第55話 ジェイド
こんにちは。連投4日目です。
思い付きで新キャラ登場させてしまいました。
章題から逸れそうな予感が…
「おいエル、頑張ったのは解ったから、いい加減に自分で歩け」
「何でです?エルは“身長だけ”が小さいですから、自分で歩くとキルアス様の顔が遠くになっちゃうですよ?」
「全く意味がわからん。いいからキリキリ歩け!」
俺はエルをポイっと放り投げ、トラップと魔獣を避けながらルートを進む。
放り投げたエルをキャッチしたルルが、エルとひそひそ話をしている。
あ、フェリとグリムまで加わった。何となく疎外感を覚える…
しかし…エルに抱きつかれた時の感触からして、着痩せするというエルの言葉は嘘じゃないかもしれない。
決して大きい訳ではないが、『限りなくCカップに近いサイズがあるって!』と俺の感覚が訴えてくる。
そんな迷宮と一切関係ない事を考えていたら、前方に探索者三人組のパーティーを感知した。
三人までの距離は約200m。三人の内、少し先行している一人は既知の人物だ。
「あ、キル様なの!」
「ようキャルレイン。リリエラとレイラはどうした?」
先行していたのはトライワンズのキャルだ。キャルは男女二人の探索者と一緒に潜っていたようだ。
「リリエラとレイラは旅の支度なの。私は臨時パーティーでアルバイトなの」
「索敵とトラップ対応のアルバイトか。依頼で旅に出るのか?」
「そうなの。商人キャラバンの護衛依頼で北部へ行くの」
俺たちはキャルと一頻り会話をして、この先も潜行するからと話を切り上げた。
「キル様、六十階層に特異種の階層主が出たみたいなの。討伐するなら気を付けてなの」
「ほぉ、特異種か。今度はルルがやるか?」
「やるですぅ!殺ってやるですぅ!」
ルルの軽い返事を聞いた男女が、顔を見合わせて驚いている。
キャルが苦笑しながら聞いてきた。
「今度は?…階層主を単独討伐してるの?」
「メンバーの戦闘力確認を兼ねてな。四十階層はエルが十秒で片付けたぞ」
「十秒…凄いの。キル様と一緒にいれば凄く強くなれると思うの」
「そうなのです!エルも自分で驚くほど強くなり始めたのですよ!ね、キルアス様♪」
四十階層以降、やたらと纏わり付く様になったエルが、俺の腕を抱き締めながら答えた。
キャルに『今度は一緒に潜りたいの』と言われ、俺たちはキャルに見送られて先へと向かった。
グリムに索敵とトラップ対応を任せ、俺たちは収納庫から手軽に食べられる食料を取り出し歩きながら昼食を摂る。
出来立てのラップロールとコンソメっぽいスープを受け取ったフェリが、軽い溜息と共に呟く。
「キルの収納庫って便利よね…特に時間軸を除去してるとこが」
「俺たちみたいな者にとっては尚更な。帰ったらフェリにも造ってやるよ」
「やった♪あたしはブレスレットじゃなくて、指輪タイプがいいわ!」
ルルとエルが、フェリの“指輪”発言に激しく反応し、フェリにジト目を送る。
最大収納容量は媒体の体積に比例するのだから、不便のない範囲でより大きい方が良いと思うのだが。
「指輪タイプだと収納容積が小さくなるぞ?つっても公都の四分の一くらいは入るだろうけど」
「それ大き過ぎるからね!キルは何を収納する気なのよ…」
「そうは言うけどな、神鋼だけでも公城サイズで収めてんだぞ?」
「レリックの価値観がダダ下がりする量ね…死蔵確定じゃないの」
そんな事はない。
俺には神鋼で装備、車輛、航空機などをバンバン造りたいという夢がある。
問題は錬成と錬金の魔術はクラスアップがない点だ。数を熟して技能を向上させていくしかない。
神鋼に混ぜる金属は今のところミスリルが最有力だが、先々はもっと比重の小さい軽金属にもチャレンジしたい。
ミスリルは硬度と靭性は抜群だが比重が4ある。車輛を作るなら魔力を流す動力系統だけ神鋼+ミスリルにして、車体は神鋼+アルミあたりが良いだろうと考えている。
装備に関してガクトに依頼している神鋼と他種金属の合金化が成功すれば、“神鋼装備は使徒や亜神しか取り扱えない”という制限を消せると予想している。
その予想通りに事が運べば、皆の装備にも相当量の神鋼が必要になってくる。
将来的に神鋼が不足する事はあっても、死蔵する可能性は極めて低いのだ。
「ご主人様、五十一階層からはアンデッド系の魔獣が出てくるにゃ。生体感知には引っ掛からないにゃ」
先日迷宮に潜ったグリムの記憶から、七十九階層までに出現する魔獣の種類は判明しており、潜行ルートは百七十九階層までが明らかになっている。
「わかった。ちっとやりたい事もあるから、今日は六十階層を抜けたところで早めにキャンプを張るぞ」
「はぁーい」
「はいです」
「わかったわ。凄い潜行速度よね」
避けるのが面倒な魔獣だけを倒しつつ、俺たちは足早に六十階層を目指し進んだ。
物理トラップも徐々にエグ味を増してくるが、前世の密集地雷原などに比べれば生温い。
但し、魔術トラップには気を付けるべきタイプがある。
並みの魔術トラップは魔力が満たされた魔術陣タイプで、これは魔力探知による感知が可能だ。
しかし、ゼロ魔力の魔術陣で、探索者の魔力を吸収して初めて発動するトラップがある。
魔術陣が吸収する魔力量は探索者の内包魔力量に依存するため、この辺りに即死級のトラップはない。
だが、下層や深層に至れる探索者は大きな魔力を内包している比率が高くなるため、仕掛けられているトラップも大規模かつ即死級な物となる可能性が高い。
俺、フェリ、グリムの三者は特に注意が必要だろう。
六十階層への下り階段まで500m程の地点へ到達した俺は、階段手前の回廊に密集しているアンデッド系魔獣を感知した。
七十二体と異常な数が密集している。これが自然集中したとは思えない。
5m幅の回廊上に密集しているため、回避は困難であるし面倒だ。
また、急速に弱まる生体反応が五つある事から、探索者が襲われていると予想される。
「あー殺られちゃうにゃ」
「ええ、もう少し持ち堪えれば助けられるのにね…」
「一人二人は救えるかもしれん。俺が先行する」
俺は身体強化、加速、半重力、エアブーストを発動し、靴底に展開した物理シールドを蹴って一気にトップスピードまで加速した。
回廊の曲がり角に物理シールドを傾斜固定し、それを蹴って方向を転換しながら疾駆する。
地面から1m程の高さを走っているので、傍目には飛んでいる様に見えるだろう。
「速いですぅ!?」
「方向転換の風圧で、突き当りの壁が崩れたですよ…」
「普通なら骨格がバラバラになる速度よね…」
「僕より速いにゃ…納得いかないにゃ!」
500mの回廊を七秒足らずで走破した俺は、魔獣が密集する中心地点の上空に物理シールドを垂直固定し、それを停止壁にして速度を殺して魔獣の頭を踏み潰しながら着地した。
「助勢する!」
「な!?あ、有難いっ!!」
「神聖改式―ピュリエクセスヒール」
俺は浄化と治癒の術式を改造・複合し、浄化と治癒の効果を過度に高めた術式を広域展開した。
密集していた七十二体のゾンビ形態やアストラル形態の魔獣どもが、声とも音ともつかない忌まわしい呻きを上げて消滅した。
「神聖改式―サイコソマティックエクストラヒール」
大量に出血して倒れ伏す五人の探索者たちを一瞥だにする事なく、俺は心身への高度治癒効果を持つ術式を発動した。
数拍の後、俺の声に返答していた探索者が目を開き上体を起こした。
他の四人は、術式発動前に絶命していたようだ。
「っ!?そんな!?私は…食い千切られて…なっ!?エリカ!ラント!ニオ!キオン!皆目を覚ませっ!皆…くぅっ…」
男は部位欠損まで復元された不可思議をかなぐり捨てる様に、未だ横たわる仲間たちの体を揺すって回った。
目を覚まさない仲間の状態を理解した男は、両膝を突いて俯き、嗚咽を噛み殺す様にギシリと歯を食いしばった。
「残念だが、治癒が間に合ったのはあんた一人だけだ。すまんな」
歯を食いしばった為か戦闘中のものか、男は口端に一筋の血跡を残したまま立ち上がり、俺に歩み寄ってきた。
「いいえ、ありがとうございました。私たちを助けようとして下さったそのお気持ちだけで。私の名はジェイドと申します。貴殿に感謝を」
衣服は魔獣に引き裂かれているが、その生地や仕立ては上等で、腰に下げた剣の鞘も一級品。
俺よりも若干小柄ではあるが、その身体は服の上からでも判る程に鍛えられている。
真っ赤な髪と鋭い目つきに反し、言葉や立ち居振る舞いには気品を感じる。
所作には隙がなく、纏う気配からも手練れである事が窺える。
「謝意は受け取った。俺の名はキルだ。詮索する気はないが一ついいか?」
「私に答えられる事なら何なりと」
「あの数の魔獣が集中したのは異常だ。作為的なものを感じるが心当たりはあるか?」
ジェイドは再び歯を食いしばり、怒りの炎をその双眼に宿した。
感情的になる事情がありそうだと思い、ジェイドに『答えなくていい』と言おうとした時、ルルたちが姿を現した。
「ジェイド、無理に聞くつもりはない。自然的に異常発生したのなら警戒すべきと考えただけだ。彼女たちは俺の仲間だ。紹介しよう」
「キル殿のお気遣いに感謝します」
ルルたちをジェイドに紹介し、皆でジェイドの仲間の遺体を並べた。
ジェイドは慈しむように仲間の血跡を拭い取り、ステータスプレートと冒険者証、そして形見となる品々を集めている。
「もしジェイドが望むなら、仲間の遺体を運んでやるぞ?」
「本当ですか!?いや、しかし、六十一階層のポータルも遠くはないので私の手で運びます」
ジェイドはそう言って、重量のある仲間の装備品を外そうと手を伸ばした。
「ああ、いや、ポータルまでって意味じゃなくてな。こういう意味だ」
俺はジェイドがエリカと呼んだ女性の遺体を収納庫に収めた。
「なっ!?」
ジェイドが『何をした!?』と言わんばかりの鋭い視線を俺に向けた。
「心配するな。ほらこの通り、何の支障もなく出せる」
「キル殿、今のは魔力の動きを感じましたが…魔術ですか?」
「へぇ、感知能力が高いんだな。これは時空間系統で造った収納の術式だ。内部は時を止めてあるから腐敗することもない」
「その様な魔術が存在するとは…。いや、であれば願ってもない。キル殿、仲間の帰還を手伝って頂きたい」
搬送ではなく帰還か…情の深い言葉だ。
俺は四人の遺体を収納庫に収め、集まってきた魔獣を薙ぎ倒しながら六十階層へと向かった。
六十階層の階層主の部屋の前には二組のパーティーが待機している。
俺は下階のポータルまで往復する間に待機パーティーが増える事態を嫌い、ルルたちに並んで待機するよう指示した。
階層主の部屋の扉から100m程の位置にある階段へ歩いていると、横を歩くジェイドが話し掛けてきた。
「キル殿は階層主の討伐が目的なのですか?」
「いや、主目的は迷宮の最奥へ到達する事だ。階層主は仲間の単体戦闘力を確認するためにやってるだけだ」
「何と!?単独で階層主を討伐できるのですか!?しかも迷宮最奥が目的地とは…百階層の神器、ですか?」
「あー、最奥は百階層じゃないぞ。希望的観測になるが、おそらく二百階層くらいだろうな。あと、神器に大した興味はない」
ジェイドは立ち止まり、目を見開いて俺に視線を向けた。
目は口程に物を言うの諺どおり、ジェイドの目からは驚愕と疑義が窺える。
俺の目も物を言ったのか、ジェイドは双眼に浮かべた感情を消し、今度は顎を拳で支えて考え込み始めた。
階層主討伐の順番がくるまで二時間半ほどあるため、俺は思考を巡らすジェイドに付き合い立ち止まった。
「キル殿、不躾は重々承知の上でお頼み申し上げる。私をキル殿の探索に同行させては貰えないだろうか」
そう言ったジェイドの目には、並々ならぬ決意の色が窺えた。
普通の探索者であれば、糧食などを失った者の同行願いなど一蹴するだろう。
しかし俺たちにとっては些事にすら該当しない。
何より、俺はジェイドに少なからず興味を抱いている。
五十九階層でジェイドが取り落した長剣を拾い上げた時、俺は長剣から魔力の残渣を感じた。
ある程度の魔力制御が出来る者にとって、魔力を武器に纏わせる業は難しくない。
しかし、ジェイドの長剣にあった残渣は刃先のみに集束されていた。
しかも、術式と呼ぶには程遠いものの、斬撃の威力を増す効果が乗せられていた。
俺はそれを見た瞬間、『こいつは魔力の直接操作が出来るのかもしれない』と思った。
ついでに言うと、ジェイドは俺の収納庫の機能を知ったからこそ同行を申し入れてきた。
俺たちであれば同行させて貰える可能性が低くないという、強かとも言える考察力を持ち合わせている。
的確な判断・考察・分析能力を持つヤツは嫌いじゃないと思いながら、俺はジェイドに返答する。
「構わないぞ。ただ、俺の仲間は特殊なのが多いから一々大袈裟に驚かないよう務めてくれ」
「有難い!キル殿の意向についても承知しました」
俺とジェイドは一つ頷き、待機しているルルたちの元へと戻った。
ルルたちにジェイドが暫く同行する旨を伝え、地面に腰を下ろす。
ジェイドは装備を外して破損や不具合を確認し始めた。
するとフェリがスッと俺の横へ来て座り、俺の耳に口を寄せてきた。
「帝国の軍人、かも?」
フェリはそれだを囁くと、腰を上げて元居たルルとエルの間へと戻って行った。
帝国とはガルダイン帝国の略称で、テスラ西端で国境を接する隣国だ。
軍事立国を公称する世界第二位の大国であり、周辺には帝国を仮想敵国とする国が多く在る。
過去にはテスラへも侵攻したが、国境である赤竜峡谷を越える事なく先代のテスラ大公率いる軍によって撃退された。
俺はフェリが何を理由に帝国人の可能性を示唆したのかと思い、フェリに視線を向けた。
視線を受けたフェリが自分の左胸を人差し指で突いた。
爆乳がウォーターベッドかの如く波を打つ。…そうじゃない。
フェリの胸はホント柔らかいよねぇ…との雑念を振り払い、俺はジェイドの左胸に視線を移した。
(紋章?しかし帝国の紋章じゃないよな。家紋か騎士団の紋章か?)
この世界は紋章が多い。クソ多い。
地球にも家紋は数多あったが、この世界では紋章が名刺代わりだ。
国の内務院には紋章局という部署まである程だ。
俺はテスラの紋章すら正確に憶えていないため、後で本人に聞けばいいだろうと考えながら階層主討伐の順番を待った。
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