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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第42話 先代使徒の魂を揺さぶられない遺志


 何なんだこの状況は?

 今現在、俺たちはコッペンハイムの案内で見に来た物件の玄関先にある、石階段に横一列で座り果実水を飲んでいる。ちょっとした休憩だと考えればおかしくはない。

 俺の両隣にはルルとエル。これも問題ない。

 コッペンハイムは何も理解できていないが、端っこに座って二杯目の果実水を飲んでいる。普通に『もう一杯欲しいでおじゃる』と言われたが、それもまあいい。


 しかし、俺の膝の上には超チビッ子が座っており、鼻歌まじりで足をブラブラさせながら、果実水のコップ角度を俺に指示している。


「果実水ひさしぶりー。おいしーね♪コップすこし傾けて!」


「はぁ…。で、お前って結局ナニ?おじいさんの家ってどういう意味だ?」


「えー。どーしよーかなー。人間に話しちゃダメって、おじいさん言ってたしー」


 終始この調子である。

 初見のホステスにドンペリを入れたのに、アフターへの誘いをのらりくらり躱されている気分だ。


「キルアス様、その子はブラウニーなのですよ。お家を護る妖精なのです」


「あー!エルフちゃん教えちゃダメ―!私が教えるのー!」


「ごめんなさいなのです。じゃあ、キルアス様に教えて上げて欲しいのです」


「いいよー!教えてあげるー!」


 チーママに『悪いけどこのお客さんゲットして!』と耳打ちされたホステスが、ようやく『アフターOKだよ』と言ってくれた感じか…



 超チビッ子曰く、この屋敷は世界で名を馳せた大魔導士が、終の棲家として建てた。

 一代で成り上がり、テスラ宮廷魔導士第一席へと上り詰めた大魔導士は子爵位に叙せられた。

 大魔導士は此処に在った屋敷を購入し、資産のほぼ全てをつぎ込んで、今の屋敷に建て替えたという。


「何だよ、勿体ぶった割りには大した話じゃねーな」


「えー。だってだって、このお家に普通の人が住んだら体の具合が悪くなって、最後は死んじゃうよー?」


 まだ本題じゃなかったのかよ!


 この屋敷を建てた大魔導士とは、今より千年前を生きた人物だという。

 破壊神vs世界の終末大戦を生き延びた傑物でもある。

 超チビッ子の話で一番驚いたのは、その大魔導士が召喚魔術と境界魔術のエキスパートだったという点だ。


 召喚魔術の使い手は現在でもそれなりに存在するが、召喚には位階がないので、使い手の練達度を量るには実践しかない。

 現在の召喚魔術師で最も高い技量を持つ者は飛竜を召喚できるが、並みの魔術師であれば伝書を届ける鳥獣が精々だ。

 その大魔導士は、神獣を使役して終末大戦を戦い抜いたという逸話が残っている。

 その逸話が真実であれば、召喚魔術のエキスパートと言うに相応しい技量だ。

 因みに、刻印、錬金、重力なども位階のない魔術系統に該当する。


 片やで、境界魔術の使い手は、それだけでエキスパートだと判る。

 境界魔術には時空→超時空→多重次元→境界という位階があるからだ。

 時空魔術の使い手でもある父上の話だと、現在は超時空魔術の使い手が最高位であり、多重次元の上位に境界が存在する事を知らなかった。

 これは持論だが、召喚・召還と時空間には密接な関係性があり、召喚を極めるとは時空を極めると同義だと考える。


「おいおい、この屋敷は千年前の建築ってことか?新しすぎるだろ」


「そうだーよー。おじいさんが保存の魔術を掛けたからー」


「なるほど…境界魔術を応用すれば、限定的な物質保存も可能だな。ふむ、爺さんがスゲー大魔導士だとは解ったが、それと住人が死ぬってのは関係ないだろ?」


「そんなの知らないよぉー。でもでも、おじいさんの後に住んだ人は、病気になったり死んじゃったりしたんだもーん。おじいさんに『住むべき人物が現れるまで、この屋敷を護ってくれ』って言われたから、ずーっと護ってるだけだもーん」


「住むべき人物?それをどうやって判別するんだ?」


「お家の地下にあるスフィアを起動できる人…かなぁ?スフィアを起動すればお家が生き返るって、おじいさん言ってたよー」


 屋敷が生き返るねぇ…。

 何一つ判然としないが、そのスフィアってやつを見に行くしかねーな。


「おいコッペンハイム、この屋敷は曰く付き物件なのか?」


「曰く付きという程でもないでおじゃるが、長く住む人はいないでおじゃるな。扉が異常に重い、引っ越してから気分が優れないと言われた事はあるでおじゃる。建造と内装設備は最上級なのでおじゃるが…」


「取り敢えず地下のスフィアを見に行くか。超チビッ子、案内してくれ」


「超チビッ子いうなし!」


 コッペンハイムは『お金があれば小生が住みたい物件なのでおじゃるがなぁ』と言いながら先頭を歩く。

 ルルとエルは収納庫に入れていた串焼きや果物を食べながらついて来る。

 超チビッ子は俺の肩に座り、俺の耳をアームレスト代わりに使っている。


 コッペンハイムが懐から取り出した金属製のカードを、これまた金属製の玄関扉に翳すと、カチャという音と共に開錠された。魔導式ロックのようだ。

 横スライド式の玄関扉を、コッペンハイムが力の限りといった感じで引き開ける。


「う~んっ!この扉は重いのでおじゃる…よ!」


 開けるのを手伝ってみると、確かに重い。金属重量だけの問題ではない気がした。

 玄関を入ると、白を基調とした清潔感のある内壁と天井が広がっていた。

 床はダークブラウンのフローリングが敷かれており、白とのコントラストが良い感じだ。


 重い扉の原因が気になって扉の方を振り返ってみると、扉の上側に渡してあるスライドレールに、ダンパーの様な部品が組み付けてある。


「これ…もしかしてオートドアじゃねーのか?」


「おーとどあ?それなーにー?」


「ん?これがな、勝手に開いたり閉まったりする扉じゃないかと思ってな」


「そーだよ!なんで知ってるの?シューって開いて、シューって閉まるんだよ!」


 やっぱそうか。

 屋敷が生き返るってのは、居住システムが起動するって意味か?

 ああ、だからスフィアの起動か。スフィアがシステムの制御装置っぽいな。


 ちょっと待てよ…

 俺の予想が正しくて、俺がスフィアを起動できるとしたら、この屋敷は必買物件だと言える。

 しかもシステム起動前と後で、この屋敷の価値は大きく変わるだろう。

 であれば、今の内に価格を聞いておくべきだな。


「なあコッペンハイム、この屋敷の価格を教えてくれ」


「賃貸なら金貨二十枚、購入なら金貨千二百枚でおじゃる」


「白金貨で十二枚か。三件目の倍ねぇ…結構高いんだな」


「この屋敷は建屋面積と庭面積のバランスが良いでおじゃる。敷地面積は三件目の1.6倍でおじゃるが、建屋は地上四階に地下二階でおじゃるし、どの部屋も広ければ収納もたっぷりでおじゃる。庭の東側には独立した工房棟もあるでおじゃる!それより何より、この屋敷は魔導化邸宅なのが凄いのでおじゃる!!最上階にある大風呂からトイレ、厨房、空調機、照明に至るまで、全てが魔導化されているでおじゃるよっ!!!」


「そ、そうか、わかったから興奮するな。先ずは地下二階から見て行くぞ」


 コッペンハイムが『金があれば住みたい』と言ったのは本心のようだ。

 確かに、この屋敷は地球の住宅と比べても見劣りしないだろう。

 あとは俺がスフィアを起動できるか否か…だな。


 地下へ降りて行くと、階段を進むに連れて照明が自動点灯していく。

 おそらくモーションセンサーだと思うが、センシング機能も満載のようだ。

 システムがダウンしている事を考えれば不思議だが、災害などに備えて、独立したバックアップ回路があるのかもしれない。


 地下二階にある部屋の扉も重い。

 インテリアとしてデザインを重視した扉以外は、全てオートドアなのだろう。

 中へ入ると、当然の如く照明が自動点灯した。

 床面積は四十平米もないが、天井高が3m程あるので圧迫感はない。


 天井の一辺が、壁に沿って幅50cmくらいの吹き抜け構造になっている。

 壁際から上を見てみると、地下一階を抜けて地上階まで貫通しているようだ。

 システムが起動すれば、自然光を採光できるのかもしれない。


 しかし…スフィアらしき物がないんだが?


「おい超チビッ子、スフィアはどこだ?」


「超チビッ子いうなしって言ったしっ!スフィアはそっちの壁の中なのっ!」


 ハイトーンボイスを耳元で叫ばれ、耳がキーンとしながら吹き抜けと反対側の壁際へ歩く。

 階段を降りた感じからして、この部屋は玄関の直下だろう。

 という事は、この壁の向こうが建屋の奥行き方向になる。


 俺は壁の隅々まで目を凝らして見てみるが、スイッチ的な物はもとより隙間すらない。

 至近距離で超チビッ子と目を合わせると、『なによぉ?』と言わんばかりの目つきで、細い顎をしゃくるように壁の方向へ振った。


 どうしたもんかと壁に両掌と額を当てた瞬間、覚えのあるエネルギー波動を僅かながら感知した。


「この波動…死滅のエレメント…か?」


「うっそー!?エレメントがわかっちゃうのぉ!?なんで?なんで??」


 千年前にこの屋敷を立てた大魔導士は、俺が思うより遥かに強大な力を誇る存在だったのかもしれない。


 耳元で『なんで?』を連呼する超チビッ子をガン無視し、俺は神核が使えないかと考えた。


『アイ、死滅のエレメントから獲得した冥王の恩寵を、エレメントと同様のエネルギーに変換できないか?』


《はい、マスター。一次融合後の魔素を使用して、死滅のエレメントと同種のエネルギーを神核内で生成することが可能です》


『生成したエネルギーの放出は可能か?』


《はい、マスター。生成後は魔力解放と同様の方法で、エネルギー波としての放出が可能です》


『よし!アイ、エネルギーを生成してくれ』


《はい、マスター。エネルギー生成を開始します。放出終了と同時に生成も終了します》


 神核内に、俺の魔力とは異なるエネルギーの発生を感じる。

 俺はエネルギーを循環させ、壁に向けてエネルギー波を撃ち込んだ。


―――キュイン!


「うおっ!?」

「みゃっ!?」


 両掌を突いていた壁が電子的な音を発して消失し、俺と超チビッ子は奥へ転がり込みそうになる。

 俺は転倒することなく踏み止まったが、超チビッ子は俺の体勢が崩れた勢いで、俺の肩から落ちて尻餅をついた。


「いーたーいーっ!ねえっ!いーたーいーのー!」


 超チビッ子は俺の方へ右手を伸ばして『起こしてよっ!』的に手をクイッ、クイッと動かしている。


「お前が勝手に落ちたんじゃねーか。ほら、肩に座ってもいいが、ちゃんと掴まっとけ」


「ふーんだっ!しかたないから座ってあげるー」


 悪態をつく割りには嬉しそうな表情で、超チビッ子はで俺の肩に座り直した。

 俺が開放された部屋の中へ一歩踏み込むと、例によって証明が点灯した。


 部屋は百平米は優にあるだろう広さで、天井高も5m程ある。

 正面の壁には150インチくらいのディスプレイパネルが無機質な光を反射している。

 ディスプレイパネルの下にはデスク型の制御装置的な機器類が並んでいるが、スイッチや計器類は一切ない。

 前世の地球と比べても、より近未来的な光景だ。


「スゲーな…」


「なつかしぃなぁー。おじいさん、いつもここでお仕事してたの。コーヒーいれてあげると喜んだんだよ?」


「コーヒーあんのかよ…聞いたら飲みたくなったな」


 ディスプレイパネルに向かって歩いて行くと制御装置に光が点り、ディスプレイパネルに老年の男性が映し出された。


「おじいさん…」


『神々の願いと星の意志を担いし使徒よ、よく来てくれた。

 我が名はスレイン・アストラス、且つて破壊神と戦いし使徒である。

 我が死してより、どれ程の歳月が流れたのであろうか。

 破壊神が亜神フィルアーテに封じられ続けている事を、只々願うばかりだ。

 此処へ到達した其方に、我の遺志とこの屋敷を託したく想う。

 勝手な願いではあるが、破壊神の暴虐から世界を護り抜いてくれないだろうか。

 しかし、且つての我がそうで在りしが如く、其方も己の心が儘に進むがよかろう。

 其方と共に在るラウニは健勝であろうか。

 ラウニにまで我の身勝手な願いを託した事、心苦しく感じておる。

 ラウニよ、ラウニの傍らに在る今代の使徒は、我よりも強大である。

 何故ならば、ここへ辿り着きしが事実がその証であるからだ。

 我の力が及ばず潰えしラウニの願い、今代の使徒に願うがよかろう。

 今代の使徒よ、其方の行く先に、真なる自由の在らん事を切に祈る』


「おじいさん、ラウニは元気だょ…」


 俺の肩で元気だと呟いた超チビッ子は、涙をポロポロと絶え間なく流している。

 この千年間、超チビッ子は先代使徒スレインが願ったとおり、この屋敷を護ってきたのだろう。


 しかしだ、ぶっちゃけ俺的には釈然としない。

 まあ『己の心のままに進め』とは言っていたが、そんな事は言われるまでもない。

 破壊神にしても、俺の目的は破壊神を滅する事ではなく、色葉を助け出す事だ。

 世界を護る?結果的にそうなるかもしれないが、それも目的ではなく過程だ。

 そしてこの屋敷。この屋敷は“託される”のではなく、俺がコッペンハイムから“購入する”のだ。

 最後に超チビッ子ことラウニ。お願いって何さ?基本、有償だぞ?


 まあいいか。

 今の俺にこの屋敷と同等の物を造れるかと聞かれれば、答えはNOだ。

 あの映像の事は忘れてしまおう。そうしよう。


 そんな事を考えていると、制御装置をすり抜ける様にして、拳大の黒球が浮かび上がってきた。


「おいおい、これって死滅のエレメントじゃねーか。小さいけど」


「これがスフィアだよ?エレメントが生んだって、おじいさん言ってた」


 そう言った超チビッ子の顔を見ると、涙の跡すらない笑顔だった。

 妖精って切り替え早いらしい。


「スフィアってどうすれば起動するんだ?」


「おじいさんは『魔力をじゅうてんする』って言ってたよ?」


「魔力を充填ね。了解」


 俺はスフィアに触れて魔力を流した。

 スフィアが俺の魔力を吸い上げるように内包する。

 スフィアの中心に白銀の光が灯り、流し込む魔力量に比例する様に光が大きくなっていった。

 スフィアが際限なく俺の魔力を吸い上げ続け、俺の魔力残量が一割を切った。


「あ、ヤバい…体が怠くなってきた…」


 これ以上は魔力枯渇で気絶すると思った瞬間、黒かったスフィアが白銀の光で満たされ、制御装置の中へ沈む様に消えていった。


「すっごーい!スフィアが魔力で一杯になったよー!おじいさんは半分もいかなかったのにー」


「あぶねー、気絶するかと思ったわ…」


《魔導システム管理者登録を完了しました》

《魔導システムを再起動します》

《魔導システム再起動が完了しました》

《魔導エネルギー残量は99.9%です》


 部屋に音声アナウンスが流れた。

 俺と超チビッ子以外の皆が、声の発生源を探すようにキョロキョロしている。

 スピーカから出る局所的な音響じゃなかったので、探しても見つからないだろう。


「はいはい解るよ、俺が管理者ね。これで屋敷が普通に使えるようになったと」


「お家が生き返ったよー!わぁーい!」


 魔力がほぼ枯渇して気怠い俺は、制御室を出た先の部屋で、床に座り込んだ。

 この屋敷を買う気は満々だが、一応は内見しとかないとな。


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