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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第37話 冒険者ギルド


 俺たちがギルドへ到着すると、ギルマスであるグレイス、Aランクのトライワンズ、英雄のルル、宮廷魔導士のエルが一堂に会している状況に、冒険者たちは驚いた。


「依頼の達成処理は私とリリエラたちでやっておくから、キルたちは魔獣の売り渡し手続きをしてきてね」


 グレイスはそう言いながら俺に近づき、俺の耳元へ口を寄せてくる。

 その様子を見た冒険者たちやギルド職員たちが、騒めきの声を上げた。


「キル、出すのはリリエラたちを救援した時に倒したキマイラ三十二体と、危険種は第二級までにしてね」


「他のはどうするんだ?」


「第一級と特級はキルのランクアップ後に、オークションで売る方が良いと思うわ。エントワーズ森林の解放と解放した後の現場状況については、陛下か宰相閣下に直接ご報告すべきよ」


 俺はグレイスの提案に納得し、グレイスが手配していた魔獣買い取り担当者と共に、ギルド裏手にある倉庫へと移動した。


「エルランテ様、ルルエンロード様、キルさん、私は買い取り担当のエズモンドと申します。ギルドマスターから話は聞いていますので、拡張バッグの中から魔獣を出して頂けますか?」


 エズモンドはエルに向かって話している。

 建前上、この中で最も身分が高いのは、宮廷魔導士第二席のエルだ。

 エルに仕切らせようかとも思ったが、今後を考えて俺が仕切ることにした。


「わかった。ルル、エル、俺のはデカイのが多いから、お前たちから先に出してくれ」


「はぁーい!」


「はいなのです!」


 エズモンドは俺が『ルル』『エル』と呼んでいることを訝しみながらも、次々と並べられていく魔獣を見て、冷や汗を流しながら唖然とし始めた。


「こ、これを三人で討伐したのですか?」


「そうだが、何か問題でもあるのか?」


「い、いいえ、問題はないのですが、三人で討伐できる数の危険種ではないと思ったもので…」


「そうか?EXランクの冒険者なら、これくらいは簡単に討伐できると聞いたんだが?」


「そ、それはそうかもしれませんが…」


「ああ、俺は登録したばかりだからFランクだが、EXランクのヤツだって、最初はFランクだっただろ?まあ、あまり深く考えるな」


「わかりました…」


 エズモンドは部下らしき三人の職員と共に、並べられた魔獣の査定を始めた。

 彼らを見ていると、部下らしき三人は職員ではなく、魔獣解体専門の職人のようだった。

 並べた樽に危険種の血液を入れ終わると、皮や毛皮の剥ぎ取り作業に移っていく。


 手際の良い作業を眺めていると、エズモンドが『まだ時間が掛かるので、ギルドホールか酒場で待っていてください』と勧めに来た。


 俺も手持ち無沙汰だったため、エズモンドの勧めるとおり酒場へ移動することにした。


 ギルドホールとは、ギルド中央にある円筒形の建物の一階部分のことで、ギルドホールと右半分の建屋が窓口なのどの業務エリアになっている。

 左半分には酒場が併設されており、手続きを待っている冒険者や、手続きを終えた冒険者たちが飲食をしている。

 ギルドもなかなか商売上手だ。


 俺たちが酒場へと移動すると、そこにはキャルレインとレイラがいた。

 キャルレインがコッチコッチと手招きをするので、俺たちはそのテーブルへと向かう。


「キャルレインとレイラは、何もしなくていいのか?」


「完了手続きはリリエラだけで出来るの。私たちの出番は、キル様が渡した魔獣の査定が終わってからなの」


「そうか。時間が掛かりそうだな」


「キルさん、十七体の危険種、それも外傷が全くないものばかりです。解体と査定が今日中に終わるかどうかだと思います。ランクアップ審査は明日以降になるでしょう」


「やっぱそんな感じか。まあ、そんな気はしていたが」


 そんな話をしていると、酒場のウエイトレスが注文を聞きにきた。

 キャルレインとレイラはエールを飲んでおり、ルルとエルも同じくエールを注文した。


 俺は前世の頃からビール党なのだが、この世界のエールは麦芽の味が薄く炭酸も弱い上に常温なので、俺はあまり好きではない。

 と言うか、ぶっちゃけかなり不味い。

 アルコールを欲していたわけでもないので、野イチゴなどの果汁を添加した果実水を注文した。


「キル様はお酒キライなの?この前も果実水を飲んでたの」


「ん?酒は好きな方だが、エールが俺の好みに合わなくてな」


「ぷはぁ!この一杯のために生きてるですぅ!」


「変な冷や汗をいっぱい掻かされたから、エールが美味しいのですよ!」


 ルルは酒が弱いくせに酒好きだ。

 エルは俺にケンカを売っているのだろうか?



 時間潰しに他愛のない会話をしていると、三人の若い男性冒険者たちが近寄って来た。

 先頭を歩く男は煌びやかな装備に身を包んでおり、着けているアクセサリーの幾つかは魔道具のようだ。

 残りの二人はごく普通の装備で、立ち位置からして従者か何かだろう。


「ギルドの酒場にこれほど美しい女がいるとはな!ギルドにも足を運んでみるものだ」


 煌びやかな装備の男は、さも当然の如く頭の悪い発言を始めた。


「俺はコンキュート男爵家次期当主のパットンだ。女たちよ、皆纏めて私の専属護衛として雇ってやるから付いて来るがいい」


 こっちが恥ずかしくなる程のバカである。

 ルルたちも『うわぁないわー』という表情をしている。

 俺も『最初に死ぬ系の三下だな』と思いながら、繁々と顔を見た。


「そこのお前、お前のように碌な装備もない男は要らぬ。早々に消えるがいい」


 目が合って即不要と言われてしまった…

 俺のグラスハートが砕けるじゃないか。


「俺たちは依頼の完了手続き待ちでな。お前こそ鬱陶しいから消えろ」


「無礼者が!貴族である私にその様な口を利くとは、不敬罪で斬り捨てるぞ!」


 この世界には不敬罪という罪科が存在する。

 一般的に、貴族でない者が貴族に対して無礼な振る舞いを取った場合に適用される。

 不敬罪で罰せられる庶民はかなり多いらしいが、その大半はアホな貴族の選民意識が生み出す冤罪だという。


 俺が知る限り、テスラには不敬罪の乱用を取り締まる貴族条例があったはずだ。

 また、不敬罪が適用されるとしても、テスラの場合は罪状を確定させる審問手続きが必須だと記憶している。


「この国で問答無用の切り捨ては禁止されてるはずだが?お前はそんな事も知らないバカ貴族か?」


「おのれ下郎が!貴様のような下賤の輩をいくら切り捨てようが、我ら貴族に咎めなどないわ!お前たち、この男を斬り捨てろ!」


 従者らしき二人が抜剣して前へ進み出ると同時に、ルル、エル、キャルレインの三人も武器を取った。


 こんな小僧三人組などエル独りでも十分だが、切っ掛けである俺が見物しているわけにもいかない。

 俺が溜息をつきながら仕方なしに立ち上がると、男二人が剣を振り上げた。


 その瞬間、一人だけ静かに座ったままだったレイラが、俺と男たちの間に割って入った。


「理不尽にも程があります。貴方は貴族どころか、冒険者を名乗ることすら烏滸がましい」


 割って入ったレイラがそう告げると、貴族の男は従者二人を押しのけて進み、レイラの顔を納剣したままの鞘で殴りつけた。

 レイラの口内が切れ、唇の端から一筋の血が流れた。


「下郎と一緒にいる女も所詮はゴミか。お前も一緒に斬り捨ててくれるわ!」


 俺を庇って血を流すレイラを見た時、俺は前世での出来事を思い出した。

 リヴァームズの警備に殴られる俺を庇い、俺の代わりに殴られて流血した色葉の姿がレイラと重なった。


「…調子に乗るなよクソガキ」


 俺はレイラの腕を引いて退かせ、貴族の頭を鷲掴みにして酒場の壁に向けて投擲した。


「ガハッ!」


 重力を感じさせない水平投擲をされた貴族は、鈍い音を立てて壁へとめり込み、肺の中に溜まっていた空気を吐き出した。


「「パットン様!?」」


 俺は貴族の有様を見て固まっている従者二人を一瞥し、壁にめり込んでいる貴族へと歩を進める。


「き、貴様…この俺に…こんな真似をして…只で済むと――」


「無駄口しか利けねぇ口は要らんな」


―――ザシュ!


 俺はバトルナイフで貴族の口を横一文字に斬り開いた。


「あごぉあぁぁっ!?ヒッ、ヒッ!?ひゃめへよぉ!ひゃめへふぇ!」


 口を裂かれた時に舌も切ったのか、貴族はボタボタと大量の血を流しながら、聞き取れない言葉を喚いた。


「まだ無駄口が利けるようだな?」


―――メキャッ!!


 俺は鼻を潰す勢いで、貴族の顔にショートレンジの打ち下ろしストレートをめり込ませた。

 放ったストレートの勢いで貴族の頭が壁を破り、頭だけがギルドの外へと突き出された。


「おい、そこの二人」


 振り向いた俺に呼ばれた従者の男たちは、引き攣った顔で俺と視線を合わせた。


「未だに抜いてるその剣は、俺を殺すためか?あぁ!?」


「い、い、いいえ!!」

「すすすみませんでした!許してください!!」


「めんどくせぇから許してやる。このゴミを回収して消えろ」


「「は、はいぃっ!!」」


「ああそうだ、お前らを見かけたら問答無用で潰すからな。罪状は“俺の視界に入った迷惑罪”だ。ま、精々俺の視界に入らないように気を付けることだ」



 壁に埋まった貴族を掘り出した二人がギルドを出た事を確認した俺は、座っていたテーブルに向かって歩く。

 周りの冒険者たちや酒場の店員、騒ぎを聞きつけた業務エリアのギルド職員たちの視線が俺に集まっていた。


「キル様!カッコ良かったですぅ!ルルは痺れちゃいましたぁ♪」


「キ、キルアス様、少しやり過ぎだと思うのですよ?」


「キル様ステキなの。躊躇のない残虐性がカッコイイの」


「キルさん、後で問題になると思いますよ?」


「バカに身の程を教えてやるのも大切だろ?一種の社会奉仕活動だ」


 ルルとキャルレインはキラキラした眼差しで俺を見詰め、エルとレイラは苦笑している。


 俺がレイラに治療術式をかけて傷を治していると、抜剣した五人の公都警備隊員がバタバタとギルドへ入ってきた。

 警備隊員たちは酒場を見渡すと、俺たちの人相や人数を確かめて駆け寄って来た。


「コンキュート男爵家のご子息を襲ったのはお前だな!傷害罪と不敬罪の容疑でお前を連行する!大人しくついて来い!」


 いきなり容疑者扱いをする警備隊員にイラっときた俺は、こいつらも壁に埋め込んでやろうと思い立ち上がった。

 メンチを切って立ち上がる俺を警戒した隊員たちが、手にしている剣を強く握った。


「ちょっと待つのです!私は宮廷魔導士第二席、エルランテ・ルナ・ファールなのです!この件はコンキュート男爵家に非があるのです!私が身元保証人となり、この人の身柄は宮廷軍務院で預かるのです!コンキュート男爵家側に異議があるなら、司法院へ申し立てよと伝えるのですよ!」


 エルが着るローブの胸につけられた宮廷魔導士の証を見た警備隊員たちは、どうしたものかと互いに顔を見合わせている。

 するとそこへ、ギルドマスターたるグレイスが現れた。


「警備隊の皆さん、私も今回の事態における非が男爵家にあると認識しているわ。証言が必要ならば後日改めて、うちの職員や周りで見ていた冒険者たちを召喚してちょうだい。解ったら、この場は引き上げてくれるかしら?」


「…わかりました。我々としても、この場で出来る事はなさそうなので引き上げます。公都警備隊としては、本件の報告書を貴族院と司法院へ提出するという形で処理します」


 小隊長らしき警備隊員がそう言って踵を返すと、他の隊員たちもそれに続いてギルドを出て行った。


 座ったままで傍観していた俺に、グレイスがジト目を向けて歩み寄って来た。


「事の次第は部下から聞いたけど、口を切り裂いて顔を潰すなんて…ちょっとやり過ぎじゃない?」


「まあ、イラっときて衝動的にやったことは認める。が、後悔や罪悪感は微塵もない」


「そんなにキッパリ言われちゃうと、私は何も言えなじゃない。まあ、コンキュート男爵家の跡取りは前々から評判が悪いのは確かだけど」


「で、グレイスはそれを言いに来たのか?」


「冒険者同士のいざこざで、私がわざわざ出てくるはずないじゃない。キルが私にとって特別な存在だから来たのよ?」


 グレイスが魅惑的な眼差しで俺の肩口に両手を置き、少し背伸びをしながら口を寄せて囁くように言った。

 二の腕に当たる魔乳の感触と相まって、効果絶大な戦術だ。


「むぅぅぅっ!グレイスさんは誘惑禁止ですぅ!」


「ルルちゃんは素直で可愛いわね。査定が終わったから、二階の会議室へ来て欲しいと伝えに来たのよ」


「えへへですぅ♪」


 頬を膨らませて睨むルルを余裕で相知らうグレイス。『可愛い』と言われて喜んでしまうルル。

 経験値の差を見せつける光景だ。

 どうでもいいが、周りで見ている男たちが俺に向ける視線に、殺気が乗っていてウザい。



 グレイスに案内されて会議室へ入ると、査定担当のエズモンドと、若い女性職員の二名が待っていた。


「みんな適当に座ってちょうだい。先ずは彼女を紹介するわね。彼女の名はリリアーデ、うちの幹部候補職員よ。今後は彼女にキルの案件を担当させるつもりでいるわ。若いけど優秀な子だから、色々と上手く対処してくれるはずよ」


「キルさん、初めまして。リリアーデ・シルストイです。どうぞ宜しくお願いします」


「ああ、宜しく頼む。苗字持ちがギルド職員ってのも珍しいな。シルストイか…聞いたことあるような?」


「私は四女なので歳は離れてますけど、グレン・シルストイの妹です」


「ああ、グレンの…え?」


 俺が咄嗟にグレイスに目を向けると、グレイスは俺にウインクを返してきた。

 いや、そのウインクの意味も解らんのだが…


 グレンの妹だというリリアーデの登場に戸惑いつつ、俺はグレイスの思惑を計れずにいた。


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