第39話 魔女の正体
夕食を終えて部屋へ戻ったルルとエルは、家の間取りや立地について楽しそうに相談している。
土地を探して新築するのは面倒なので、中古住宅を探せばいいだろう。
中古住宅を斡旋する業者があるのかは不明だが、父上に解放した領域の事を伝えるついでに、その辺の事を聞いてみよう。
「あ、そうだ。ルル、エル、俺ちょっと出掛けてくるわ」
「何処に行くんですかぁ?」
「ちょっと魔女の住処にな。使い魔を造ろうと思ってんだ」
「魔女の住処って、もしかして大魔女フェリカなのです!?」
「お、エルは魔女を知ってるのか?」
「大魔女フェリカは有名なのですよ!彼女に魔道具や魔装具を作って貰いたいと思っている貴族や探索者は沢山いるのです!でも、大魔女フェリカは気に入った相手にしか作ってくれないですし、そもそも魔女の住処に辿り着けないのですよ!」
あー、あの看板のせいか。
もしかしたら、魔力波動あたりで客を選んでんのかもしれないな。
「ほぉ。って事は、魔女の住処に辿り着けた俺はラッキーか?」
「すっごくラッキーなのですよ!しかも使い魔を作って貰える人なんて、エルが生まれてから聞いた事がないのですよ!!」
「使い魔って何ですかぁ?」
「ん?俺も良く知らん。エルに教えてもらえ。じゃあ行ってくるわ」
「「行ってらっしゃいですぅ!(なのです!)」」
エルが生まれてから百と十五年。使い魔ってのは相当レアなのだろう。
俺はちょっと嬉しくなり、フェリの住処へ向かう足取りも心なし速くなった。
辿り着けるだろうかと多少の不安を感じつつ記憶のとおりに裏通りを進むと、今夜もフェリをモチーフにした看板が出されていた。
「おーいフェリ、いるか?」
「いるわよー。お入りなさいな」
店の奥から出てきたフェリは、今夜も魔女らしく妖しい微笑みで俺を迎えた。
これほど魔女らしいビジュアルの魔術師など、他にいないのではないだろうか。
「予想したより早かったのね。もう用事は片付いたの?」
「まだ終わってはいないが、明日から三日間くらいは暇になったんだ」
「三日間かぁ…素材を集めるには時間が足りないなぁ」
「魔獣だの鉱石だの言ってたが、実際のところ何が必要なんだ?」
「そうねぇ、魔獣は出来れば第二級危険種くらいが欲しいわね。鉱石はミスリルと水銀、欲を言えばオリハルコンを少々ってところよ」
サックリ集まりそうだと思うのは、俺の気のせいか?
危険種はいいとして、鉱石は必要量に依るってかんじだな。
「ミスリル、水銀、オリハルコンはどれくらいの量が必要なんだ?」
「簡単に言えば猫のサイズ分よ。割合は4:4:2って感じね」
そりゃそうか。ネコ造るのにトン単位の鉱石なんか要らないわな。
俺は徐に店の床に視線を落とし、鉱物探査術式を発動する。
「ミネラルプロービング」
此処の地下に全部あるじゃん。オリハルコンがやたら深い場所に埋まってるな。 地球の古典ではオリハルコンって銅だか真鍮だかって読んだ記憶があるが、組成は全く違うみたいだな。
むしろ技神がストライクガンに使った神鋼に近しい組成だ。
ん?水銀は辰砂もあるな。自然水銀とどっちがいいんだろうか。
「ちょっとキル…その魔術なによ。無陣・無詠唱も久しぶりに見たけど、術式が複雑すぎて理解できないじゃない…。悔しいんだけど?」
「お?フェリも術式を解析できるのか?そんなヤツ初めて会ったぞ」
「解析って…。あたしは魔力の流れを通して術式のイメージを見てるだけよ!術式の解析なんて出来るわけないじゃない!」
「へぇ、それでも珍しいだろ。大魔女と言われるだけの事はあるな」
あれ?なんで涙目?ちょっと可愛いけど、子供じゃないんだから。
でもあれだな、魔神ディア先生には及ばずとも、フェリもかなり特異な存在じゃないか?
鑑定してみよかな?いや、止めとこう。年齢を見るのが怖い気がする。
「もぉ…。キルって何者なの?正体を教えなさいよぉ!」
「俺の正体ねぇ。フェリなら教えてもいい気はするが、俺の敵にならないと誓えるか?」
「…凄い確認するのね。『他言無用』とか、『グヒヒ、俺の女になれ』とかじゃなくて、『敵にならないか?』なんて、初めて言われたわよ」
「そうか?俺的には通常の確認なんだが。俺は敵に対して、老若男女の区別をしない平等主義者だからな」
「いいわ。大魔女フェリカの真名、フェリカ・アウテランタ・マギ・ウィリューロの名に懸けて、キルに敵対しないと誓うわ」
真名に懸けるって言われてもな…
俺が『鬼神の真名、神木刻斗の名に懸けて!』とか言う様なもんだろ?
意味なくね?
「…真名って意味あんの?」
「ちょっ!?魔女の真名がどんだけ大切か知らないのぉ!?真名を使って呪詛とか掛けられたら簡単に死んじゃうのよ!?それはもうコロッと死んじゃうんだからぁ!」
呪詛?俺の咒なら真名なんか知らなくても殺れるぞ。
フェリは何か特別な縛りでもあんのかな?
「あぁそう。わかったから興奮すんなって。じゃあ、俺もフェリの言葉を信じてステータスを見せる。これが、俺の正体だ」
俺は収納庫からステータスプレートを取り出し、魔力を流してフェリに差し出した。
=====================================
【名前】キルアス・ルスト・デュケ・テスラ
【種族】人間族 【性別】男 【年齢】偽:16歳(8歳)
【クラス】凶魔導戦闘士・マスタージャッジメント・極大魔導
【称号】神権執行者・エレメントの盟友・悪魔殺し・魂魄の支配者・魔獣の天敵
神獣の天敵・領域解放者・破壊専従者
【レベル】220
【体力】18000 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【魔力】650000 [高速融合+90000][魔力圧縮+130000]
【魂力】72000 [魔魂融合+80000]
【耐久】16000 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【敏捷】17000 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【物防】12000 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【魔防】430000 [魔力循環+30000][闘魔混合+40000]
【スキル】無詠唱・術式並列制御・闘気解放・魔力圧縮・闘魔混合・次元制御・
魔眼
【固有スキル】咒式創造・咒刻・解咒・魔力直接制御・術式創造・生体進化・
神眼・神化・魔術解析・魔魂融合・魔咒式創造・冥族探知・冥王 召喚・魔素制御・鬼羅式創造
【魔術】炎爆・氷冷・暴嵐・霹雷・地殻・冥王・神聖・境界・刻印・錬成・錬金
合成・複合・召喚・重力
【加護】創造神・智神・技神・魔神・武神・慈神・???・死滅のエレメント
【罪科】なし
=====================================
「ナ…ナニヨコレ。え?神?悪神?…変態?」
「最後の、かなり失礼だからな?」
フェリは俺のステータスを暗記でもするかの様に、一つ一つ読んでは思考を巡らせている。
顎に手を当てて『うーん』と悩んだり、『あっ!』と掌をグーでポンッと叩いたり、『ウヒヒ…』とキモく笑ったり。
そこそこ病んでるのだろうか?
五分程かけてステータスを見たフェリは、ンバッっと顔を上げ、店のカウンターを跳び越えて来た。
そしてススッと俺の首の後ろに両腕をまわして頭を抱き寄せると、鼻と鼻が触れる距離で視線を合わせ、胸を押し付けながら片脚を俺に絡めてきた。
傍から見れば、ラテン系社交ダンスのワンシーンかと思うだろう。
ゆったりしたローブ越しでも大きいことは判っていたが、フェリの胸はかなり大きい。グレイスに匹敵するんじゃなかろうか。
「キル、あたしと子作りしよっ!キルの子供が欲しいのっ!今すぐ、ここでしよっ!好きにしていいから、ちゃんと中で出してね?」
「ドアホかっ!!」
俺は両の拳を握り、中指の第二関節をフェリの蟀谷にグリグリグリグリと捩じ込んだ。
「痛っ!?痛い痛い痛い痛い痛いぃっ!!ちょっ、ゴメンナサイ!最初はあたしが口でするからっ!ちゃんとゴックンするからっ!」
「ほほぅ、このまま俺の拳を、頭蓋の中にブチ込んで欲しいと?」
「それ死んじゃうから!?子供もできないし気持ち良くもないからヤメテッ!イーターイーノォー!もう言わないから止めてぇぇぇぇーっ!!」
こいつはルルより酷い。
床に倒れ込んで『陥没してるぅ~、凹んでるよぉ~』と呻くフェリは、ローブが捲れ上がってパンツ丸出しだ。
黒のシースルーかよ…なんてエグイパンツを履いてるんだ。
「ほら、アホな恰好してないで立て。ミスリルも水銀もオリハルコンも此処の地下にあったぞ。何ならオリハルコンの代わりに神鋼を手に入れてやる。危険種もフェンリルを丸ごと持ってるから」
「はぃ?今なんて言った?神鋼とかフェンリルって聞こえたんですけど?あたしってば脳ミソまで凹んじゃったのかしら…」
フェリの脳ミソは凹んでるんじゃなく、腐ってるんだと思う。
いや、確実に腐敗してらっしゃる。
「聞き間違えじゃない。フェンリルは今日討伐してきたし、神鋼は技神テクノロジェから貰ってきてやる。ステータス見たんだから何となく解るだろ?何なら今から貰いに行くか?」
「…そうよね。創造神様の加護なんて、最後に授かったのは何千年前の古代人よって話だものね。キルって本当に使徒なのね。それってさ、破壊神が復活する兆しがあるとかって話?」
「正解だ、良くわかったな。破壊神の封印や創造神を知ってるこ事と言い、フェリの実年齢を聞くのが真剣に怖いんだが?」
俺の言葉を聞いたフェリが、プクッと頬を膨らませて俺を睨む。
こういう仕草や表情は、ほんと二十歳前後にしか見えない。
「女性に年齢の話するなんて最低!キルのバカ!もし……もしもね、千年単位で生き永らえてる女がいたら…キルは気持ち悪いって思う?」
「別に。俺なんてこう見えて八歳だしな。しかも神格持ちの先祖返りだから不滅らしいし。俺さ、異世界からの転生者なんだよ」
「嘘…本当に?」
「俺のステータスの加護に“???”ってのがあっただろ?俺は高位世界で闘神が堕天した、鬼神って神の魂を持ってるらしい。この世界の破壊神が裏だとしたら、俺は表って感じか?ま、何れにしても碌なもんじゃねぇよ」
俺の話を聞いたフェリが、悲壮な表情で大粒の涙をポロポロと零し始めた。
「うぇぇーん!キルぅぅー!ひぐっ、ひぐっ、あたし、亜神なのぉー。破壊神から、ひぐっ、無理矢理、ひぐっ、亜神にされちゃったのぉー。うえぇぇぇーん!」
フェリは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、縋るように抱きついてきた。
無理矢理に亜神化されるなんて可能なんだな…
神の眷属は自ら死ぬことなど出来ず、その繋がりを断ち切ることも出来ない。
フェリはずっと、孤独と恐怖と屈辱に苛まれて生きてきたんだろう。
「俺なんかよりずっと永い時間を、孤独に生きてきたんだな。フェリは良く頑張った。何なら俺と一緒に、破壊神をぶっ飛ばしに行くか?」
「行くぅぅーー!ひっ、ひんっ、キルと一緒に行くぅー!キルの子供も欲しぃよぉー!」
「まだ言うか?つーか、それは追々、流れ次第だろ。俺たちにはクソ永い時間があるんだから」
「うん。あたしと…ずっと一緒にいてね?」
「どうだろ?俺はこの世界に女を助けに来てるからな」
フェリがヒュッ!と顔を上げ、ハイライトの消えたジト目を俺に向けた。
ちっと殺意が見え隠れしているのだが…
「え?怒ってんの?短気な女はモテないぞ?」
「キルのバカッ!アホッ!あたしは短気じゃないし!すっごーーく気が長いし!絶対に逃がさないんだからねっ!決めた!あたしはキルの女になるっ!」
自らストーカーを誕生させた様な気がしないでもないが、永い付き合いになるのは間違いないだろう。
もし可能なら、破壊神との繋がりを断ち切ってやりたいとも思う。
たぶんフェリは、それを切望しているだろうから。
「よし、お互いの正体も判ったことだし、使い魔の創生に取り掛かるとするか」
「ねえ、フェンリル丸ごと持ってるって…ホント?」
「あるぞ。見るか?ここじゃ狭くて出せないけど」
「フェンリルって元神獣だよ?あたしが生まれる前から存在してるんだよ?って言うか、どこで見つけたのよ?」
「エントワーズ森林にあった魔獣の領域にいた。ま、あんなデカイだけの犬っころに苦戦するようじゃ、俺の目的なんて夢のまた夢ってやつだろ」
「丸ごとって言っても、血はないよね?フェンリルの血と神鋼があれば、水銀と混ぜて無敵の使い魔が造れちゃうんだけど…」
そう訊ねてくるフェリの目は、『実はある?持ってたりしちゃうわけ?』という期待を孕んでいる。
「血もあるぞ。拘束して脳髄だけ抜き取って殺したからな。時間軸を除去した次元空間に収納してあるから、劣化もしてないはずだ」
「キルってさぁ…非常識とか、頭おかしいとか、言われない?」
「…否定は出来ないかもしれない」
「やっぱりね。頭がおかしくても、あたしはキルを愛してるお?」
「うるさいよ…」
「照れちゃったの?カワイイ♪」
こいつも調子に乗って宇宙の果てまで飛んでく系かよ…
天罰が必要だな。
「んぎゃっ!?いったーい!!何でチョップすんのよっ!」
「何となくだ!いいから使い魔を造れや!」
「ムリに決まってんでしょ!」
結局のところ、媒体やら触媒の用意が整っていない為、使い魔の創生はムリだと判明した。
考えていた素材がガッツリ変更になったから、仕方がないのだろう。
フェリが『これから愛を込めて用意したげる!』と言うので、俺はその言葉を信じて今夜は帰ることにした。
愛を込めても使い魔の性能に差は出ないんじゃねーの?と思いながら。




