第53話 エルランテの悩み
よろしくお願いします。
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戦闘のせの字もなく、俺たちは中層といわれる三十一階層へとやって来た。
グリムなんてアクビばかりしている。
アクビのメカニズムは謎だが。
「ルル、エル、フェリ、お前たちの戦術を見てみたいから、適当に狩ってみてくれ」
「はぁーい!」
「はいです!」
「おっけー♪」
結果、三人とも出現する魔獣どもを危な気なく駆逐していった。
ルルの戦闘はエントワーズ森林で見ていたので、心配はしていなかった。
フェリは亜神であり、過去にスレインと伍したくらいだから当然問題ない。
一番の懸念はエルだったのだが、エルは俺に実力の全てを見せていなかったようだ。
エルはエルフ族の中でも希少な妖精種であり、その特長は精霊との直接契約にある。
契約できる精霊は個人の資質に依存するが、エルは火・水・風・地の精霊と契約している。
火・水・風・地の精霊は四元精霊と呼ばれており、四元の全てと契約できたエルは、妖精種の歴史でも非常に希だという。
「エル、やるじゃないか。精霊魔術は極めて短い詠唱で使えるのが最大のメリットだな」
俺が珍しく褒めたと言うのに、当のエルは浮かない表情を向けてくる。
「ありがとうなのです。でも、迷宮の深部へ行くほど、精霊魔術は強度が低くなるですよ…」
「ん?なぜ深度が影響するんだ?」
「迷宮が深くなる程、存在する精霊は少なくなるです。だから、集められる精霊力も少なくなるのですよ」
エルの解説に因ると、精霊魔術はエルが起動した術式を、契約している精霊が行使する。
その際、契約精霊は自分の精霊力だけでなく、周辺に存在する精霊の精霊力を少しずつ分けて貰って術式の強度を上げるという。
ふーむ…理屈は解るが、納得は出来ないな。
精霊力が少なくなるなら、多く集める工夫をすればいい。
仮にエル自身の能力では出来ないとしても、俺やフェリに『何か良い方法はないだろうか?』と聞くくらいはすべきだろう。
そうでなければ、そもそも俺に付いて来た意味がない。
「じゃあ聞くが、エルは迷宮深部でどう戦うつもりなんだ?」
「精霊魔術以外の魔術で戦うしかないのです…」
「精霊魔術以外なら迷宮の深度は関係ない、という事だな?それは何故だ?」
「え…自分の魔力を使うからですよ?」
「魔力が枯渇して、魔力回復薬も底を突いたらどうするんだ?」
「それは…キャンプをするか、帰還するしかないです」
エルは頭が固すぎるな。
自分の強みが精霊魔術なのを理解しているのに、それを活かそうとする志向がまるでないとは。
「エル、お前が四元精霊と契約したのは何年前だ?」
「五十年くらい前なのです」
「じゃあ、五十年前のエルの強さを仮に100としたら、今のエルの強さはどれくらいだ?」
「…120くらいだと思うです。エルには、キルアス様の質問の意図が解らないのですよ!」
「だからお前は強くなれないんだ。自分の強みを捨てて、どう強くなるんだ?」
「エルもいっぱい、いーっぱい考えたです!でもでも、どうすれば良いか解らないのですよ!」
エルの悲痛な表情にルルは同情している風だが、フェリは俺を見て苦笑している。
フェリには俺の意図が解ったのだろう。
この辺がルルとフェリの差だな。まあ、経験値が大きく違うと言えばそれまでだが。
「エル、お前は強くなりたいから俺に付いて行きたいと言った。それは、エル単独だと強くなれる気がしなかったからじゃないのか?」
「…はい、そうなのです」
「ならば、何故お前は未だに独りで強くなろうとしている?それで俺に付いて来た意味があるのか?」
「え…」
「お前は本当にアホだな。俺が最初にエルの同行を拒否したのは、エルに頼られるのが面倒だったからだ。しかし、父上がテスラ大公としてエルの同行を頼んだからこそ俺は承諾した。それはな、俺がエルに頼られる事を渋々ながらも承諾したという意味だ」
「キルアス様…」
「何だ?俺の名前を呼べば強くなれるのか?それがエルの死に物狂いか?もしそうならお前は今すぐ城へ帰れ。足手纏いどころか、只の邪魔者でしかない」
「い、嫌なのですっ!エルは帰らないのです!キルアス様、教えてください!エルはどうすれば強くなれるですか!?エルはどうすれば、宮廷魔導士としてテスラを支える事ができるですかっ!?」
はぁ、やっとスタートラインに立ったよ。
俺は師匠でも先生でもねーんだから、最初から『私をサクッと強くしてください!』って言えばいいんだよ。
「最初からそう言えこの駄エルフが。エル、魔力を使う魔術の強度は地上でも迷宮の底でも同じだ。その理由を説明できるか?」
「えっとえっと、魔力は擬似器官で作られて…自分の魔力袋の容量に応じて供給されるから…です?」
「まあそんな感じだ。正確には、虚無空間にある魔術器官で作られた魔力が現界と位相を合わせて次元間転送されるから、現界での座標と魔術強度は関係ないわけだ。根本的には時空魔術の理に則した事象だが、これは召喚魔術で代替することも可能だ」
「あっ!?精霊力を…召還するです?」
「ったく、素直になれば一分もかけず答えに辿り着いてるじゃねーか。迷宮に精霊力が無いなら、有る所から持ってくればいいだけだろう?」
「でもでも、エルは時空魔術も召喚魔術も使えないです…」
「まだ言うかドアホ。自分で出来ないなら、出来るヤツに助けて貰えばいいだろうが!」
「…え?キルアス様がエルに精霊力をくれるです?」
「はぁ…お前は想像力の飛距離が短過ぎるぞ。もっと柔軟に思考しろ。お前が収納庫を使う時、俺は毎回手伝っているか?」
「あぁっ!?キルアス様の魔道具で転送してるですよっ!」
「あれも次元間転送だろうが。精霊力を魔道具で転送すれば、何時でも何処でも精霊魔術の強度は変わらないだろう?」
「キルアス様は…天才なのですよっ!!」
俺は『お前がアホすぎるのですよ!』とエルを斬り捨て、『ガーン…』と声に出して落ち込んでいるエルを尻目に精霊力転送用の魔道具を造り始めた。
この世界の奴らは魔術が無限の可能性を秘めているという認識が足りない。
と言うか、このテーマは“火魔術を使えない一般人が着火の魔道具を買う”と思想は同一だ。
「ほれ。このバングルはミスリル製で、地上で精霊が多く存在するとされる場所にゲート接続してある。で、バングルに埋めた四種の宝石はルビーが火、アクアマリンが水、翡翠が風、琥珀が地を象徴している。エルが契約してる四元精霊の媒体として使えば、よりスムーズで高威力な術式発動が可能だろう」
「ありがとうなのです!エルはこのお礼を…か、かか体でお返しするですっ!!」
ルルとフェリがスタ●ド的なモノをズキューン!と出してエルを睨んでいる。
自分たちの日頃の言動にエルが毒された結果だとは思わないのだろうか?
つーか、俺は幼児体型に興味ない。
「エルがグレイス級の体に育ったらな」
「はうっ!?あんなエッチな体になるのは不可能なのですよ…」
「じゃあ強くなってテスラに貢献しろ。因みに、精霊力に魔力を添加なり融合なり出来るようになれば、ここぞという場面で使える極大魔術への昇華も可能だろうな」
「が、頑張るです!」
こればかりは俺が手軽にどうこうする事は出来ない。
俺の闘魔融合や魔魂融合のように、固有スキルとしての会得が必要だろう。
まあ、多少の助力は可能なのだが。
この辺の魔獣では訓練にすらならないので、俺たちは先へ進むことにした。
俺はエルが多少の自信を得る切っ掛けとするべく、四十階層の階層主単独撃破をエルに課した。
エルは『え゛っ!?』という顔をしたが、四十階層の階層主など危険種一歩手前の弱キャラでしかない。
自分の強さを正確に把握する事も強くなるための重要な要素だ。
「キル様はやっぱり優しいですぅ♪」
「ウフフ、素直じゃないのはキルも同じね」
「…意味がわからん」
エルに優しくしたつもりはないし、自分の欲求に対してはかなり素直だと自覚している。
俺はルルとフェリが言っている意味がリアルに解らなかった。
四十階層に着くと、階層主の部屋の前には三組の探索者パーティーが待機していた。
一番前のパーティーは体を解しながら戦術の確認をしているようだ。
残りの二組は地面に座り込んで、装備の確認をしたり、干した果実を齧ったりしている。
俺たちが最後尾に付くと、俺たちの前で待機している四人組パーティーが話し掛けてきた。
その四人は男二人が前衛職で、女二人が後衛職のように見える。
「見ない顔だが、あんた達この階層は初めてか?」
「ああ、初めてだ」
「ふーん、余裕があるんだな。よその国の探索者とかか?」
「いや、テスラの探索者だ。お前たちはここの常連なのか?」
「俺たちは五回目だから、常連になりかけってとこだ。それにしても…あんた変わった武装だな。その右脚の武器は何だ?」
うん、こいつ非常にメンドクサイ。エル臭がする。
「殴れる魔術発動体みたいなもんだ。まあ、気にするな」
「いやいや気になるって。そんなの見たことないからよ」
「ちょっと止めなよガス!初対面の人の装備を詮索するなんて失礼だよ!」
魔術師であろう女性がガスという名の男を制止した。
その弁えた態度には好感が持てる。
「何だよアルサ、別にいいじゃないか。お前だってあんな武器見たことないだろ?」
「そういう問題じゃないの!あの、すみません。ガスは興味を持つと『教えろ教えろ』っていつも五月蠅いんです。無視して構いませんから」
「なっ!?知らない物事を知りたいと思って何が悪いんだよ!アルサだって知らない術式を見たら『それ何の系統ですか?』っていつも聞いてるじゃねーか!」
「私が聞くのは仲良くなった人だけでしょ!」
ああ、ガスは“教えてちゃん”のエルと同類らしい。
アルサという子は“初対面の人の”って前置きしただろうに。
「なあ、どんな風に使うのか教えてくれよ。それくらいいいだろ?」
「はぁ…教えたらその口を閉じるか?」
「その言われ様には少しカチンとくるが、教えてくれたらそれ以上は詮索しねーよ」
荷電粒子砲の理論を説明しても理解できる訳がないので、俺は単パルスモードで実射する事にした。
俺はストライクガンを抜き、荷電出力を3%に絞って階層主の部屋とは反対側の壁に向けて撃った。
―――ドゴンッ!!
長さ50cm程の白い光の線が射出され、壁に直系30cmの真円穴が穿たれた。
壁に埋蔵されていた緑光石が穿たれた穴の内部を照らすが、穴はどこまでも続いているかの如く、その奥端を視認する事は出来ない。
ガスのパーティーメンバーは当然ながら、俺とガスのやり取りを見聞きしていた他の探索者たちが呆然としている。
破壊音だけを聞いた探索者たちもこちらを向き、一体何が起こったのだと騒ぎ始めた。
「これでわかったか?どういう原理だとか聞いてきたら、その頭を吹き飛ばして体感させるからな?」
ガスのみならず、射撃を直視していた探索者の全員が顔を引き攣らせてコクコクと頷いた。
俺が一仕事終えたという風に座ると、ルルたちが一斉に口を開いた。
「今日もキル様は怖ろしいですぅ!ルルはキュンキュンするですぅ♪」
「皆さんが危険種を見る様な目で見ているのですよ…」
「それで頭を撃たれたら、吹き飛ぶどころか頭蓋骨の欠片すら残らないわよ?」
「最後の台詞は極悪にゃ」
黒猫形態のグリムが喋った事で、呆然としていた探索者たちが俄に騒ぎ始めた。
俺はグリムに念話で『ムダに喋るな!』と怒鳴り、騒ぎ始めた探索者たちを睥睨した。
一様にスッと目を逸らした探索者たちの対応に満足した俺は、収納庫から果実水を取り出して喉を潤す。
ルルは串焼きを取り出して齧りつき、エルはリンゴを齧り始めた。
俺が飲む果実水を凝視しているフェリに気付いた俺は、『フェリの収納庫は時間が流れてるんだったな』と思い、フェリにも冷えた果実水を渡した。
拡張バッグではなく虚空から次々と出現する食品を見た探索者たちが、ヒソヒソと囁き合い始めた。
その事態に我慢ができなかったのか、ガスが一言呟いた。
「あんた達…一体何者なんだよ…」
「バ、バカッ!ガスあんた死にたいのっ!?」
咄嗟に叫んだアルサの一言で、この場における俺の称号が“潜在的殺戮者”に決定した。
非道い話である。
チラチラ向けられる視線と、ヒソヒソ囁かれる言葉をまるっと無視しながら、俺は自分たちが階層主の部屋へ入る番を待った。
二時間ほど待った時点で、未だにガスのパーティーが待機している状況にイライラした俺は、エルに疑問を投げかけた。
「おいエル、ここの階層主は三十分くらいで再誕するんだろ?何でこんなに時間がかかんだよ?」
「キルアス様の物差しで測ると長く感じるかもですが、普通は階層主を倒すのに短くても三十分はかかるです。キルアス様みたいに全てを秒殺どころか瞬殺する方が、極めて異常なのですよ?」
極めて異常…だと?三級危険種にも満たない魔獣如きに三十分?
エルのやつめ、精霊力転送の魔道具をゲットした途端に強気な発言をするようになりやがったか?
「じゃあ聞くが、エルはここの階層主を始末するのに、どれだけの時間が必要だと予想してんだ?」
「それは…一撃で倒せると思うですよ」
「だろう?エルは数日前までBランクだった。中層に進入できる探索者もBランクのAAなんだからエルと同じじゃねーか。それで三十分もかける方が異常だっての」
俺がそう言った途端にエルが『えっ!?』という表情をして、ルルとフェリの考えを伺うかの様に二人へと視線を送った。
エルの視線を受けたルルとフェリは、小さく首を振りながら苦笑するだけだった。
俺は一見して意思の疎通が成立している三人を見ながら、思い当たる節が欠片もない自分に苛立ちを覚えた。




