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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第49話 クレマンティス?


 魔女の住処へ歩きながら、俺はフェリの生活習慣について考えていた。

 フェリの活動時間帯は日暮れから日の出までと、完全に逆転している。

 千年に及ぶ逆転生活を矯正できるのだろうか?


「フェリ―、来たぞー」


「はーい♪お入りなさいなー」


 奥から出てきたフェリは、ルルを見て一瞬だけハッとした表情を見せたが、直ぐにいつもの艶やかな笑顔を浮かべた。

 横目でチラリとルルを見たら、獣が獲物の強弱を見極めるかの様に目を細め、フェリをじっくりと観察している。


「フェリ、看板が出てなかったけど片付けたのか?」


「ええ、このタイミングでお客さんが来ても困るでしょ?あたしはもうキルが居ればそれだけでいいし♪」


「魔女さん!フェリさん!キル様はルルの大切な人です!絶対に渡しません!」


 ルルがハキハキと喋っている。

 気持ちが昂っている時だけ普通に喋るとか、どうなんだ。


「キルの仲間って銀狼とエルフだったのね。二人とも若くて可愛いわ。でもね、あたしもキルを譲る気なんてないわよ?」


 ウフフフフフ…と妖しく笑うフェリに、ルルは少し怯んでいる。

 案の定な展開に思わず溜息を漏らした俺は、どうしたもんかと思考する。


「大魔女フェリカさん、私はテスラ宮廷魔導士エルランテ・ルナ・ファールなのです。お会い出来て嬉しいのです!」


「初めましてエルちゃん。ファールって、月環の森に住む精霊大魔導の?」


「そうなのです!エルは師匠であるお爺ちゃんから、フェリカさんの話を聞いたのですよ!フェリカさん、若くて綺麗でビックリなのです!」


「あら、ありがと♪実直な性格はお爺さん譲りかしら?それで、ルルちゃんはルルエンテの…曾孫ってとこかしら?」


「えっ!?フェリさんは曾お婆ちゃんを知ってるですかぁ?」


「知ってるわよ?ルルちゃんがルルエンテに瓜二つだから、少し驚いちゃったわ」


 これは予想外の展開だ。一発でフェリが優位に立った感じだな。

 隠れ住んでたと言う割りにはウロウロしてたのか?

 まあ、千年も生きてりゃ知己も増えるって話か。


「全く知らない仲でもないらしいな。これから一緒に暮らすんだ、懇親にしろ喧嘩にしろ、俺を怒らせない範囲で好きなだけしろ。さあ、屋敷へ帰るぞ」


「「「はいですぅ…(ハイです!)(お引越しね♪)」」」


 下手したら朝までコースだと覚悟していた俺は、サックリ帰宅できる展開に満足だった。


 屋敷に着いてフェリの住人登録を済ませ、部屋を選ばせる。

 フェリは『ルルちゃんの隣室がいいわ♪』と即決し、それにルルは戸惑った様子だ。


「ねえキル、あたしの素材を保管させて貰う場所ってあるかしら?」


「ああ、地下一階に収納があるし、庭には工房棟もある。何なら、工房棟で魔女の住処的な商売をしてもいいぞ?」


「それも悪くないけど止めとくわ。これからはキルだけにご奉仕するって決めてるから。昼も夜もね♪」


「うぅ…グレイスさんより強敵ですぅ…」


 ほほぅ。終始劣勢で弱ってるルルってのも新鮮だな。

 ちっと可哀想な気もするが、下手に介入すると墓穴を掘ってしまう。

 触らぬ亜神と銀狼に祟りなし、だ。


「そうだフェリ、これお前にやるから使えよ」


「えっ!?師匠の戦杖…いいの?」


「ああ、ロックは外しといたからフェリなら使えるだろ。直弟子が使えばスレインも喜ぶんじゃねーか?」


「うん…ありがとう、キル」


「それとだなフェリ、今後は朝起きて夜寝ろよ?冒険者と探索者の生活だからな」


「わかってるわよぉ。夜型だったのは、お店の看板がそういう仕様だったからなの。昼間は幻惑が効きずらいから」


「じゃあ問題ないな。あ、フェリの冒険者と探索者ランクを忘れてたな…」


「あたしSとAAなら持ってるわよ?」


「マジか。何も持ってなかったのは俺だけかよ」


 こうして俺たちは迷宮探索への準備を着々と整えていった。

 ちょっと順調すぎる気もするが、下手な油断さえしなければ大丈夫だろう。


 今日はギルド訪問、買い物、鍛冶師探しでウロウロしたせいか、眠気を感じている。

 俺は楽しみにしていた風呂に入って寝ることにした。

 皆には『書斎で術式を考える』と伝え、俺はコソーっと風呂へ向かった。

 洗体をしながら『シャンプーとボディソープが必要だ』と考えていると、グリムがコソーっと風呂に入ってきた。


「お前、よくわかったな?」


「ご主人様の気配と魔力が完全に消えたにゃ。逆に怪しいにゃ」


「お前はどこのプロフェッショナルだよ…」


「書斎にダミーを置けばいいにゃ」


 使い魔に隠密の何たるかを示唆された俺は、悔しいながらも『違いない』と思う。

 グリムの体を洗ってやり、俺とグリムは頭にタオルを乗せ、湯船に浸かった。

 タオルも洗体用のが欲しいなぁ。


「あ~たまらんなぁ~」


「最高にゃあ~」


 色惚けオオカミと発情魔女に襲われることもなく風呂を堪能した俺は、屋上庭園に出て風呂上りの果実水を呷った。

 キンキンに冷えたビールがあれば最上なんだがなぁ…と思いつつ、再びコソーっと自室へ戻りベッドに潜り込む。


「クソ…ここかよ…」


 俺は神速を以て照明を点けガバッとシーツを剥いだ。


「ルル、フェリ、俺のベッドで何をしている?」


「もぉキルったら…わかってるくせにぃ♪」


「ルルはキル様に愛されたいですぅ…」


「首謀者はフェリか?」


「んー共同戦線、かな?」


 ルルとフェリは着ている意味の全くないスッケスケのワンピース姿だ。

 しかし、流石に俺だって抵抗力もついてくる。


 共同戦線の意味を聞くと、ルルとフェリは独占するのではなく、平等に愛される方向で合意したという。

 しかも襲い掛かるのではなく、俺が手を伸ばすまで待ち続けるとまで言った。


 この世界には“強い男に複数の女が侍るのは当然”という迷惑千万な常識がある。

 ルルの父親も祖父も曾祖父も、二人ないしは三人の妻を娶っていたらしい。

 そこを上手いこと突いたフェリはルルの懐柔に成功し、俺が怒り狂う可能性の高い入浴時を避け、寝室を戦場に選んだらしい。


 計算された戦術に迂闊にも感心してしまった俺は、グリムのみならずルルとフェリにまで入浴を悟られていた事実に、悔し涙を飲んでしまった。


「あーもうわかったから。そこまで語られると、逆に自分が甲斐性無しかと思ってしまうだろーが」


「キル様、ルルは本気ですぅ。キル様と初めて会った模擬戦の時、ルルはキル様をカッコイイと思ったですぅ。そしたらキル様が『見惚れるくらい可愛くてプロポーションも抜群』って言ってくれたですぅ。ルルは『強い』とか『魔族殺し』って言われても、『可愛い』って言われたことなかったですぅ。だからルルはずっとキル様の傍にいたいし、出来れば愛して欲しいですぅ…。ダメですかぁ?」


「ったく、生まれたての動物のすり込みかよ」


「あたしもルルちゃんと同じよ。キルが初めて店に来たあの夜、ずっと止まってた時間が動き出したの。夢も希望もなく、色さえも褪せてた世界に、キルは喜びと愛しさを運んできてくれた。だからあたしは、キルと自分のために生きるの。これだけは絶対に譲らないわよ」


「はぁ…。わかったわかった、二人とも好きにしろ。俺も嫌いなヤツを仲間になんかしないっての。但し、“愛してる”と“嫌いじゃない”の間には、空の果てよりも遠い距離があるからな?」


「ルルは空の果てよりも遠くまで走って、キル様を捕まえるですぅ♪」


「あたしは次元を越えてでもキルを捕まえるわ♪」


 こういうのをリア充と言うのだろうか?据え膳?ご馳走?

 まぁ、二人に満面の笑顔を向けられるのが嫌なわけじゃない。

 取り敢えず“Yes”か“No”で片付く問題は、ギリギリまで先延ばしの方向で。


 俺は柔らかすぎる四つの膨らみに理性を掘削されながら、それを打倒する睡魔の到来を待ち望んだ。



◆◆◆◆◆◆



『キル?おーいキル?キルってば!!』


『ぁあ?…あ?…僕神か?』


『いい加減に名前で呼んでくれない?僕の名前、憶えてる?』


『くれ…くれ…クレマンティス?』


『クレアティオンだからっ!!』


『あーそれそれ。しかし久しぶりだな。そうでもないか?』


『人として生きてるキルにすれば久しぶりかもね』


『で、急にどうしたんだ?問題発生か?』


『そうじゃないよ。むしろキルの左右にいる女性の寝姿が問題じゃない?しかも一人は破壊神アレストクスの眷属だし。キルはさ、節操って言葉を知ってかな?』


『ノーコメントで…』


『ま、僕としてはキルの血統がこの星に根付くのも嬉しいけどね。ところでキル、テスラ大迷宮に行くんだよね?』


『ああ行くぞ。それがどうした?』


『死滅のエレメントを解放した時に出た奴がいたでしょ?』


『黒い天使(仮)な。魔術が効かねーからちっと焦ったぞ』


『僕もアレが何かは判らない…って言うか、今はまだ判然としない。ただね、テスラ大迷宮の最奥に、アレが出てくるかもしれない』


『へぇ、何故そう思う?』


『僕でさえ判らないアレは、この世界のモノじゃない。だからウィスドムに記録層の深いところを調べて貰ったんだ。そしたらね、アレと似た波動を持つ何かが、過去に一度だけテスラ大迷宮の最奥に干渉しようとした記録が見つかったんだ』


『それいつ頃の話だ?』


『僕が第六柱を成した頃だね』


『第六柱って言うと破壊神か。あ、その頃はまだ闘神か』


『そうだね。確証のない可能性だけの話ではあるけど、一応は気には留めておいてよ。それとね、キルにまだ渡してない武器があるんだ』


『武器?二つともテクノロジェから受け取ったぞ?』


『それとは別にあるんだよ。って言うか、地球で拾って来た』


『は?意味わからんぞ』


『神木刻斗の出生地に、鬼神の巨岩が在ったでしょ?あの巨岩の中に、鬼神が使ってた武器が封印されてたんだ。キルが最後の戦場にいた頃、僕はその武器に気付いて拾っておいたのさ』


『お前さぁ、それ窃盗じゃね?』


『えぇ!?元々の所有者が神木刻斗の中に眠ってたんだから、拾ってキルに返すだけでしょ!』


『あぁ、なるほど。物は言い様だな』


『ひどっ!完全なる善意で拾ってきたのに!あ、要らないの?かなり強力だよ?神鋼より凄いよ?地球に返してこよーか?』


『あー、お前はやっぱり僕神だわ。ま、貰ってやるからサクッと寄こせ』


『あー、やっぱりキルだよ。神を神、人を人とも思わない悪魔的思考』


『うるさいよっ!』


『ふーんだっ!テクノロジェに渡してあるから受け取りなよ!じゃーね!』


『ちょっと待て。お前、色葉を助けてくれてたんだろ?ウィスドムは詳しく教えてくれなかったけど、俺はそう感じた。だから、さんきゅーな』


『もう…そいうとこも、やっぱりキルだね。お礼は受け取ったよ!キルも頑張ってくれてありがと!じゃ、またね!』


 僕神の存在値が薄まり、俺の意識が覚醒する。

 今なら明確に判る。やはり僕神は、五柱神を遥かに超えた力を持っている。

 腐っても僕神、いや、忘れられても創造神、か。


 俺は体を起こして『ん~っ』と背伸びをした。

 カーテンの隙間から、夜明け前独特な薄紫色の光が差し込んでいる。


「…確かにこいつらの寝姿は問題だな。ルルは下も銀髪か…」


 銀髪vs無毛…甲乙つけ難いかもしれん。

 俺はアホか?いや、むしろ健全か?


「あ゛ぁーっ!早起きしたぞ!誰か三文よこしやがれー!」


 俺は絡み付く二人を引き剥がし、身支度を整えて大聖堂へと向かった。

 大聖堂に着いた俺は、シスターにお布施を渡して告白の小部屋へ入った。


『おーいテクノロジェ、いるか?』


『おるぞぉ!この武器を取りに来たか。ちと早過ぎるぞ』


『なんでだよ?』


『そんなもん、儂が弄ってみたいからに決まっているだろう。これ程の業物、今の儂には造れんのでな』


『そんなにか?』


『応ともよ。刀身の自重だけで神鋼がスッパリ切れよるわ』


『そりゃすげーな。地球にも技神っているんかね?』


『どうだろうの。在るなら会うてみたいものだわい。さて、名残惜しいがこれはキルアスの物だからの。ほれ、受け取れ』


『っと、スゲー重たいな。テクノロジェ、ちっと聞きたい事があるんだが、いいか?』


『応とも。業についてなら、何でも教えてやるぞい』


 俺はテクノロジェに金属加工技術に関する疑問を投げかけ、テクノロジェは事細かに答えてくれた。


『助かったよ。ありがとな』


『気にするな。装備に困ったら何時でも来るがいい。ではな』



 テクノロジェから受け取った武器は、紛れもない刀だった。

 鍔は無いが、鞘と柄の造りや反りの小さな刀身は、古い時代の大太刀を想起させる。

 刀身の重ねが異常に分厚く身幅も広いため、重量感が並ではない。

 筋力要求は当然ながら、身長195cmの俺をして、漸く抜刀できるかという程の長太刀だ。


「装備用に仕立てる必要もあるし、今度ガクトに見せてみるか」


 左手に握った大太刀に漢の浪漫を感じながら、俺は屋敷への道を闊歩した。


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