第31話 公都への帰還
グリフォンの始末方法を考えていた俺は、グレイスから聞いた『値が付かないのは脳だけ』という情報に従い、脳だけをターゲットにする術式を創ることにした。
糸縛したグリフォンの周りを歩いたり、グリフォンに登ったりしながら術式構成を考えていたら、展開したままだったシールドの内面に張り付くようにしてこっちを見ている皆が視界に入った。
「あぁ忘れてた。キマイラを始末した時点でシールド消しても良かったな。まぁ、それも結果論か」
俺がシールドを消すと、皆がこっちに向かって一斉に走り出した。
ルルの巨乳とグレイスの魔乳が上下に激しく揺れる光景が…眩し過ぎるぜ。
「グリフォンが蜘蛛の糸に捕まった虫みたいですぅ!」
「キマイラを殲滅した術式も驚いたですけど、これはもっとビックリなのですよ!」
「キルの魔術って奇想天外ね。発想の源が知りたいわ」
「君ってほんとに未登録なの!?自分のAランクが無価値に思えるんだけどっ!!」
「強いの。トキめいたの」
「シールドを展開したまま抜け出す方法を、私に教えて頂けませんか?」
駆け寄って来た六人が、一斉同時に喋り始めるが、俺にそれを聞き分けるスキルはない。
あっても応えるつもりはないが。
「うるせーっ!!術式を考えてんだから静かにしてろ!」
ったく、何を考えてたか忘れちまったじゃねーか。
あ、ステータス見ながらの方が考え易いか?
俺はステータスプレートをポケットから取り出し、魔力を流した。
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【名前】キルアス・ルスト・デュケ・テスラ
【種族】人間族 【性別】男 【年齢】偽:16歳(8歳)
【クラス】魔導戦闘士・マスタージャッジメント
【称号】神権執行者・エレメントの盟友・悪魔殺し・魂魄の支配者・魔獣の天敵
【レベル】107
【体力】7800 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【魔力】310000 [高速融合+90000][魔力圧縮+130000]
【魂力】55000 [魔魂融合+80000]
【耐久】6200 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【敏捷】7500 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【物防】6500 [闘気解放+20000][闘魔混合+40000]
【魔防】220500 [魔力循環+30000][闘魔混合+40000]
【スキル】無詠唱・術式並列制御・闘気解放・魔力圧縮・闘魔混合・次元制御・
魔眼
【固有スキル】咒式創造・咒刻・解咒・魔力直接制御・術式創造・生体進化・
神眼・神化・魔術解析・魔魂融合・魔咒式創造・冥族探知・冥王 召喚
【魔術】爆炎・氷冷・暴嵐・霹雷・地殻・冥王・神聖・境界・刻印・錬成・錬金
合成・複合・召喚・重力
【加護】創造神・智神・技神・魔神・武神・慈神・???・死滅のエレメント
【罪科】なし
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うーむ、相変わらずの成長期ど真ん中。
レベルが上がるのは見てて嬉しいが、体力だの魔力だのを数値化する意味があるんだろうか?
術式を理解しても、魔力が足りなければ発動できないのは判るけど…
俺の魔力値が異常だと言われれば、それまでだが。
さてと、スキルと魔術系統で使えそうなものは…
重力魔術って使ったことねーな。けど、重力で脳だけをピンポイント破壊できるか?
重力…反重力…加速度…重さ…軽さ…引っ張る…離れる…歪める…飲み込む!
光さえ飲み込む無限大の密度と重力。大質量が収縮した天体、ブラックホール。
イケそうな気がするし、先々の応用範囲も広そうじゃね?
これを境界魔術と絡めれば…
「よし、術式完成!」
「ねえキル、ステータスプレートを見て術式を作るの?訳が解らないのだけど…」
「ん?ああ、スキルと魔術系統の数が多いからな。項目が多いと書き出した方が思考し易いだろ?」
「憶えられない数のスキルと系統って…一体いくつ持ってるの?」
「三十くらい?」
「はぁ…スキルと系統だけで三十って…じゃあ術式の数はどれ程になるのよ…。それで、どんな術式を何に使うの?」
「グレイスが言ったんじゃないか、グリフォンで金にならないのは脳だけだって。だからグリフォンの脳だけをターゲットに出来る術式を作った」
「え!?このグリフォン…まだ生きてるの?」
「普通に生きてるぞ。糸で拘束しただけだからな」
俺の言葉を聞いた皆が一斉に後退った。
今更なにをビビッてるんだろうか。
グリフォンが敵対行動可能なら、既に何かしてるに決まってるだろうに。
「こいつは何も出来ないから心配するなって」
「グリフォンは閃光と雷撃の魔術を使うのです!危険が危ないのですよ!」
「へぇ、やっぱ魔術を使うのか。魔獣の術式ってどんな仕様なんだろうな?無陣・無詠唱だろ?魔力を直接操作できるってことか?」
「キル様が平然としてるのは、魔術も封じているからですかぁ?」
「ルル、お前は時々鋭いな。残念オオカミのくせに」
「わぁーい!褒められましたぁ♪」
決して褒めてはいない。むしろディスった方向だ。
やはりルルは残念な子だ。
「ねえグレイス…この人なんなの?魔獣の魔術を封じるとか意味不明なんだけど!」
「リリエラ、キルのことを深く考えてはダメ。エルフの知識でも理解できないのだから、考えるだけ無駄よ」
「どうやって魔術を封じているのです?精霊魔術へのカウンターとか、エルは原理が知りたいのですよ!」
エルは相変わらず好奇心旺盛というか、向学心旺盛でメンドクサイ。
自分で実証実験が出来ないんだから、原理を説明したって理解できないだろうに。
俺だって試行錯誤してんだから。
「エルランテ、同じエルフ族として貴方の向学心が疼くのは解るわ。でもね、身の丈に合った学びでなければ、身に付かないというのも事実なのよ」
ほお、流石は321歳のダークエルフ。ナイスフォローだ。
今後起きる面倒事は、率先してグレイスに押し付けるとしよう。
適材適所、良い言葉である。
「原理なんてものは、自分で考え理解し実証しろ。あと、厳密には、この糸は魔術を封じてるんじゃなく、魔力遮蔽特性を付加してるだけだ。ま、広義では刻印魔術の系統だが、糸に刻印なんぞ出来ないから、付与方式で特性を付加してある」
陽も傾いてきており、多少の空腹感を覚えた俺は、ちゃっちゃと片付けて公都へ戻るべく、新作術式を発動することにした。
「重境合式―重球」
目視は不可能だが、亜空間で超質量を圧縮して創った極小のブラックホールが、時空間転送されてグリフォンの頭蓋内に顕現した。
重球がグリフォンの脳を漏れなく飲み込んだ事を確認した俺は、再び重球を時空間転送して、亜空間内で消滅させた。
念のためにグリフォンの生体反応を感知してみたが、間違いなく死亡している。
俺はグリフォンの糸縛術式を解除すと、グリフォンを拘束している数百万本の糸が、光の粒子となって霧散する。
拘束を解かれたグリフォンの死骸が星の重力に引かれて地に倒れ伏し、落ち葉や土埃を巻き上げた。
「よし、状況終了だ。魔獣の死骸を回収して公都へ戻るぞ。ルル、エル、お前たちはキマイラの死骸を回収してくれ」
「「はーい!(了解なのです!)」」
トライワンズの三人が呆然自失としてグリフォンの死骸を見詰める中、グレイスが異議申し立てをするかの如く喋りだした。
「ちょっと待ってよキル。魔獣の死骸を回収するって、荷車も何もないのよ?回収なんて出来ないじゃない。エルランテも、何を平然と快諾しているの?」
「ああ、そのツッコミは想定内だ。説明は俺がするから、ルルとエルは回収に向かっていいぞ」
「「はーい!(はいなのです!)」」
さて、どう説明したものか。
グリフォンを俺の収納庫に入れるのを見せて『こういう事だ』で済ませてもいいが、見た目では死骸が消えるだけだからな。
今回だけでなく、今後も冒険者ギルドに魔獣を買い取って貰う事を考慮すれば、グレイスには知っておいて貰う必要があるな。
「グレイス、お前は魔術器官が、現界とは別の時空間に在る事を知っているか?」
「体内に感知は出来ても実在はしない擬似器官。その事を言ってるのかしら?」
「その擬似器官だ。が…そうか、グレイスでも知らないか」
俺は擬似器官が位相の異なる虚無空間に存在し、魔術師が魔力を感じ魔術を行使できるのは、現界と虚無空間との位相を合わせて接続するからだと説明した。
幸いな事に、グレイスは時空魔術の系統持ちであり、俺の瞬間移動を体験していたので、別次元は存在するのだろうという認識を示した。
「そこでだ、俺は時空魔術の最上位である境界魔術を使えるし、次元制御のスキルも持っている。簡単に言えば、好きな様に別次元を創ったり弄ったり出来るって事だ」
「あぁもぉ…解ったわよ。だけど、別次元を作れる事と死骸を回収する事、その二つがどう繋がるのよ」
俺は来ているコートの右袖を捲り、収納庫の媒体であるブレスレットを見せながら言う。
「このブレスレットな、俺が創った次元空間とのゲートになってるんだ。内部の時間は止めてあるから、生ものを入れても腐敗したりしない。俺はその次元空間を収納庫として使ってる。ルルとエルも同様だ。この収納庫を使えば、こういう事が出来る」
俺がグリフォンに視線を向け、“収納”を意識した刹那に、グルフォンの死骸が忽然と消えた。
死骸を見詰めていたトライワンズの三人が、顎でも外れたかの様に大口を開け、半眼だった目が大きく見開かれた。
グレイスが目頭を指で摘み、首を左右に小さく振りながら口を開いた。
「今、そのブレスレットの中にグリフォンの死骸を収納した…ということ?」
「そういう事だ。グレイスは理解が早くて助かる。ルルとエルも回収を終えたようだし、公都へ戻って晩メシでも食おう。今夜は俺が奢るから、グレイスの好きな店へ案内してくれ」
グレイスは力なく肩を落とすと、『わかったわよ…』と呟いた。
すると、『今夜の晩メシを俺が奢る』というフレーズに引っ掛かったトライワンズの三人が、俺の超至近距離へ詰め寄って来た。
「ちょっと!夕食を公都で食べるって何よ!?また意味不明なんだけどっ!!」
「ここはグリントフォード辺境伯領なの」
「街道まで移動して野営の支度を始めるべきだと、私は思うのですが?」
一々一々、うるさい奴らだな。
ルルみたいに『はーい!』って元気に返事してればいいのに。
「俺が今から言うことを脳みそに刻み込め。当然だが問答無用だ。それが嫌だと言うなら、お前らを仮死状態にして公都へ運ぶ」
「「「は?」」」
「リリエラ、悪い事は言わないから、キルの言うことを聞いて。じゃないと、キルは本当に貴女たちを仮死状態にして運んでしまう気がするわ。リリエラはトライワンズのリーダーなのだから、パーティーのためになる判断をすべきよ」
「わ、解ったわよ!グレイスがそこまで言うなんて、すっごく怖いから…聞くわよ!」
「よしよし、物分かりの良い奴は好ましいぞ。では言おう。瞬間移動術式で皆纏めて公都へ帰還する。以上だ」
「「「はぁっ!?」」」
「そういう事よ。私が此処へ来れたのも、そういう事なの。リリエラ、決して深く考えては駄目よ」
トライワンズの三人は、『言いたい!聞きたい!けど仮死はイヤ!!』といった様子で指をワキワキさせながらもコクリと頷くと、深い溜息と共にガックリと肩を落とした。
その様子を見ていたルル、エル、グレイスの三人は、『もう諦めて』といった面持ちで苦笑している。
「よし、術式を発動するから俺の周りに集合」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「ほう、仮死をお望みか?」
「違うわよ!質問じゃなくて馬車!私たちの馬車!放棄なんてしないんだから!」
リリエラの言葉に、残りの二人もコクコクと頷いている。
言われてみれば当然か。徒歩移動のはずがない。
俺たちはリリエラの案内で馬車を乗り捨てたという街道付近へ移動した。
確かに馬車はあったが、馬は二頭ともキマイラに喰い殺されており、荷車も横倒しになって車軸が折れていた。
「この馬車高かったのに…また馬車を買わなきゃだわ」
「荷物も、めちゃくちゃなの…」
「無事な荷物だけでも拾い集めましょうか…」
トライワンズの三人は、馬車の惨状を見て意気消沈した様子だ。
二頭立て馬車の値段は知らないが、そう安い物ではないのだろう。
「ちょっと疑問なんだが、お前たちは街道で魔獣に襲われたのか?」
「そうなの…私たちもキマイラの群れが街道に現れた時には驚いたよ。最近、大陸南部で魔獣の活性が高まってるっていう噂は、どうやら本当みたいだね」
「そうみたいね。今回トライワンズがグリントに来たのも、魔獣討伐依頼だものね。依頼完了の報告は受けているけれど、そっちは問題なかったの?」
「うん、そっちは問題なかったよ。依頼内容のとおり、第三級危険種が鉱山に入り込んで、そのまま立て籠もってた。グリントのAランカー三人と共闘して討伐したわ。でも、危険種が街に近い鉱山に出たっていう事自体が、かなり異常だよね」
ふーん。大陸南部で何か異変が起きてるのかね?
魔獣の活性が高まる理由とかも知らないし、今度少し調べてみるかな。
皆で拾い集めた無事な荷物を俺の収納に収めた後、俺たちは瞬間移動術式でグレイスの執務室へと帰還した。




