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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第41話 超チビッ子


 平伏したまま動かないコンキュートは、二人の近衛兵に両脇を拘束されて連行されていった。

 それを見やる父上と宰相の顔は、何故か満足げだった。


「…あんなブラフで落ちるのかよ。裏組織に押し入って証拠でも掴もうって考えてた俺が、アホみたいだな…」


「キルアス、馬鹿な貴族家がどれだけあると思ってるんだ?時間と手間を一々懸けていられる訳がないだろうに」


「キルアス殿下、権力を笠に着て悪事を働く者ほど、より大きな権力には弱いものでございます」


 俺にあんな腹芸はムリだなと認識しつつ、俺たちはサロンへと移動した。

 サロンにはルルとエルが来ており、俺が朝食を食べずに出て行ったからと、食事の手配をしてくれていた。


 俺が食事をパクついていると、母上とクリスタもサロンへやって来た。

 母上を連れて来たのはクリスタのようだ。


「お帰りなさいキルアス。元気そうで良かったわ」


「ただいま母上。まだ三日しか経ってないけどな」


 クリスタが、たった三日でも俺のここが変わったとか、あれが以前と違うと母上に語り、母上はそれに対して『あら本当だわ』とか『クリスタはキルアス研究者みたいね』などと返している。


 一頻り食べて腹を満たした頃合を見計らったのか、父上が話を始めた。


「英雄殿、そしてエルランテ、魔獣の領域解放、大儀であった。この功績に見合う褒賞となると俄には思いつかぬが、二人に希望があるなら叶えたいと思う」


「ルルは何もしてないですしぃ、キル様と一緒に居られればそれでいいですぅ」


「エルも凄まじい光景を見てただけなのですよ。キルアス様が一人でやっちゃったのです」


 ルルとエルが、俺には理解できないお人よしぶりを発揮している。

 白金貨千枚くらいなら喜んで出すだろうに。


「馬鹿正直に答えてないで、欲しい物があるなら貰っとけ。十三万の魔獣を討伐して農地まで整備したんだ。テスラは最低でも白金貨一万枚以上が浮いたんだぞ?」


「キルアス殿下は内政にも精通しておられますな。しかし十三万体の魔獣が生息する領域となれば、白金貨一万五千枚は必要になったと思われます」


 宰相も馬鹿正直なことだ。

 コンキュートを落とし込んだ悪辣ぶりはどこへ行った?


「非常識を実体化したキルアスだとしても、十三万体もの魔獣を一日で討伐できるとは信じられん所業だな。しかも危険種が二十体で、伝説のフェンリルまでいたのだろう?」


「非常識って言葉を俺の称号みたいに使うなよ。実質的な討伐時間は一時間程度だったな。その後の農地整備の方が面倒だった」


「お前は真正の化け物だな。そういう話に驚かなくなってきている自分の価値観も怖ろしいが…」


「ハイハイ。誉め言葉として受け取っておくよ。破壊神なんて化け物を相手にしなきゃなんねーんだ。こっちが化け物未満だったら話にならないだろ?」


 俺の言葉を聞いた皆が、妙に納得した様な表情になった。

 一人くらい『化け物なんかじゃないよ!』とか言っても良くね?


「あ、そうだ。家を買おうと思ってんだけど、斡旋業者を紹介してくんない?」


「その辺はルイドの範疇だな。どの程度の家を考えてるんだ?」


「住むのは俺たち三人…いや、四人になるか?まあ五人程度が快適に住める広さで、魔導化されてる厨房と風呂は必須。あとは訓練が出来るくらいの庭があると文句ないかな?」


「キル様、四人って誰ですかぁ?」


「エルもそこが気になったのですよ」


「同居するかは未定だが、フェリカが仲間に加わると思う」


「あぁー魔女さんですかぁー。ハッ!?またライバルが増えるですぅ!?」


「えっ!?大魔女フェリカなのです!?」


「大魔女フェリカか…半ば伝説の超大物だな。俺も冒険者時代に噂を聞いて、魔装具を造って貰いたいと思ったものだ。結局、魔女の住処には一度も辿り着けなかったがな」


 やっぱフェリって有名なんだ。

 魔装具の製造技術とか教えて貰おう。

 地球の科学技術と併せれば、面白い物が造れるんじゃねーかな。

 あ、魔術薬には化学技術が併せられるな。


「キルアス殿下、もし大魔女殿が同居されるのであれば、工房が必要になるのではありませんかな?」


「言われてみるとそうだな。流石はルイド、よく気が付くな」


「お褒めに預かり光栄です。ご要望に合う屋敷を紹介できる者を、後ほど宿へ向かわせましょう」


「ねえキルアス、屋敷に住むのなら侍女が必要になるのではなくて?クリスタを雇っておあげなさいな。クリスタなら私も安心できるし、クリスタも嬉しいのではなくて?」


「はい!是非とも雇って頂きたいと思います!」


 そういう事もあるか。

 迷宮に潜ると家を空けるし、クリスタが居てくれるなら助かるよな。


「そうだな。クリスタなら俺も文句はない。クリスタ頼む」


「はい!精一杯努めさせて頂きます!」


 実のところ、クリスタについては気になっていた。

 クリスタは某伯爵家陪臣の妻だが、死産して以降は肩身の狭い思いをしている。

 最近では、あからさまにクリスタを追い出そうと、嫌がらせに拍車がかかっているらしい。


 まだ二十五歳なんだから何の問題もないと思うが、この世界では二十五歳の女性が年増扱いされる。

 母上がクリスタを可愛がるのは唯一の救いだが、母上には母上の傍付がいて序列もあり、クリスタに構い過ぎると余計な嫉妬を招く原因にもなる。

 城で気を遣う日々を送るくらいなら、俺たちと一緒に暮らす方がいいに決まっている。


「よし、じゃあ決まりだな。なあルイド、出来れば今日明日で家を決めてしまいたいんだが、業者は直ぐに手配できるか?」


「畏まりました。今日の昼には宿へ顔を出すよう手配致します」


 コンキュート事件というイレギュラーは発生したものの、総じて予定どおりの進捗だ。


 帰ろうと思い立ち上がると、俺たちが間もなく迷宮に潜ると知った父上から、『正規ルートでルシェの遺品を入手したい』と相談された。

 探索者証は迷宮に飲み込まれる事がなく魔力感知にも反応するので、通常なら数日で発見されるそうだ。

 しかし、俺が『なるべく深い場所で自滅しろ』と命令した為か、ルシェの探索者証を含めた装備品は未発見らしい。

 俺は『こんな事ならどこまで潜ったかモニターしとくべきだった』と思いながらも、どうせ最奥まで行くしと考え、父上の依頼を引き受けた。


 俺は去り際に『家が決まったら直ぐに呼ぶからな』とクリスタに伝え、ルル、エルと共に城を後にした。



 宿へ帰る道すがら、屋台や飲食店で美味そうな食品を物色しては収納庫へ放り込んでいく。

 ルルは基本的に肉食でエルは野菜を好むから、俺は飲み物や果物、穀物系食品を多めに集める。


「ん?オヤジ、これはマンゴーか?」


「へい旦那!マンゴーは南部特産で今が旬ですぜ!うちは完熟マンゴーを飛竜便で仕入れるんで値段は少々高くなっちまいますが、味と香りは折り紙付きでさぁ!こっちのパイナップルも絶品ですぜっ!」


「なら、オヤジの言を信じて買おう。マンゴーとパイナップルを全部くれ」


「毎度ぁ…へっ!?ぜ…全部ですかい!?」


「ああ、全部だ。木箱ごと買う。いくらだ?」


「へ、へいっ!えーと、何個あるんだっけか…一、二、三、四……。旦那、全部だと大銀貨九枚にもなっちまいますが…?」


「いいぞ、木箱代も入れて金貨一枚を払おう」


「ありがとうごぜーやすっ!!それで、どちらへ運べばよろしいんで?」


「持って帰るからいい」


 俺はマンゴー一箱とパイナップル二箱を収納庫に放り込んだ。

 オヤジと両隣にある屋台の主人や、通行人たちがフリーズする。

 俺は金貨を指で弾いてオヤジへ投げ渡し、再び歩き出した。

 5mほど歩くと、俺を呆然と見送っていたオヤジが大声で叫んだ。


「旦那ぁーっ!ありがとうごぜーやしたっ!!また来てくだせぇーっ!」


 俺はオヤジの声に、歩いたまま片手をヒラヒラと振って答えた。



 宿へ戻ると、小綺麗な身形だが完全にメタボ体型の男が、チェックインカウンターの横に椅子を置いて座っていた。

 蝶ネクタイとシルクハットにステッキとは…肥満の喜劇王か?


 もしオーダーメイドならファッションクリエイターだなと考えていたら、喜劇王が立ち上がって片掌を胸に当ててお辞儀をしてきた。


「キルアス様とお見受けするでおじゃります。小生はコッペンハイムでおじゃります。お屋敷物件のご案内に参りましたでおじゃります」


 失笑を呼ぶ喜劇王だ…

 ルルでさえ目をパチクリパチクリさせている。エルに至っては口をポカーンと開けている。


「あ、ああ、キルアスだ。フリーズさせられたのは久しぶりだな」


「初見の人にはよく言われるでおじゃります。お急ぎと聞いているでおじゃるが、早速ご案内しても良いでおじゃりますか?」


「そうだな。部屋へ戻る必要もないし、このまま物件を見に行こう」


「承りましたでおじゃります。五物件を用意しておじゃるので、お安い順にご案内するでおじゃりますよ」


「わかったが…おじゃるの丁寧語は難しいんじゃないか?普通におじゃってもいいぞ?」


「それは助かるでおじゃる!故郷の古い方言でおじゃるから、最近の言葉には合わせ難いでおじゃるよ。では、ご案内するでおじゃる」


「おじゃる地域があるのか…」



 コッペンハイムの案内で、俺たちは最初の物件へと向かった。

 公民区と商人区の境付近にある、こじんまりしたメゾネットタイプの家だ。

 日本の都市部にあるようなコンパクト設計で、機能性も考えられてはいるが、至る所がコンパクトだ。

 厨房も“台所”といった感じで、魔導コンロが一口しかない。ここで二人を超える人数の食事を作るのは厳しいだろう。


「価格も聞いてないが、ここはダメだな。次を案内してくれ」


「はいでおじゃる」


 そこまでおじゃるを付けるのかと、ある意味で感心しつつ次へ向かう。

 二件目は商人区のど真ん中にある、商店と住居が一体化した間取りだ。

 裏手にはそこそこ大きな倉庫と搬入出用の仮置き場に、裏通りへの出入口があった。

 ここだけ見れば悪くはないが、建屋面積の半分が商店向け構造なので、住居として見れば使い勝手が悪い。いや、使えない。


「ここもダメだな。次だ」


「ここまでは価格を重視した物件でおじゃるよ。小生のお薦めは三件目と四件目でおじゃるからして」


 普通に喋る分には、おじゃるにも色々と言い回しがあるんだなと思いつつ次へ向かう。

 三件目は貴族街の外周路に面した屋敷だ。いきなり“屋敷”と呼ぶに相応しい規模にアップグレードした感じだ。

 外壁は赤茶けたレンガで、裏庭側の壁面にはブドウの蔓に似た蔦で覆われている。

 個人的に嫌いではない。

 夏場は日光に因る壁面温度上昇を抑える、天然の遮光壁になるだろう。


「悪くないな。裏庭も玄関も広いし、厨房とリビングも必要十分な広さだ。厨房とダイニングの動線はイマイチだが」


「エルもそう思うのです。厨房とダイニングを繋ぐ廊下と扉が、狭くて小さいのです。距離もあるですから、一人でお料理を運ぶ時は大変だと思うのですよ」


「湯舟も一人しか入れないサイズだしな。因みに値段は?」


「賃貸でおじゃれば月額で金貨十枚、購入でおじゃれば金貨六百枚になるでおじゃるよ」


「購入で白金貨で六枚か。五年を超えて住むなら購入しろって商法か」


「その通りでおじゃる」


「ルルはキル様と一緒に入れるお風呂がいいですぅ!」


「コッペンハイム、次に行こう」


「スルーされたですぅ!?」


 当然のスルーで次へと向かう。

 俺も男だからルルと一緒に入りたくない訳ではないが、物件を選定する優先項目にはならない。


 四件目は貴族区のど真ん中にあった。

 中央大路からは少し離れているが、貴族区の円周路は馬車が離合できる幅で造ってあるから問題ない。街の喧噪から離れているのが逆に良いだろう。

 門を一歩入ると、視界を遮る高塀で判然としなかった敷地の広さが窺えた。


「おいおい広いな…広すぎないか?」


「敷地面積で千平米ちょっとでおじゃる。これでも貴族区では中規模でおじゃるよ。近隣は子爵家が多いでおじゃるな。右隣は大身の宮廷御用商人でおじゃるが」


 広さは申し分ないが、建物はこの世界で見たことのない建築様式だ。

 むしろ異様とさえ言える。


「まさかこれ…コンクリートか?しかも新築?」


「驚きでおじゃる!見ただけでコンクリートと判るのは凄いでおじゃる!キルアス様は錬金術師でおじゃるか?あ、新築ではないでおじゃるよ」


「ん?ああ、錬金も使えるな」


 錬金術でコンクリートが作れるとは知らなかったし、錬金で作る理由も解らない。

 しかし、その理由がコンクリート製の壁に触れた瞬間に解った。

 驚いた事に、この世界のコンクリートは魔力に対する親和性を持つようだ。


「コンクリートって魔力を通すんだな。ん?溜まる…のか?」


 魔力を通すだけでなく、蓄える性質まで持つコンクリートに驚いていると、ハイトーンで良く通る、可愛らしい声が聞こえてきた。


「ちょっとー!なに勝手に魔力を溜めてるのーっ!?」


 声はすれど姿は見えない。幻聴にしては状況との整合性が高すぎる。

 俺が周囲をキョロキョロ見回していると、ルルとエルが俺の頭上に視線を移した。


「あーエルフちゃんがいるー!そっちのオオカミちゃんも大精霊様に加護もらったんだねー!二人ともかっわいいー♪」


 頭の真上を見ると、そこには背中から一対の半透明な羽を生やした、体長30cmもない女の子が飛んでいた。

 取り敢えず『なぜ全裸なのだろうか?』と思いながら観察してみる。


「ちょっ、ちょっとー!なに見てんのさっ!エッチ!スケベ!女の敵!」


「お前ダレ?違うな、お前ナニ?」


 たぶん妖精とかだろうとは思いつつ、俺は神速で女の子を鷲掴みにして捕獲した。


「きゃぁぁぁぁぁーっ!食べられちゃうよぉーっ!二つの意味で食べられちゃうかもぉぉぉーーっ!どっちにしてもお嫁に行けなぁーい!」


「訳わかんねーこと言ってんじゃねーよ…」


「なによっ!初めは女として弄んで、飽きたらお肉として食べるくせにっ!ほらやだぁ!変なとこ触ってるしー!」


「誰がロリコンの人喰いだっ!?つーか、ロリコンにすら該当しねーわ!!」


 わーわー、キャーキャーと俺の手の中で騒いでいた超チビッ子がピタリと静止して、俺の目をジーっと見詰め始めた。


「ねーねーねー、精霊の加護もない人間なのに、どーして私の声が聞こえて、見えて、触れるの???」


「さあ?普通はムリなのか?」


「うんうん、絶対ムリだよー。だって、ほら、そこの太っちょのおじさん。『頭のおかしい客を紹介されたでおじゃるか!?』って考えてるよ?」


 あらあらまあまあ、超チビッ子は人の思考が読めるらしい。悟り系か?

 俺はコッペンハイムの方へ振り向き、キリっとした顔で『頭おかしくねーぞ』と言いい、超チビッ子との会話に復帰する。


「俺とお前の間には多くの疑問がある。しかし、俺たちはこの家を借りるか買うかする為に見に来ただけだ。だから邪魔するな」


「それはダーメッ!コレおじいさんの家だもーん!」


 また意味深で面倒なことを…

 俺は仕方なく玄関先の石階段に座り、収納庫から人数分の果実水を出し、超チビッ子と問答をすることにした。


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