平原までの行軍日数が七日間。
ジェイドには余裕をみて正味十日間で狙撃技術を会得して貰う必要がある。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ジェイドはきっちり十日間で仕上げてきた。
高速移動物体でも狙撃できる腕前となり、剣士と言うよりは銃士と言った感じだ。
まあ、照準補正機能も付けてあるので不思議ではないのだが。
俺の自作ライフルはバレルが1800mmもある大型ライフルで、二脚で銃身を支えて片膝撃ちをする仕様だ。
その二脚とスコープを魔導線で繋ぎ、光学情報処理の結果を基に二脚が物理的に駆動して照準補正をする機能が付いている。
魔力で伸縮する特性を持つ神鋼製だから出来る技術だ。
無反動砲とまではいかないが反動も非常に小さい。
皇太子軍が戦場となるであろう平原に到達するまであと二日。
俺はルル、フェリ、ジェイドと共に皇太子軍へ合流すべく装備を整え、リビングに集合していた。
「レイティア、正気か?」
「正気ですわ!私がキル様に同行すれば、兄上の信を得るのも早いというものですわ!」
「いやいや、皇太子には陛下から経緯事情と戦術が伝わってるぞ?」
「え…そ、そう!兄上は人見知りをなさいますの!だから私も同行すべきですのっ!」
「今思いついた感が激しいぞ。で、本音は?」
「私だけお留守番はイヤですのっ!!」
…何だそれ。
化粧箱入り娘の皇女を連れて戦場へ行くとか…勘弁してくれ。
「ジェイド、何とか言ってやれ」
「レイティア殿下がこの状態になると…説得はほぼ不可能かと。力不足で申し訳ありません…」
「…とんだお転婆だな。ルルとフェリは護衛対象の追加だ。皇太子とレイティアの二人を護ってくれ」
「はぁーい!」
「了解よ。どうせ出番はないだろうけど」
「キル様ありがとうございます!私も精一杯頑張りますわ!」
頑張られると逆に困るからね?つーか、何を頑張る気だ。
あ、装備っぽく見えるモノを着せないとマズイか?まあいいか。
「エルは予定どおり、この魔道具を持って父上のところへ戻ってくれ」
「はいです!キルアス様特製の魔道具で、陛下と一緒に観戦するですよ!」
「さて行くか。今日は皇太子軍と合流して野営。明日は敵軍の偵察行動。そして明後日は昼前後での会敵が予測される。以上。ゲーティング!」
俺たちは皇太子軍の後方500m地点に瞬間移動した。
皇太子軍は既に野営の準備に取り掛かっている様子だ。
兵たちの巻き上げる土埃が南風に吹かれて北へと流れていく。
「キル殿、先行して我らの合流を知らせて参ります」
「不要だろう。見てみろ、騎兵が空馬を引いてこっちへ向かって来ている」
「おお、キル殿が先触れを出していたのですか?」
「いや、三匹目のグリムが皇太子の側に張り付いてんだよ」
「なるほど…使い魔とは便利なものですね」
「使えない魔じゃ意味ないからな」
三騎の兵が其々一頭の空馬を引いてやって来た。
どうやら皇太子の護衛兵団の様だ。
騎馬兵は俺たちから少し離れた場所で馬を降り、地面に馬留の杭を打ち込んでこちらへ歩いて来る。
俺は先頭を歩いていたが、この場はレイティアの斜め後方に位置取るべきかと考え下がった。
俺とジェイドがレイティアの左右後方に立つと、三人の兵士がレイティアの前で片膝を突き、中央の一人が言葉を発した。
「レイティア皇女殿下、アレイトス皇太子殿下の命によりお迎えに参上致しました。戦中につき略式礼にてご容赦ください」
「勿論構いませんわ。兄上の処へ案内してください」
「はっ!」
最初にジェイドが騎乗し、レイティアを馬上へ引き上げるべく手を差し出す。
レイティアがジェイドの手を取って馬上へ腰を下ろした。
流石は皇女と言うべきか、流麗なる身のこなしだ。
俺も騎乗すべく馬へ近づくと、ルルとフェリが引き攣った笑みで互いの顔を見ながら俺の左右に立った。
「ったく…俺は一人で乗るからな?」
「えぇーーーっ!?ルルはキル様と一緒に乗りたいんですぅ!!」
「ダメよ!あたしがキルと乗るんだからっ!!」
俺の冷たい視線をガン無視して、ルルとフェリが手四つで争い始めた。
ジェイドとレイティアの苦笑はまだ良いが、三人の兵から送られる『TPOを考えろよ!』的な視線がとても痛い…
俺は両手でダブルデコピンの構えを取り、ルルとフェリに向かって優しく語り掛ける。
「渾身の一撃を笑顔で受けきった方と同乗しよう。覚悟はいいか?」
「アハハ…ルルはフェリさんと一緒に乗ろうかなぁ?頭が吹き飛ぶですぅ!」
「あたしもルルちゃんと乗りたいなぁ…なんて思ったり?消滅しちゃうわよ!」
俺はバカ二人にニッコリと笑顔を送り、馬に跨って本陣へと向かった。
本陣へ着くと、中央に一際大きな天幕が張られていた。
天幕の入り口では、フルプレートにハルバートを装備した二名の番兵が直立不動の姿勢を取っている。
ここもレイティアが先頭なのかと思っていたら、ジェイドが先頭に立ち番兵に向かって口を開いた。
「レイティア皇女殿下のご参陣である!」
ジェイドがそう告げてレイティアの後方へ下がると、天幕の中から一人の男が出て来た。
男がレイティアの前で片膝を突いて口を開く。
「レイティア皇女殿下、此度のご参陣、恐悦至極に存じます。アレイトス皇太子殿下がお待ちでございます。どうぞ中へお進みください」
「ありがとうブラッド中将」
男はレイティアが天幕へ入るのを見届けると、立ち上がってジェイドに向き直った。
「よくぞ来たジェイド。いや、よくぞ生き延びた。俺はお前を誇りに思うぞ!」
「ありがとうございます兄上。しかし私が生き延びる事が出来たのは、此方におられるキル殿のお陰です。キル殿、彼は我が兄のブラッドです」
「おぉ!キルア…いやキル殿、よくぞ参陣下された。私はブラッド・スピン・フォン・エスタシオンと申します。我が弟の大恩人に最大の感謝を」
「ジェイド殿を救う形になったのは只の偶然です。そこまで感謝される様な事ではありませんので」
「陛下から伺った通りの御仁ですな。さあ中へお入りください。お連れの方々もどうぞ中へ」
ブラッドに促されて中へ入ると、そこには笑顔で話しをするレイティアと、呆れた目でレイティアを見ている皇太子がいた。
皇太子は俺を見るなり立ち上がり、ツカツカと歩み寄って俺の手を取った。
「貴殿がキル殿かっ!よくぞ、よくぞ参られた!貴殿の助力にはどう感謝してもし足りぬ!我が名はアレイトス・ガルドニア・ヴァン・ガルダインだ。良しなに頼む!」
「えーと…」
すげー勢いなんだが…普通に喋っていいのかね?
此処に居る面々は俺の身分を知る者のみだがメンドクセーな。
「キル殿、此処には貴殿の身分を知る者しかおらぬ故、今は普通に話してくれて構わぬぞ。貴殿の意向は父上から聞いておる故」
「そうか?気を使わせてしまって悪いな。偶然と成り行きで助力する事になったが、やるべき事はキッチリやる。俺の仲間を紹介しよう。こっちは銀狼の英雄ルル、こっちが大魔女フェリだ。二人は護衛として本陣に置くから使ってくれ」
「なんと!?キル殿の仲間は英雄殿に大魔女殿だったのか!その大物二人が我らの護衛とは何とも贅沢な!使い魔のグリムと言い、並々ならぬ者の集まりなのだな!」
圧が…圧が凄いんですけど。
皇太子ってもっとこう泰然としてる生き物じゃねーの?
「ま、まあな…」
「ところでキル殿、私の護衛をしてくれていたグリムが、貴殿と入れ違いに姿を消したのだが?」
「ああ、俺たちが合流したら後方の公爵軍を偵察するよう言っといたんだ。その内に戻ってくるだろ」
「キル殿は万事に抜かりがないのだな!折角の出会いだ、戦時糧食で悪いが共に食事を摂ろうではないか!」
この世界の戦時糧食って黒パン・チーズ・干し肉の三点セットだろ?
でも王族なのに兵士と同じ糧食を食うってのは高評価だな。だが断る。
「一つ提案なんだが、今日と明日は俺たちのテントで過ごさないか?勿論レイティアもエスタシオン兄弟も一緒にだ」
「キル殿のテントはそんなに大きのか?いや、みなまで聞くまい。キル殿の招待に応じぬ道理はないからな!」
何故かハイテンションな皇太子を連れて、俺たちはテントを出すべく天幕の外へと出た。




