表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第4章 テスラ大迷宮探索
61/76

第60話 仕込みとティラミス


 ガクトの店から屋敷へと戻り、そのまま工房へと直行した。

 工房ではフェリが怪しげな臭いと煙を撒き散らしながら何やら作っている。


「お、いい感じの広さになったな。なんか臭いけど」


「おかえりなさい。臭いや煙が籠るから広くしてたのよ?」


「いや、この前のは広すぎだろうに。臭いと煙は換気扇でも付けろ」


「換気…せん?」


「せん?あ、プロペラを知らないのか。よし、臭いし造って見せてやるよ」


 俺はミスリルで直径50cmの八枚プロペラファンを四つ造った。

 更にプロペラを固定する軸と軸受けも各四つ造る。

 フェリが興味津々で覗き込んでいる。


「これがプロペラファンだ。所謂、扇だな。あ、手頃な魔石がねーな」


「魔石なら沢山あるわよ。どれくらいのを幾つ?」


「…いや、工房にきてる魔導線を引く方がいいかな」


 この世界は“駆動モーター”が要らないから便利だ。

 プロペラの軸に“右回転”の術式を刻印するだけでいい。

 回転数とトルク制御は屋敷のシステムにお任せしよう。


「筐体とルーバー、魔力分岐用のミスリル線を造って………よし完成だ」


「それで臭いと煙が消えるの?」


「消すんじゃなくて排気するんだよ」


 物理シールドを工房の天井付近まで階段状に空間固定して上る。

 境界魔術を使って換気扇の筐体サイズに合わせた丸穴を壁に開ける。

 換気扇をはめ込んで空間固定し、魔力分岐端子がある場所まで地殻魔術で壁を削りながらミスリル線を引く。

 魔力分岐端子にミスリル線を固定したら、地殻魔術で削った壁を復元する。

 工房のクライアント端末で回転数とトルクを自動調節にセットして…稼働開始。


「すごーい…換気扇が煙をどんどん吸い込んでるわ」


「プロペラの形と回転方向で空気の流れを作るんだ。強力なのに無音。さすが魔導換気扇って感じだな」


「キルのいた世界って凄いわね。こんなの良く考えつくものだわ」


「この世界は魔術が万能すぎるから機械的な工夫をしないんだろうな。フェリだって臭いと煙に耐えられなくなったら風魔術で換気するだろ?」


「言われてみるとそうね…でも、換気扇の方が合理的だと思うわ」


 換気扇を眺めながら『飲食店の厨房はどうやって排気してるのだろう?』などと考えてしまった。

 その流れで俺の頭に浮かんだ飲食店はウナギ屋。あぁウナギが食いたい。


「それで、フェリは何を作ってたんだ?」


「記憶を消す魔術薬よ。暗部捕縛で使えそうでしょ?」


「なるほど。記憶を改竄するよりも、薬で消して新たな記憶を黒魔術で書き込む方がいいか。暗部が八人もいるから改竄すると辻褄合わせが面倒だもんな」


「そうそう。キルも今回は殺さずに泳がせるつもりでしょ?」


 流石に千年も生きてきただけの事はある。

 フェリは地球の諜報戦を知っている様な思考をしている。

 やっぱ魔術と科学って相性がいいと思う。


「そうだな、その段取りでいこう。一気に捕獲して瞬間移動で地下一階の倉庫に放り込むから、フェリは麻痺とか筋弛緩術式とかで指一本動かせない状態に拘束してくれ」


「はーい」


 フェリ案の採用を決めた俺は、工房へ来た目的の物を造り始める。

 1cm□の薄いミスリル板を五十枚。それに魔力波動を変換する微細な魔導回路を構築する。

 更に刻印魔術で“魔力印”と漢字で書いた術式を刻印していく。

 一枚だけ造って錬成魔術で複製してもいいのだが、複製は数に比例して性能が落ちるから今回は一枚ずつ手造りだ。


 そしてもう一種類。

 魔力印とは違う回路と術式刻印を施した板を五十枚造る。


「これって刻印魔術よね?どんな術式を刻印してあるの?これ…キルの世界の文字?」


「フェリは鋭いな。そのミスリル板は魔力印の術式だ。この世界の文字で書くと十九文字になるけど、俺がいた世界…と言うか俺の故郷である国の文字なら三文字で済む」


「すごっ!?スレイン師匠から聞いた事があるわ!意味が整合していれば詠唱や魔術陣、刻印はどんな言語でも成立するって!」


「へぇ…スレインも気付いてたのか。転生者でもないのに大したもんだ」


「それで…魔力印をそんなに造ってどうするの?」


「捕獲した暗部に持たせて帝国へ帰すんだよ。この術式は持っている本人の魔力を消費しながら常時発動する。俺は人や物の魔力波動を記録して探知・探索・照合が出来るけど、それは術式を発動している間だけだ。でも魔力印は常時発動しているから、暗部がいつ何処へ行ったかが移動線の形で全て記録される訳だ。その移動線を地図と照らし合わせれば、拠点や経路、結託している貴族屋敷なんかも全て判明するって寸法だ」


「呆れるくらい感心しちゃうわ!それもキルの世界の技術なの?」


「そうだな。俺のいた世界では発信器と呼ばれていた。でも魔力印の方が圧倒的に有用だ。発信器は魔石みたいなエネルギー源を組み込む必要があるけど、魔力印は本人の魔力で作動するからな」


「ちょっと待って。冒険者や探索者が道標に使う魔力印は、本人の魔力を意図的に消費して印を残す魔道具よね。暗部の魔力を勝手に消費して印を残す仕組みは凄いけど…印そのものは魔力で作られているから、一時間も経つと消えちゃうわよ?」


「そうだな。でも俺が造った魔力印は、魔道具屋で売られている魔力印とはかなり違う。売られている魔力印は魔力で記号や文字を印として残すだろ?俺のミスリル板には他人の魔力を俺の魔力と同じ波動に変換する魔導回路を構築してある。それに印も文字や記号じゃなくて、俺の魔力波動そのものを印として残す仕様にしてあるんだ」


「うそっ!?魔力波動の変換なんて出来るの!?という事は、暗部の魔力じゃなくてキルの魔力を探知するのね!……あれ?印を常時残しても、広域探知術式を常時発動するなんてムリじゃない?まさか寝ないつもり?」


「んな疲れる事を俺がする訳ない。屋敷の魔導システムに俺の魔力波動を常時探知する機能を追加するんだよ。超長距離の広域探知だからスフィアに充填した魔力を結構消費する事にはなるが、システムに記録を残していけば暗部の動向を漏れなく知ることが可能だろ?」


「やだ、キルってば賢者。また惚れちゃう。抱いて?」


「アホか、脈絡ねーわ」


 ハートマークを幻視させる潤んだ目を向けるフェリをやり過ごし、俺は屋敷の地下二階へと向かった。


 魔導システムに俺の魔力波動を探知する術式と記録を蓄積する術式、蓄積された記録を時系列や個別にソートする術式を新たに刻印した。

 動作テストも問題なし。

 これで暗部から芋づる式に悪徳貴族を特定する準備も完了した。

 俺の推測が正しければ、グリムが面白い情報を持ち帰るはずだ。



 仕込みを終えた俺はリビングへ行き、徐に懐中時計を取り出した。

 針が示す時刻は午後三時少し前。

 俺の25時間説が正しいならば二時頃か。

 同じくリビングに居るジェイドが、俺の懐中時計に興味を示している。


「キル殿、それは懐中時計ですか?」


「自作品だから正確じゃないけどな。ジェイドも持ってるのか?」


「はい。准将へ昇進した折に父から祝いとして貰いました。儀礼装の時しか持ち歩きませんけどね。便利だとは思うのですが、如何せんゼンマイを巻くのが面倒でして…」


「ゼンマイって事は機械式か。俺のは魔導式だから持ってさえいればいいんだ」


「え?魔導では調速が出来ないと聞いたのですが…出来るのですか?」


 あー、この世界には圧電効果の概念がないから水晶振動子は未開発か。

 でも魔術的に調速が出来ないという認識なら遠からず開発されるだろう。

 いや、俺のは雷系統で交流電圧をかけてるんだから…まあ、どうでもいいか。


「魔術だけでは調速できないかもな。俺の時計は水晶と雷魔術を使って調速してるんだ」


「水晶…ですか?理屈は全く解りませんが、キル殿が博識だという事は解ります」


「煽てたって何も出ないぞ?いや…ちょうど小腹もすいたし、ちょっと珍しい物を出してやろう。少し待ってろ」


 ラウニとクリスタが作ってくれたコーヒー牛乳はとても美味かった。

 思い出補正がかかっているのかと思ったが、コーヒーと牛乳を単体で飲んでも美味かった。

 そこで俺は『この美味いコーヒーと牛乳で何か作れないだろうか?』と考えていたのだ。


「ラウニ、クリスタ、菓子を作るから手伝ってくれるか?」


「勿論ですとも」

「ラウニもお手伝いするー」


「じゃあクリスタは地下の冷蔵庫から牛乳を5リットル、セラーからラム酒…ダークラムがいいな。ダークラムをコップ一杯持ってきてくれ。ラウニは濃いコーヒーを一杯淹れて、コーヒー豆を十粒くらい持ってきてくれ」


 俺はそのまま厨房に入り、収納庫から焼き立ての高級白パン、買ったキビ砂糖を魔術で自己精製した上白糖、迷宮入町で見つけて買った産みたて卵を取り出す。


 白パンは中のフワフワな部分だけを薄くスライスし、上白糖は重力魔術で粉砕して粉砂糖に、卵は卵黄と卵白に別けておく。


「キルアス様、牛乳とラム酒を持って参りました」

「ラウニも持ってきたよー」


「お、そこに置いてくれ」


 牛乳5リットルを風魔術で遠心分離すると約半量の生クリームが出来る。

 脂肪分の多い生乳だから出来る技だ。


 生クリームを500ccほど取り分け、残りの生クリームを火魔術で加熱しながら白ワインビネガーを少量入れてゆっくり攪拌する。

 ビネガーの酢酸で固まった生クリームを重力魔術で脱水すればマスカルポーネチーズが出来る。


 マスカルポーネに卵黄を加えて攪拌するとチーズクリームが出来る。

 チーズクリームにダークラムを加えて更に攪拌する。

 ラム酒が焦げたカラメルの様な甘い香りを醸し、チーズクリームがダークブラウンに染まった。


 クリスタはラム酒を大きなコップに持って来たので、三分の二は俺が飲む。

 しかしこのダークラムも美味いな。コーラがあればラムコークにしてハンバーガーと一緒にやりたいところだ。


 取り分けておいた生クリームに粉砂糖を入れて攪拌しホイップクリームを作る。

 チーズクリームにホイップクリームを少しずつ加えてゆっくり攪拌する。

 クリームがイイ感じの滑らかさになったら、メレンゲにした卵白を加えてサックリ混ぜる。


 グラタン皿の様な深めの容器の底にクリームを薄く引き、その上にスライスした白パンを敷く。

 白パンに濃いコーヒーを塗る様に染み込ませ、その上にクリームを敷く。

 この作業を繰り返して最上層をクリームで覆ったら、粉砕したコーヒーパウダーを振りかける。

 カカオ豆が無いからコーヒー豆で代用だ。ビターテイストが楽しめるだろう。


 最後に氷冷魔術で冷やし固めれば、大人ティラミスの完成だ。


「出来たぞ!ラウニは全員分のコーヒーを淹れてくれ。クリスタは大きなスプーンと人数分の取り皿をリビングに運んで皆を呼んでくれ」


「コーヒー淹れるー。仕方ないからジェイドのも淹れてあげるー」

「承知しました」


 やはりラウニはジェイドを下に見ているらしい…


 俺は大人ティラミスをリビングへ運び、スプーンで皿に取り分けた。

 一匹だけ働いてるグリムの分を残しておいてやろう。

 優しいご主人様で良かったな?


 ラウニが淹れたコーヒーがテーブルに並ぶ頃、皆がリビングに集合した。


「おやつの時間だ!これはティラミスという甘味と苦味が複雑に絡み合い、ラム酒の持つ独特な香りが大人心を擽る菓子だ。コーヒーと合わせて食べてみてくれ」


 何故だか皆が恐る恐るスプーンですくって口に運んでいる。

 色鮮やかな物ではないが、そこまで警戒しなくても良くないか?

 とは言うものの、皆の反応が気になって見回してしまう。


「はうっ!?美味しいですぅーーーっ!甘くて苦くてトロトロフワフワですぅ!」

「こここれは魔性の味なのです!手が止まらないのですよっ!!」

「やだ美味しい!?キル!これ以上あたしを虜にしてどうする気なのっ!?」

「う…美味すぎますよコレは!キル殿!これは禁忌の甘味ですよ!!」

「おーいーしーいー!キル美味しいよぉー!ラウニこれ大好きー!」

「…こんな美味なる物…私如きが頂いてもよろしいのでしょうか…」


 うん、皆も気に入った様で良かった。

 んじゃあ俺もひと口…うん、美味いな!

 スポンジじゃなく白パンだしクリームも少し重めだが、十分に及第点だ。


「これはクリスタが見つけてくれた美味い牛乳と、ラウニが大切に管理している美味いコーヒーがあるから作れた菓子だ。俺が用意したのはパンと砂糖と卵だけだ。クリスタとラウニは特に堪能する権利があるぞ」


「は、はい!ありがとうございますキルアス様!」

「ラウニ幸せー。キルに会えて良かったー!」


 こういうガス抜きも必要だよな。

 特に俺と一緒にいると厄介事の嵐だからな。


「たまにはこういう物を作って、皆で食べるのもいいだろ。強くなるには充実した休息も必要だからな」


「ルルは決めましたぁ!お料理を頑張ってキル様にも喜んで貰うですぅ!」


「エルもですっ!キ、キルアス様好みの女になってみせるのですよっ!」


「私もうかうかしてられないわね!旦那様の方が料理上手なんて恰好悪いもの」


「コーヒー牛乳が究極などと…私は己の未熟と見識の浅さを痛感しました…」


 ジェイドだけへこんでいる様だが…生真面目すぎるんだろうな。

 俺みたいなテキトー野郎よりはマシか。


 あっという間に胃袋へと消えたティラミスに、皆は物足りなさを感じている様だ。

 ルルはスプーンを咥えてグリムのために残してあるティラミスを凝視している。

 五秒に一回くらい俺をチラ見するのは何のアピールだろうか?

 こういう物はカロリーが高いから足りないくらで丁度いい。


 暑くなってきたし今度はアイスクリームでも作ろうと考えていたら、グリムが扉の隙間から流れ込んできた。

 便利なヤツだ。


「早かったな。首尾はどうだ?」


「ご主人様の予想どおりだったにゃ!総勢十一名の暗部が拠点の空き家に集まって作戦会議をしてたにゃ」


「十一名!?キル殿、幾ら何でもこれは多すぎます!」


「そうか?ジェイドは自分を過小評価し過ぎじゃないか?俺は最大十五名まで有り得ると思ってたぞ」


「なっ…その根拠をお聞かせ願えますか?」


「エスタシオン公爵家を潰す前段での最良はジェイドの抹殺だろ?ジェイドが帝国に生還して一番困るのは勅旨を捏造した三大公爵だ。ジェイドがいると皇女暗殺の難易度も跳ね上がるしな。それを考慮すれば、三大公爵が腕の立つ子飼いをジェイド抹殺に送り込むのは必然とすら言える」


「八名の実行部隊と三大公爵子飼いの部隊長が三名…という事ですか?」


「部隊長かは知らんが、俺としては各公爵に直接話が出来る立場の者なら好都合だな。ま、守護騎士たるジェイドがそれだけ邪魔って事だ」


「…彼奴らは帝国の未来を何だと心得ているのだっ!!」


 そう吼えたジェイドは怒りで肩を震わせている。


「そう熱くなるな。余分な怒りは計画に綻びを生じさせる。ジェイドの出番は帝国に戻ってからだ」


 のんびりしてるとジェイドがキレそうだな。

 暗部が集まってる内に片付けるか。


良ければ評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ