表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第4章 テスラ大迷宮探索
62/76

第61話 帝国への対処:第1~第2フェーズ


 グリムが持ち帰った情報を基に、俺は戦術を基軸にした計略詳細を皆に説明する。


 暗部十一名は迷宮入町にある空き家に集合しており、奴らは陽が落ちるのを待ってから、ジェイドに擬態したグリムが宿泊する宿を強襲するつもりだ。


 迷宮入町は探索者の為にある町であり、宿に宿泊する者のほぼ全員が早朝から迷宮入りを予定している探索者だ。

 従って、探索者も町人も寝静まるのは早い。


 現在時刻は午後四時半。日没まで二時間超。時間は十分すぎる程にある。



 俺が空き家へ瞬間移動で侵入し、酸素濃度8%の空気で空き家内を瞬時に満たす。

 酸素濃度8%の空気は一呼吸で人間を失神させ、個体差はあるが五分から八分で死亡する。


 失神した暗部十一名を俺が瞬間移動で屋敷の地下一階へ放り込む。

 エルが即座に風精霊魔術で酸素供給を行って覚醒させつつ、フェリが筋弛緩術式で身体的自由を奪う。

 ルルが覚醒した順に椅子へ座らせて物理的に拘束する。

 俺が術式を仕込んだ二種類のミスリル板を各一枚ずつ上着・ズボン・靴に突っ込み、本命の各一枚を十一名の背中に埋め込む。

 ここまでが第一フェーズだ。


 俺が冥獄魔術の精神操作術式で重要事項だけを自白させていく。

 フェリが自白した順に記憶消去の魔術薬を飲ませていく。

 俺が冥獄魔術の記憶偽装術式で“ジェイド抹殺完了”の記憶を植え付ける。

 偽装記憶が固定化されるまでの十秒以内に、俺が瞬間移動で十一名を迷宮入町の宿へ放り込む。

 グリムがジェイドの死体に擬態して暗部に死亡を確認させる。

 ここまでが第二フェーズだ。


 俺・ジェイド・グリムが帝国皇帝の寝室付近へ瞬間移動する。

 グリムが先行して皇帝の護衛や監視者への対処を行う。

 状況を掌握したらジェイドが皇帝に経緯と計略を説明し、必要ならば説得工作を行う。

 皇帝の承諾を得た上で、俺とジェイドが第一皇女を伴い瞬間移動で屋敷へ帰還する。

 グリムは皇帝の護衛として帝国に残す。

 ここまでが第三フェーズだ。


 帝国へ帰還する暗部十一名の動向を屋敷でトレースし、ジェイド暗殺完了の報告が三大公爵へ届くのを待つ。

 必要十分な情報の取得を完了する、もしくは三大公爵が大きな行動を起こすタイミングで皇帝の元へ瞬間移動し、皇帝に帝国重鎮諸侯への緊急召集を発令させる。

 帝国重鎮が一堂に会す場にジェイドと俺が乗り込み、三大公爵とその一派を処断する。

 この第四フェーズ完了で状況終了だ。



「以上だ。多少のイレギュラーは発生するかもしれんが、そこは各自臨機応変に対応してくれ。何か質問はあるか?」


「改めて詳細を聞くと…凄い計略ですね…」


「思い付いてもキル以外には実行不可能な内容ね。流石はあたしの旦那様だわ♪」


「キルアス様は天才なのですよ!」


「ルルはキル様が帝国を支配すればいいと思いまぁーすぅ!」


「ルルは却下だドアホ」


「あぅ…」


 さてと…第二フェーズまでをサクッと終わらせて、晩メシ食ってから第三フェーズ開始だな。


「よし、現在時刻は午後五時だ。午後五時十五分に状況を開始する。各自は準備を整えた上で持ち場にて待機しろ!散開!」


「「「「「はい!(にゃ!)」」」」」



 皆が持ち場へと移動する中、俺は厨房へ行ってクリスタに『晩メシは一時間後で』と伝えた。

 食事の時間を考えていた俺は、ふと『公都と帝都の時差って何時間?』と思った。


 その疑問を第三フェーズまで出番の無いジェイドに聞いたら、『どの国も日昇から日没で考えますから、時差という考え方はしません』と言われた。

 ちょっとズレてるジェイドの言に、俺は『この世界らしい答えだな』と思った。


 帝都は公都の西方約2万kmの位置にある。

 この星の外周を知らないから判らないが、例えば地球の赤道上で東西2万kmだと十二時間弱の時差が生じる。


 もし時差が大きいなら…メシを食ってから皇帝の寝室へ瞬間移動しても、帝都ってまだ昼間じゃね?

 下手に地球と似た惑星系だから、こういう超長距離作戦だと凡ミスを起こしそうで怖い。

 時差が大きい場合の超最悪ケースを想定するならば、解放した暗部十一名が、夜になる前の帝都に到着してしまう…的な。

 こりゃ帝国へ飛ぶ前に記録層でこの星系のこと調べなきゃだな。



 ジェイドの出番はまだ先だが、本人は気が気でないのか一緒に地下一階へ降りて来た。


「状況開始二分前だ。皆準備は整えたな?俺は今から生体反応・魔力・存在値の全てを別次元空間に隔離して誰からも認識されない状態になる。皆はこの一分間砂時計に注目していてくれ。この砂が落ち切った時が状況開始時刻だ。では始めるぞ」


 そう告げた俺は生体反応・魔力・存在値を次元空間に隔離した。


「キル様がいなくなりましたぁ…」

「砂時計が空中に浮いてるのですよ…」

「気配や魔力を消すどころの話じゃないわね…」

「僕にも認識できないにゃ…」

「キル殿を敵に回した者には…滅びの道しか残りませんね…」


 実のところ生体反応と存在値を隔離するのには相当苦労したが、この状態は現界における隠密能力の最高到達点だろう。

 この状態で誰かを殴っても、殴られた本人は驚いたり不思議に思ったりするだけで認識は出来ない。


 俺は神核で経過時間を確認しながら、状況開始一分前で砂時計の天地を逆さにした。

 砂が線を引きながら底に溜まっていく。

 いよいよ開幕だ。



「ゲーティング!」


 俺は迷宮入町の空き家へと瞬間移動し、間髪置かず建屋内を低酸素濃度雰囲気で満たす。


「境召複式―大気置換」


 建屋内の各所に散っていた暗部十一名が、白目を剥いてバタバタと昏倒した。

 俺は『打ち所が悪いと死ぬかも…』と思いながら生体反応・魔力・存在値を解放し、昏倒した十一名を拾い集めて屋敷へ瞬間移動する。


「ゲーティング」


 山積みにした十一人と共に俺が現れるとエルが即座に酸素供給術式を発動し、タイミングを計ったフェリが続けて筋弛緩術式を発動する。


「風の精霊よ癒せ、ブレッシング」


「暗黒術式―奪力」


 覚醒はしても呻き声を出すのが精一杯な暗部たちを、ルルがテキパキと椅子に座らせて革紐で拘束していく。


「暗部さんたちは鍛えた体ですけど軽いから楽ちんですぅ♪」


 俺は術式を仕込んだ二種類のミスリル板を各一枚ずつ暗部たちの上着・ズボン・靴に突っ込み、本命の各一枚を各人の背中に魔術で埋め込む。


「境界改式―物質転移」


 暗部の十一人は状況を把握できないながらも、俺たちの背後から自分たちを睨み付けているジェイドを認識して目を見開いた。


「帝国暗部の諸君、我らがテスラ大公国へようこそ。指一本すら動かせない事は既に理解したと思う。魔力直接操作能力者の存在を懸念して結界を張っておいたが…必要なかった様だな。では引き続き諸君らを歓待したいと思う。楽しんでくれ」



 俺はそう語り掛けながら悟りの咒式を以て暗部たちの思考を読み、部隊長である三人を特定した。

 流石と言うべきか、三人の部隊長は混乱している他の八名とは違い、現状打開の理想形と任務失敗時の証拠隠滅に思考を巡らせていた。


 俺は第二フェーズに移行すべく、術式を発動して命令する。

 そして俺の術式発動を確認したフェリが筋弛緩術式を解除する。


「冥獄改式―隷従  今回与えられたお前たちの任務における重要事項を完結に述べろ」


「奪力解術」


 一時的に俺の隷属となった暗部たちの緊張が解け、フェリの解術によって運動機能を取り戻して口を開いた。


「ジェイド准将の死亡確認もしくはシャンテ公爵閣下へと繋がる証拠隠滅です」

「ジェイド准将の死亡確認もしくはキャスケン公爵閣下へと繋がる証拠隠滅です」

「ジェイド准将の死亡確認もしくはライランド公爵閣下へと繋がる証拠隠滅です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「ジェイド准将抹殺もしくは自害です」

「テスラ大公国の動向監視もしくは自害です」

「暗部枢密院への速報伝書もしくは自害です」


 ビンゴだ。きっちり三大豚公爵の名前が出てきた。

 六名が暗殺特化で、監視特化の黒魔術師と通信特化の召喚魔術師か。


 三人の部隊長についてはシャンテ公爵配下をA、キャスケン公爵配下をB、ライランド公爵配下をCとして、重要監視対象者に指定しておこう。

 任務失敗時の自害を免除されている事から、かなり重用されていると思われる。



「今から渡される魔術薬を一滴残らず飲み干せ」


 暗部たちがフェリに渡された魔術薬を飲み干したのを確認した俺は、記憶偽装術式を発動して偽の記憶を植え付ける。


「冥獄改式―偽憶  お前たちはジェイド准将抹殺に成功した。暗殺特務の六名が六方から刃を突き立て各部隊長が死亡を確認した。監視特務は一切の異常を感知せず、伝書特務は部隊長から指示を受けた後に抹殺成功の伝書を暗部枢密院へ送る。以上が事実の全てだ」


 偽憶術式が暗部たちの脳を侵食して偽装記憶の固定化を開始した。

 暗部十一名は一様に白目を剥いて身体が跳ねる様に痙攣しだした。


 俺の目配せを受けたルルが暗部たちの拘束具を解いた。

 グリムが軽やかに跳躍して俺の肩に跳び乗った瞬間、俺は瞬間移動術式を発動した。


「ゲーティング!」



 暗部十一名と共に迷宮入町にある宿屋の一室へと瞬間移動した俺は、振動遮断と遮音の結界を展開した。


 白目を剥いてビクンビクンと痙攣している暗部たちを尻目に、グリムがジェイドの死体へと擬態して床に横たわった。

 見事なまでに六箇所の致命的な刺突傷を晒しているグリム…と言うかジェイドの死体に、俺は血のりを振りかけた。


 痙攣の止まった暗部たちが虚ろな目をして立ち上がり、遠隔操作でもされているかの如く動き始める。


 六名が短剣を手に傷痕を一突きして抜き、監視担当と伝書担当の魔術師二名は扉の左右に位置を取った。

 三名の部隊長が徐に動き出した瞬間、俺は生体反応・魔力・存在値を次元空間に隔離して部屋の隅に移動した。


 暗部たちの目に光が戻り、三名の部隊長が囁くように言葉を発した。


「ジェイド准将の死亡を確認した。これでシャンテ公爵閣下へ良き知らせを届ける事ができる」


「同じくジェイド准将の死亡を確認した。私はキャスケン公爵閣下の元へ馳せ参じるとしよう」


「同じくジェイド准将の死亡を確認した。ライランド公爵閣下は晩餐会を催されておられるので、私の報告行動は明朝になる。ではシャンテ公爵部隊長殿、統括指示を頼む」


「うむ。各員ともご苦労だった。これより一時拠点へ撤退した後に帝国への帰還行動を開始する。監視特務は敵性者探知任務へ移行しろ。伝書特務は一時拠点へ到達次第、速やかに召喚獣を飛ばせ。散開」


 部隊長Aが散開の令を下すと、暗部たちは音も無く宿屋から姿を消した。

 俺は結界を解除して魔力探知を開始し、暗部十一名の離脱を確認する。


「離脱した様だな。グリム、動画を撮りたいくらいに見事な死体役だったぞ」


「ご主人様ならスマホモドキも造れるにゃ?僕はTApple社製みたいなスマホがいいにゃ!」


 グリムは惚けた調子でそう言いながら、黒猫形態へと戻り身震いして血のりを掃った。


 グリムは俺の記憶をどこまでコピーしたのだろう。

 俺の恥ずかしいあんな事やこんな事までコピーしたのだろうか…


 従属に弱みを握られてる感が拭えないままに、俺はジェイドの惨殺死体発見のプロパガンダを宰相に頼むべく城へ瞬間移動した。


「っ!?キルアス殿下!いやはや…何度拝見しても驚愕してしまいまする。首尾は如何でございますかな?」


「極めて順調だ。ジェイド死体発見の噂を実しやかに流してくれ。騒ぎが大きくなり過ぎると不確定要素が発生するから、噂が帝国方面にだけ流れる形が理想だな」


「お任せくださいませ。帝国へ向かう商隊を仕立てて適度な噂を流しまする」


「ルイドは流石の手練だな。頼んだ」


「確と承りましてございます」


 穏やかな表情と口調だけなら“とても良い爺さん”にしか見えない手練手管の宰相の執務室から、俺は屋敷のダイニングへと瞬間移動した。



 ダイニングへ着くと、皆が料理をテーブルに並べている最中だった。

 懐中時計の針が示す時刻は午後六時ちょっと前。

 素晴らしいタイムマネジメントである。


「キル様お帰りなさいですぅ!時間ピッタリですぅ!」


「キル殿、問題はありませんでしたか?」


「そう心配するなジェイド、事は目論見通りに運んでる」


「左様ですか。安堵しました」


「ゆっくりメシを食って、少し調べ物をしてから帝国へ飛ぶ」


「承知しました」


 安堵したとは言っているものの、ジェイドの表情からは多少の焦燥感が見て取れる。

 それに比べて、ルルたちは普段通りにリラックスして食事を楽しんでいる。

 前世でもルルたちと共にいたなら、俺は迷わず私設傭兵部隊を創っていたと思う。

 まぁ今のルルたちの安定感は、鬼神の加護で魂力値が三倍程まで上昇したからかもしれないが。

 何れにしても、頼もしいチームになりつつあるのは間違いない。



 食事を終えた俺は自室へ入り、記録層でこの惑星系を調べる事にした。


『アイ、この星の外周・自転周期・地軸の傾き・大陸図・公都と帝都の座標を検索してくれ』


《はい、マスター。概略図に事項記述を重ねて表示します》


 え?…外周12万kmってデカッ!?地球の三倍ってデカッ!!

 自転周期はやはり二十五時間か。

 地軸の傾きは地球とほぼ同じだな。

 公都は赤道から少し北極寄りで北緯十度、帝都は逆に南極寄りの南緯十度か。

 公都と帝都の時差はちょうど四時間くらい…まあ、許容範囲内としておこう。


 しかし…赤道に近い割には真夏の気温が高くないな。

 まあいいか。もし必要になったら改めて調べよう。


 俺は第三フェーズの段取りを説明するために、皆が寛いでいるリビングへ行く事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ