第54話 庇護の効果
連日投稿3日目、よろしくお願いします。
冒険者や探索者は、同等ランクの四名から七名でパーティーを組むのが一般的だ。戦闘における役割分担や、移動と荷物輸送の効率を考えると必然的にその人数に落ち着く。
高ランクパーティーのメンバーが固定化されていくのも必然だろう。
パーティー内のランク差が大きくなると戦闘フィールドの選択が難しくなり、主に収支の面で低ランク者は肩身の狭い思いをする事となる。『悔しければ強くなれ!』これは良く耳にする台詞だ。
ここは中層の四十階層であり、ここに進入している探索者たちのランクは、低くともBのAAである。
そのパーティーが第三級危険種にも劣る階層主を始末するのに、短くとも三十分を要するのが普通だとエルは言う。
そのくせ、数日前まで同じくBのAAだったエルは、その階層主を一撃のもとに倒せると公言した。
俺はその整合しない話が解せず、発言者であるエルを見据えている。
「キルアス様は、自分がエルたちに加護を与えている事を知らないです??」
は?この貧乳エルフは何を言ってるのだろうか?
「意味が解らん。加護なんぞ与えた覚えもないければ与える方法も知らねーわ。そもそも、俺が人に与えるような加護を持ってる訳がねぇだろ。キルアスの加護か?んなもの性格が悪くなるだけだろ」
あ、自虐ってしまった…。
ルルとエルが困った様に苦笑を交わすと、フェリが助け舟を出すかの様に話し始めた。
「あのねキル、キルがあたしたちを仲間だと認識した時から、あたしたちのステータスには正体不明の加護が与えられているの。その加護が与えられた瞬間から、あたしたちのステータス値は軒並み上昇したわ。一回の戦闘で得られる経験値も五倍くらい増えてるのよ?」
「は?正体不明の加護って意味からして解んねーのに、何故それが俺の加護だと言える?」
「キルはステータスに表示される“???”に心当たりがあるんじゃない?あたちたちのステータスに与えられた加護も???と表示されているのだけど…」
ルルとエルがウンウンと頷いている。
???には有り過ぎる程の心当たりがある。
俺は即座にステータスプレートを取り出して魔力を流した。
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【名前】キルアス・ルスト・デュケ・テスラ
【種族】人間族 【性別】男 【年齢】15歳
【クラス】凶魔導戦闘士・マスタージャッジメント・極大魔導
【称号】神権執行者・エレメントの盟友・悪魔殺し・魂魄の支配者・魔獣の天敵
神獣の天敵・領域解放者・破壊専従者・庇護者
【レベル】290
【体力】22000 [闘魔融合+220000]
【魔力】750000 [闘魔融合+220000]
【魂力】87000 [魔魂融合+100000]
【耐久】20000 [闘魔融合+220000]
【敏捷】22000 [闘魔融合+220000]
【物防】15000 [闘魔融合+220000]
【魔防】520000 [闘魔融合+220000]
【スキル】無詠唱・術式並列制御・闘気解放・魔力圧縮・次元制御・魔眼
【固有スキル】咒式創造・咒刻・解咒・魔力直接制御・術式創造・生体進化・
神眼・神化・魔術解析・魔魂融合・魔咒式創造・冥族探知・冥王 召喚・魔素制御・鬼羅式創造・闘魔融合
【魔術】炎爆・氷冷・暴嵐・霹雷・地殻・冥王・神聖・境界・刻印・錬成・錬金
合成・複合・召喚・重力
【加護】創造神・智神・技神・魔神・武神・慈神・死滅のエレメント
【庇護】???
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16歳に偽装していた年齢が15歳で確定されている…八歳なのに。
称号に“庇護者”が追加され、罪科だった項目が“【庇護】???”に変わっている。
更には自主訓練しかしていないのに、レベルとステータス値がグンと上がっている。謎だ。
「ナンデカナー?」
俺の呟きに釣られた三人と一匹が俺のステータスプレートを覗き込んだ。
「わぁー、キル様の罪科が無くなって庇護になってますぅ!悪い事しても免罪ですかぁ?ヤバヤバですぅ!」
「こんなステータス初めて見たですよ!」
「あらあら、神の領域に片足を突っ込んじゃってるんじゃない?」
「僕には初めから???の加護があったにゃ!」
うん、これはアレだ。見なかった事にしよう。
思考を強制終了してステータスプレートを収納庫に放り込んでいると、ガスのパーティーが階層主の部屋へ進入する姿が目に入った。
「ほれほれ、次は俺たちの番だぞ!お?いつの間にかパーティーが二組も後ろに並んでるじゃないか!?」
「逃避ですぅ?」
「現実から目を逸らしたです?」
「思考を停止したわね?」
「絶賛先送り中にゃ?」
「お前らうるさいよ」
俺は階層主の部屋の前へ移動し、ドカッと腰を下ろした。
ルルたちは微笑ましい者でも見る様な表情を浮かべ、俺を囲むように座る。
あぁ鬱陶しい…
これまで見た事も鑑定した事もなかったルルたちのステータスを見せて貰いながら、ステータス値の上昇率を聞いてみた。
返ってきた答えは、三人とも二倍超になったというものだった。
気になったのは亜神であるフェリのステータス値が俺の三割程しかない事だ。
魔力値と魔防値に至っては三割どころか4%程度しかない。
「俺の魔力、魂力、魔防って異様に高いんだな」
「異様なんて軽い言葉で片付けないでくれるかしら?あたしの魔力と魔防だって万人が強者だと認める者の二十倍以上あるのよ?」
「へぇ…」
自分が遠い目をしている事を自覚しながら黄昏れていると、階層主の部屋の扉が淡い赤光を放ち始めた。
「お、ガスたちが入って一時間も経ってないよな?存外に優秀なパーティーだったみたいだな」
「キルったら、彼らが聞いたら怒るわよ?」
そうフェリに諭されながら、俺たちは階層主の部屋へ進入した。
階層主の部屋は縦横高さが100mに満たない程の何もない空間で、その中央には階層主が佇んでいた。
黒い体毛に覆われた背中に一対の黒い翼。深紅の双眼は妖しい光を放ち、額の中央には二本の直角が縦列に生えている。
階層主は俺たちを認識すると『ヒヒンッ!』と嘶きを上げ、前脚で地を叩いて威嚇を始めた。
「あれがバイコーンか。白かと思ったら黒いんだな」
ルルたちが『着眼点そこ?』と言わんばかりに俺を見た。
「エル、ちゃっちゃと始末してこい!」
「はいですっ!」
愛用の木製杖を携え、エルが一歩二歩と足を進める。
俺たちに動く気配がないと知覚したバイコーンが、エルにのみ深紅の双眼を向けた。
「大地の精霊よ貫け、堅磐槍!」
エルの短詠唱と共にバングルの琥珀が輝き、バイコーンの直下から幾十もの岩槍が多角的に突き上がった。
バイコーンは身動ぎ一つすること叶わずに体中を串刺しにされ、宙に浮かされた状態で絶命した。
バイコーンから大量に流出する赤黒い血が岩槍を染めていく様は、絶命してなお罰を受け晒されているかの如く見える。
「起動から十秒超ってところか。ま、いいんじゃねーの?」
「エルさん強いですぅ!」
「百歳そこそこのエルフとしては規格外よね」
「あれは痛そうにゃー」
自分が放った魔術に唖然としているエルが呟いた。
「すごい…のですよ…」
自らが行使した術式の速度と威力に困惑したエルの心理的影響なのか、岩槍がザザッと音を立てて崩れ去り、バイコーンの死骸が地に重く横たわった。
部屋の奥にある扉は既に白い光を放っている。
「自分の魔術に驚いてんじゃねーよ。獲物を持って帰るなら収納しろ。先へ進むぞ」
「は、はいなのです!」
エルがバイコーンを収納庫へ収め、俺たちは白光を放つ扉を開けて部屋を出た。
部屋を出ると、ガスの四人組パーティーが四十一階層へ降りる階段の近くで何かを囲む様に集まっていた。
どうやらバイコーンの解体作業をしているようだ。
ガスともう一人の男の装備が数か所か裂けている事から、治癒術式で治療をした後で解体作業を始めたのだろう。
俺たちの足音に気付いた四人が警戒感を露わにこちらを向き、次の瞬間には口をポカーンと開いた。
「な、な、な、何でもう出てくるんだよっ!?」
ガスが目を剥いてそう叫んだ。
俺は『バイコーンに頭でも蹴られたのか?』と思ったが、ルルたちは『ですよねー』みたいに苦笑している。
「出てきたら悪いのか?この数時間は座ってるだけで暇してたんだ。俺の暇と一緒に潰してやろうか?」
俺が目を細めてガスに問うと、アルサが立ち上がって両手をワタワタさせながら喋り出した。
「ち、違うんですっ!私たちがバイコーンを倒してから三十分くらいしか経ってないんです!それなのに皆さんが出てきたから、早過ぎるって驚いてるだけなんです!他意はありませんからっ!」
「ああ、そういう意味か。バイコーンは十秒で始末したからな」
「十秒って!?あ…あの怖ろしい武器で倒したのか?」
「いや、始末したのは俺じゃない。この貧乳エルフだ」
俺が背後にいるエルに向かって親指を指すと、エルが見せたことのない瞬速を以て俺の前に立ち塞がった。
「エルは貧乳じゃないのですっ!そ、そう、着痩せですっ!脱いだら凄いのですよっ!!」
「ガス、そういう事だ。自称、脱いだら凄い巨乳のエルが始末した」
「むきぃぃぃーっ!ルルさんフェリさん!キルアス様に何か言って…言っ…言わなくていいです…」
ルルとフェリに助けを求めたエルは、色が抜け落ちた目で二人の豊満すぎる胸を見詰めていた。
そんなエルの悲哀に満ちた後ろ姿を、アルサは慈愛に満ちた眼差して見詰めている。
なるほど、これが同類相哀れむという事象か。
貧乳女子の悲哀に満ち満ちた寸劇を鑑賞することで冷静になったガスが、幾分真剣な眼差しで俺に問い掛けてきた。
「キル、さん…だっけ?本当にそのエルさんが単独で倒したのか?それも十秒で?」
「俺は戦闘に関して嘘なんぞ吐かん。つーか、お前らに嘘を吐く意味がない。クソ面倒だが、お前らの後学のために巨乳のエルさんが見せてくれるそうだ」
俺はそう言って、眼前でアンデッド化しているエルの両脇を抱えて俺の目線の高さまで抱き上げ告げる。
「バイコーンを出して、さっきの堅磐槍だっけ?あれを実演してやれ」
エルは急に顔を真っ赤にしてコクンと小さく頷き、地面に降ろされた後も何故か俺の手を握ってモジモジしている。
「エルさんが、キル様の超近接技で落とされたですぅ。また増えたですぅ…」
「あの距離で掛けられた魅了はバンパイアの真祖より強烈よね…」
「ご主人様は何が相手でも瞬殺にゃ…」
俺は背後で意味不明な事を言っている二人と一匹をスルーし、俺の左手をムニムニと握っているエルの頭に右手を置いた。
すると、エルは斜め後方に細長く伸びている耳の先まで真っ赤にして、潤んだ瞳で俺を見上げた。
「エル、強くなり始めたお前に訪れた最初の見せ場だ。アイツらの度肝を抜いてやれ。出来るな?」
「は、はいです!あの、キルアス様、皆さんの度肝を抜いたら、エルにご、ご褒美をくださいです!」
「ん?褒美?ふむ、エルがそんな事を言うのは初めてだな。いいだろう。エルには何か褒美をやろう」
「やったです!エルは頑張るですよっ!!」
エルはふんすっと気合を入れ、ガスたちの方を向いてバイコーンを取り出した。
突然出現した無残極まりないバイコーンの死骸に、ガスたちは目を見開いて驚愕している。
「愛に覚醒したエルの魔術を披露するです!大地の精霊よ突貫せよ!堅磐乱槍!」
バングルの琥珀が先程とは比べ物にならない輝きを放ち、半径20mを超える円領域に幾百もの岩槍が見上げる程の高さまで突き出す。
余りの数と威力に階層が震撼し、壁や天井のそこかしこが崩落した。
ガスたちは漏れなく尻餅を突いて防御姿勢を取り、その顔は戦慄の色で染め上げられている。
ガスたちの様子に満足したのか、エルが満面の笑顔を俺に向けて叫んだ。
「キルアス様!エル頑張ったです!ご褒美くださいなのです!!」
「あ、ああご褒美ね。つーかさ、詠唱が変わってね?術式の規模と強度がさっきの二十倍以上あったぞ?」
「やったぁー!ご褒美が貰えるのですよっ!!」
俺の質疑をまるっと無視したエルは、俺がドキッとするような笑顔を咲かせ、両腕を広げて俺の胸に飛び込んできた。
思わず抱き留めてしまった俺の胸に顔をぐりぐりと擦り付け、『キルアス様ぁー』と蕩けた声と表情を俺に差し出した。
俺がエルの言動に困惑したまま背後に目を向けるとルルはガックシと肩を落として項垂れ、フェリは爆乳を抱え込む様に腕を組んで苦笑していた。
グリムに至っては『やっぱ頭悪いのかにゃ?』とでも言いたげなジト目で俺を見やっている。
即死の香りを拡散させた光景が夢幻であったかの如く消え去ると、ガスが未だに恐怖を湛えた目で俺を見て口を開いた。
「キルさん、エルさんがパーティーで最強…じゃないんですよね?やっぱり…」
「ん?まあ正味の戦闘力で序列を付けるなら、エルは未だに最下位だな」
「ハハハ…そうなんですか…」
俺はガスたちに『お前たちも頑張れよ』と心にもない激励を吐き、エルを抱えたまま四十一階層への階段を降りた。




