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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第46話 冒険者ランク


 宿の部屋へ戻ると、案の定ルルが不穏な気配を纏って椅子に座っていた。

 俺が『帰ったぞ』と言うと、“それだけ?”という文字が双眼に書き込まれた。


「キル様!ルルは心配してたんですぅ!」


「それは心配してるヤツの目じゃないだろうに。素直に“怒ってる”と言え」


「ルルは怒ってるですぅ!キル様は魔女さんと何してたですかっ!?まさか…ナニですかぁ!?」


 こいつも悟りの能力持ちかっ!?と内心で思いつつ、素直さはルルの特長だと思ったりもする。

 揉んだり摘まんだりしたがナニはしてない俺は、体の良い言い訳を返す。


「んなワケねーだろうが。使い魔を造ったら魔力枯渇で気絶したんだよ」


「キルはフェリカと一緒に寝てたょ?」


「っ!?ラウニだって俺の顔の横でグースカ寝てたろーが!」


「ラウニも寝てたー。だってキル起きないんだもーん」


 このアホ妖精は、とんでもないキラーショットを撃ち込んできやがる。

 ルルは『寝てたぁ?』と剣呑な視線で俺を刺すが、エルは全く別の反応を示した。


「キルアス様の全魔力を受けた使い魔が出来たですかっ!?」


「ああ、俺の記憶やら知識やら、一部の魔術系統にスキルまで受け継いだ使い魔が出来た。しかも知性まであるから、普通に喋るぞ?」


 エルの知識からしてもグリムの仕様というか性能は埒外らしく、唖然とした顔をして疑問を重ねてきた。


「使い魔が喋る…ですか?それで、使い魔はどこなのです?」


「性能評価を兼ねて、迷宮にルシェの遺品を回収に行かせた。本人は『簡単にゃ!』とか言って、嬉々として迷宮に向かった」


「使い魔さんは『にゃ』って言うんですかぁ?ルルも会ってみたいですぅ!」


「見た目を黒猫仕様で造ったからな。にゃーにゃー言ってるぞ。因みに名前はグリムだ」


 ルルはグリムの話で不機嫌だった事を忘れたようだ。これも素直さの一端か。

 昨夜から何も食べていない俺はラウニを肩に、ルルとエルを連れて食堂へ朝食を食べに向かった。


 相変わらずボリューム満点の朝食を食べながら、引っ越しやら鍛冶師探しやらの段取りに思考を巡らす。

 ラウニも切り分けた果物を食べているが、周囲の視線など無視でいいだろう。


 三人とも荷物は収納庫に放り込んであるので、引っ越しと言うよりは、足りない家財道具の調達と言うべきだろう。


 鍛冶師は商業区で聞き込みかなぁ…と考えていたら、ルルとエルの視線が俺から外れ、床を見るような低い位置へと移った。


 何を見ているのかと俺が振り返ると、そこには猫っぽく片腕で顔を拭っているグリムがいた。


 グリムは俺と視線が合うと『にゃあ~』と一鳴きして、俺の膝上に跳び乗った。

 続けてラウニがグリムの背に跳び乗った。

 ラウニのためにグリムを造ったかの如く、二匹のサイズはマッチしている。


「グリムさんですかぁ?」


「にゃあー」


「綺麗な黒猫さんなのです!」


「にゃ♪」


 どうやらグリムは人語を喋らないよう努めているようだ。

 俺はグリムが迷宮へ向かって二時間も経っていない事を考え、念話でグリムに疑問を投げかける。


『グリム、遺品回収はどうした。まさかダメだったとは言わないよな?』


『もう回収したにゃ。七十九階層に落ちてたにゃ。遺品は七十一階層にいた探索者パーティーの荷袋に放り込んできたにゃ!』


『往復200kmと七十九階層の往復で二時間弱か…やるじゃないか。つーかお前、気配隠蔽だけじゃなく魔力隔離まで出来るのか?』


『できるにゃ。これができなきゃ隠密行動はムリにゃ?』


 こいつは予想以上に使えそうな気がする。

 俺は他の疑問をグリムからの記憶転送で確認した。


 記憶によると、グリムは擬態も得意のようだ。

 フェリが『水銀を混ぜるのは擬態や流体化のため』と言っていたが、グリムの擬態能力は秀逸とさえ言える。


 グリムはどこにでもいる様な人間の探索者に擬態し、装備や探索者証まで擬態で誤魔化して迷宮に潜ってきた。


 グリムの記憶で俺が最も驚いたのは、公都から迷宮までの往復と、迷宮内での移動速度だった。


 グリムは猛禽類のような鳥型に擬態して往復200kmを快翔し、迷宮内では仕掛けられたトラップを全て回避した上で、魔獣や階層主に察知されることすらなく七十九階層まで進入している。


『迷宮の最奥とやらにも、グリムが行けばいいんじゃないか?』


『ご主人様、たぶんムリにゃ。八十階層には階層主がいるにゃ。未到の階層主とは強制戦闘になるみたいにゃ』


『グリムじゃ勝てないって意味か?』


『百六十階層までは勝てると思うにゃ。でも、百八十階層は微妙にゃ』


 俺はグリムの記憶を更に読み込む。

 グリムは迷宮入口にあるギルド出張所で、過去に討伐された階層主の情報を確認していた。


 階層主は二十階層毎に存在し、その強さは倍増していくようだ。

 グリムの推測によると、百六十階層に存在する階層主の強さが、特級危険種のフェンリルと同等になるらしい。

 であれば、百八十階層の階層主は、フェンリルの倍は強いことになる。


 ネコのくせにフェンリルに勝てるとか言ってるグリムも異常だが、百八十階層の階層主が神獣クラスの倍も強いというのは異常だ。

 普通の探索者では最奥まで辿り着けない。ん?…意図的な設定か?


 と言うか、迷宮は何階層まであるんだって話だ。


 グリムの探知能力では百七十九階層で限界だったようだが、『最奥って百階層くらいじゃね?』と考えていた俺の希望的観測は脆くも崩れ去った。



 ふと気付くと、ルルとエルが『使い魔と見詰め合ってるの?』みたいな目で俺を見ていた。


 まあ、記憶を読むのに見詰め合う必要はないのだが、視界内に居れば見てしまうというものだ。

 むしろ、獣人やら妖精やらが普通にいる世界で、ネコが喋るくらい何てこともないだろう。


「グリム、念話も面倒だから普通に喋っていいぞ」


「いいのかにゃ?猫人族が喋るのと、僕が喋るのは違うのにゃ」


「にゃって言ってますぅ!可愛いですぅ♪」


「凄く流暢に喋るのですよ!?」


「僕はご主人様の使い魔グリムにゃ。ルル様とエル様、よろしくにゃ!」


 ルルとエルの視線と意識がグリムに釘付けであると同様に、周りのテーブルに座っている客たちも、俺の膝上で普通に喋っている黒猫に釘付けだ。

 俺は大きめの声で『よし、ネコ語翻訳術式の完成だ!』と言ってみた。



 周囲の騒めきが食堂中に伝播した為、俺は部屋へ引き上げようと思い席を立って食堂を出た。

 すると、宿の玄関で女将に手紙を渡しているリリアーデに出くわした。


「リリアーデじゃないか」


「あ、キルさん。ちょうど良かったです。審査が終わりましたので、お時間がある時にギルドへ来てください」


「早すぎないか?最短で三日って話だったよな?」


「今朝、状況が急変したんです。それも含めてギルドで説明しますので」



 家具を買いながら鍛冶師を探そうと思っていたが、審査結果が出たならそっち優先だ。

 俺たちはリリアーデと共にギルドへ向かうことにした。

 ラウニが定位置である俺の右肩へ座ると、グリムが左肩に前脚二本を引っ掛けて顎を乗せ、ダラーっとぶら下がった。


「お前、殆ど金属で出来てるくせに軽いよな?」


「重力魔術にゃ」


 器用なネコだと思っていると、リリアーデがアワアワしながら口を開いた。


「キルさん!?猫が、猫が喋ってますよっ!?」


 ギルドへの道すがら、『そんなこんなで、喋る使い魔が出来上がったんだ』とリリアーデに説明する。

 リリアーデは使い魔の事をよく知らないらいしく、『使い魔って凄いんですねぇ』と感心している。

 まあ、俺も使い魔に詳しい訳じゃないんだが。


 ギルドへ到着すると、グレイスの執務室ではなく、四階の賓客応接室に通された。

 リリアーデが応接室の扉を開けると、ソファに座る男性二人の後ろ姿があった。


 その向かいのソファでは、グレイスが脚を組んで悠然と紅茶を飲んでいる。

 どうしてこう一々エロく見えるんだろうか?


「来たわね…って、どうして妖精と黒猫が肩に乗っているのかしら?キルって普通に来たことがないわよね」


「ああ、グレイスは妖精が見えるんだよな。こいつはラウニ、猫はグリムだ」


「ダークエルフだぁ♪フェリカと同じでおっぱい大きいねー」


「おっぱい姉さん二号にゃ!」


「流石にキルが連れているだけはあるわね…。それに余り驚かない自分が怖いわ…」


 グレイスの引き攣り顔を他所に、俺たちに背を向けていた男二人が立ち上がって振り向いた。


 一人は二つの騎士団を統べる騎士団長であり、リリアーデの兄でもあるグレン、もう一人はガチムチで無精ヒゲのおっさんだ。

 後ろ姿で一人がグレンなのは判っていたが、おっさんの方は初見だ。


「キルアス殿下、本日は陛下の命により罷り越しましてございます。どうぞ奥へお座りください」


「キルアス第二大公子殿下、私は探索者ギルドにてギルドマスターを務めております、ラッグス・ライル・ベイルロードと申します。ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます」


 何故この展開なのかは判らないが、俺は取り敢えずグレンが勧めるとおり上座のソファに座った。

 ルルとエルは相手が俺を“殿下”と呼んだことを受け、気を回して俺の背後に立ったまま控えた。


 グリムは俺が座ったソファの肘掛けに降り、前脚を伸ばしたままで背筋をピンと張り、泰然と座った。グリムはTPOまで理解できるらしい。

 ラウニはグレンとラッグスに自分が見えていない事を理解した上で、相変わらず俺の肩に座ったままだ。


「キルはテスラの王子様なのー?」


「ん?ああ、俺はテスラの王子様二号だな。ラウニが気にする事じゃないさ」


「うん、ラウニは気にしないよー」


 ラウニも王子様向けの対応にするのかと思ったら、ただ聞いてみただけらしい。


 グレンは俺が自分の肩に向かって話している事など気にしていないが、ラッグスは目が“???”になっている。

 どうしても気になるなら、後でグレイスにでも聞いてくれ。


「父上の命とはどういう事だ?敢えて俺を殿下呼びする理由も解らん」


「先ずは経緯をご説明申し上げます」


 そう切り出したグレンの説明によると、事の発端はルシェの遺品発見の一報にあるという。


 今朝一番で探索者ギルドの迷宮出張所へ帰還した探索者パーティーが、帰還通知と素材売却をしようとしたところ、身に覚えのない装備品が荷袋に入っていた。


 その装備品にはルシェの探索者証と宮廷魔導士の紋章が含まれていた為、ギルドは召喚獣を使って伝書と探索者証、そして紋章を宮廷へ届けた。


 それを受けた軍務卿は、即座に父上へ報告を上げた。


 探索者パーティーの『身に覚えがない』という証言から、父上は俺が何らかの手段でルシェの遺品を回収したと考えた。


 しかし、宮廷魔導士第一席であったルシェの死亡を正式公表するには、遺品を発見した探索者が『わかりません』という状態では都合が悪い。


 父上はグレイス宛てに使者を立て、俺が何をどうしようとしているのかを報告させた。


 結果、父上は冒険者ギルドと探索者ギルドを巻き込んで、俺の迷宮探索を正規に遂行させるべきとの判断に至った。


「あそ、やだねぇ王権って。俺のここ数日間の努力がムダじゃねーか」


「そう仰せられますなキルアス殿下。ここは陛下のご心中をお察しなさるのも、親孝行かと愚考致します故」


「わかったよ。ここは父上とグレンの顔を立てるとするか」


「畏れ入ります」


 ま、危険種の素材とか手に入ったし、全部が全部ムダって訳でもないか。

 父上にしても、破壊神討伐に迷宮探索が必須だと解った上での判断だろう。


「で、俺の冒険者ランクと探索者ランクはどうなるんだ?」


「キルの冒険者ランクについては正式な審査・審議の結果、Sランクに決定したわ。それと、ルルさんのAランクは据え置き、エルランテはBからAランクに昇格よ」


「エルは何もしてないのですよ?」


「エルは妙に生真面目なとこがあるよな?昇格だってんだから、素直に喜んどけ。それに、AランクじゃなきゃAAAが取れねーだろ?エルの目的は、俺たちと一緒に迷宮へ潜って強くなることじゃねーのか?」


「そうだったのです!素直に喜んでおくのですよ!ありがとうなのです!」


 俺は探索者ランクがどうなるのか知りたいのだが、無精ヒゲでガチムチなラッグスだけが、さっきから挙動不審な感じで目を泳がせている。


「おーいラッグス。探索者ランクはどうなるんだ?」


「は、はっ!キルアス殿下におかれましては――」


「そういうのいいから。グレンは宮仕えだから仕方ないにしても、俺はただのキルで、ラッグスは探索者ギルドマスターだ。グレイスからも聞いてるんだろ?」


「は…いや、とは言え、私は殿下だと知った上で初めてお会いしている訳でして…」


「見た目によらず固いんだな?もしかして貴族の出か?」


「はあ、私は騎士爵家の三男でして、家督を継いだ兄が仕える大公家の殿下を、名前で呼ぶのは些か難しく…」


「ラッグス殿、キルアス殿下は器量の大きな御方だと申したであろう。殿下のお望みになるとおり振る舞われるがよかろう」


「そうよラッグス。私なんて、初見でキルに一発やられたのだから。しかも閲覧室でよ?」


 何だその故意に誤解を招こうとする言い回しは?

 言葉面から想像するシチュエーションには萌えるけど。


「わかったよ!キ、キ、キル!今後は宜しく頼む!」


「ああ、こっちこそ頼むわ。で、ランクは?」


「う、うむ、探索者ランクについては解り易くも厄介な事情があってな…。キルにはちっとばかり骨折りをしてもらわねばならんのだ」


 予想していたが、冒険者ランクと同様に“実績”なり“実力”なりを示せという事だろうな。

 解り易くも厄介という表現は、言い得て妙だ。


「察しは付くが、実際のところ何をすればいいんだ?」


「その前に聞いておきたいんだが、キルはルシェ殿の遺品を何階層で回収したんだ?」


「遺品を回収したのは俺じゃないぞ。こいつだ」


 俺はそう言ってグリムを見やった。

 ラッグスは『は?猫?意味わからん』という面持ちだ。


「グリム、説明してやれ」


「遺品は僕が七十九階層で回収したにゃ。七十一階層にいた探索者パーティーの荷袋に放り込んで帰ってきたにゃ」


 ラッグスは下顎をカックンと落とし、大口を開けて唖然としている。

 こいつは、俺たちが入室したときの件を聞いていなかったのか?


「さ、さっき『おっぱい姉さん二号にゃ』と言ったのは…この猫なのかっ!?い、いや、キルが自分の肩に向かって喋っていたのも気にはなったが、高貴な人物には妙な癖を持つ者が多いから聞き流したのだが…」


「ほぉ、俺が語尾に“にゃ”を付ける阿呆だと?おまけに自分の肩に向かって喋る癖持ちの阿呆だと?」


「い、いやっ!違う!そうじゃなくてだな!…勘弁してくれっ!!」


 ラッグスは両手をワタワタさせながら困惑している。

 そんなラッグスを見ているグレイスが、悪そうな顔で笑っているのが怖い。


「この際だから説明しておく。この黒猫の名はグリムだ。大魔女フェリカの協力を得て、俺が創生した使い魔だ。で、グレンとラッグスには見えないだろうが、俺の右肩にはラウニって名の妖精が座ってる。俺が購入した屋敷に住んでる家妖精だ」


「よろしくにゃ!」


「ラウニだよー♪」


「因みに、ラウニが『ラウニだよー♪』って挨拶してるぞ」


「流石はキルアス殿下、格が違われますな。このグレン、感服仕りました」


「謎と未知の宝庫と言われる迷宮の探索者ギルドマスターなのに、この歳になって未知との遭遇が日に二つも起きるとは…」


 そんなん知らんがな。

 俺にしてみれば、魔術やら獣人やら妖精が在るこの世界の方が謎だわ。

 つーか、探索者ランクはよっ!!


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