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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第3章 公都での暮らし
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第26話 城外へ


 城外での暮らしに向け必要最低限の荷物を纏めた俺は、コッソリと城を出るべく、夜明け前の内城門へ来ている。

 コッソリではあるが、母上をはじめとした身内は見送りに来てくれている。

 父上の見送りは俺が断った。父上が動くと近衛兵がわらわら付いて来て目立つからだ。

 父上も『男子の旅立ちを男親が見送るのもな』と、あっさりしたものだった。



「キルアス、体には気を付けるのですよ。大人になっても不摂生をせず、ちゃんと食事を摂ってね。ルルさん、エルランテ、キルアスの事をお願いしますね」


「キルアス様のご立派なお姿を見ることが出来て、クリスタは感無量でございます。うぅ…」


「母上、そんなに心配しなくても大丈夫だから。クリスタも泣くなって。別に今生の別れってわけじゃないんだし」


「キルアス、私の魔術を封じた悪魔を退治してくれてありがと。キルアスが出て行くと寂しくなるけど、私も魔術の鍛錬を頑張るわ。キルアスは最初から弟ぽくなかったけど、本当に兄上みたいになっちゃったね…」


「セリーまで泣くなよ。セリーはその辺の魔術師より高い魔力を持ってるから、鍛錬すれば良い魔術師になれる。頑張れよ」


「皆様!キルアス殿下の事は、ルルさんと、このエルランテにお任せなのです!」


「ルルもキルアス殿下のお世話をしまーす!お任せですぅ!」


 ルルとエルは、なぜ上から目線的な発言なんだろうか?

 精神年齢は明らかに俺の方が上だし、今では物理的にも俺が二人を見下ろす状態なんだが。


 昨夜、俺は進化して身長が192cmになった。

 体重はわからない。この世界には、お手軽な体重計がないからだ。


 泣き言になるが、進化中はぶっちゃけ痛かった。

 骨格や筋肉を強制的に成長させるため、ギシギシと音を立てる関節や、ブチブチと切れては再生する筋組織などの痛みに苛まれた。

 脂汗が滴る程の苦痛に小一時間ほど耐えた俺は、『麻酔術式があれば…』と後悔したのだった。


 苦痛は別として、体の成長は想定の範囲内だったが、ステータスまでもが軒並み倍近く上昇していた。


 魔力に至っては倍以上の24万超になったが、魔力過多な気がしてならない。

 黒い天使に撃った最大出力の雷禍でさえ、消費魔力は5000ちょっとだし。


 父上が『生物のステータスではないな』と呟いた言葉が、何気に心に刺さった。



「もうすぐ夜明けだし、そろそろ行くよ。暫くはテスラに居るから、帰城することがあるかもしれない。ま、皆も元気でな」


 そう言って別れたものの、実のところ、相当期間は公都内の宿に泊まることになるだろう。

 探索者ギルドでの探索者登録、冒険者ギルドでの冒険者登録、迷宮探索用道具類の調達、装備の調達、食料の買い出しなとどなど、迷宮探索以前にやる事が山積している。


 ともあれ、俺は外城門から一歩を踏み出し、初めて城外へと出た。

 遠くに見える山脈の稜線から、朝日が顔を出し始める。


「たった一歩だが、城外で見る朝日は、城から見るそれとは違うもんだな」


「素敵な朝ですぅ。キルアス殿下、朝ごはん食べに行きませんかぁ?」


「朝食はいいが、今から“殿下”はなしだ。キルアスもしくはキルと呼べ」


「はーい。キル様!」


「エルはキルアス様と呼ぶです!」


「身分を隠すんだから、様も要らない。さん付けくらいが妥当だろ」


「それは違うです。様を付けない方が変に思われるのですよ」


「どういう事だ?」


「街を歩けば判るですが、キルアス様の外見は、服装も含めて一般人とは全く違うのですよ?」


 別に煌びやかな服を着てるわけでもなく、装飾品も付けてないんだが。

 服の生地にしても、これ普通の綿だよな?


「具体的にどう違うんだ?ルルもエルも似たようなもんだろ」


「朝ごはんを食べに行けば判るですぅ」


 百聞は一見に如かずか。

 ま、おかしなところは追々直していけばいいか。


 テスラの公都は、城を中心として円形に区画整理された街が拡がっている。

 城の尖塔から城下を眺めると、外側へ行くほど建物が低くなっているのが判る。

 規模は違うが、地球の都市部と似たようなものだ。


 城の外周は貴族区で、貴族屋敷や政府の出先機関が立ち並んでいる。

 城に近い屋敷ほど敷地と建物の規模が大きく、遠くなるに連れて小さくなる。


 貴族区を抜けると途端に敷地面積が小さくなり、建物の密集度が上がった。

 この辺りは商業区だ。通りに面した商店が、早くも開店準備を始めている。

 それにしても、本当に日の出と共に動き始めるんだな。まだ五時だぞ?


 商業区を抜けると、建物の密集度が更に上がった。

 石造りの建物が隙間なく立ち並び、建物の高さもほぼ均一だ。

 雰囲気的にはローマの街並みを想起させる。


「この辺からが公民区なのです。宿はこの辺りで探すと良いのです」


「凄いな。既に昼間の如く人が動いているぞ?」


「キル様がお寝坊さんで夜更かしさんなんですぅ。キル様が晩ごはんを食べる終わる頃に、普通の人は寝ちゃうのですぅ」


 マジか…

 クリスタにも似たような事を言われていたが、二十時台の晩メシって遅いのか?


 ここへ来てエルの言っていた事が理解できた。

 この辺で生活する人々と、俺の外見には大きな隔たりがある。

 衣服のカラーバリエーションが少なく、オフホワイトかブラウン系で統一しているかの様だ。生地にしても、麻っぽいゴワゴワした感じの物が多い。


「キルアス様、エルの言った事が解ったですか?」


「ああ、服装がこんなに違うとは思ってなかった」


「服装だけではないのですよ?キルアス様は日焼けもしてないですし、毎日お風呂に入って髪や体を洗っているですから、清潔感が全く違うのです」


「え、風呂に毎日入らないのか?まあ、俺も面倒な時は入らずに寝るけど」


「入らないのではなく、入れないのです。お風呂用の水を井戸から汲むなんて重労働すぎるですし、上水設備を使うには契約金と工事代金、それに月々の利用料金が必要になるのです。お湯を沸かすにも、大量の薪を公都外の森で拾ってくるか、商店で買わないといけないのです。公衆浴場もあるですけど、利用料金の相場は銀貨一枚もするです。だから、庶民が毎日お風呂に入るなんて無理なのですよ」


「銀貨一枚って高額なのか?」


 エルの一般常識講座によると、定職に就いている一般庶民の平均月収は、大銀貨で九枚前後。

 一般庶民で大銀貨十枚以上の月収を得られるのは、有用なスキルを持つ者に限られるらしい。


 大銀貨一枚は銀貨十枚で、月収を銀貨換算すれば九十枚前後になる。

 公衆浴場を毎日利用すれば、一月の費用は銀貨三十枚。

 実に月収の約三割が、風呂代だけで消えてしまうわけだ。


「それは…ショッキングな話だ。なあ、白金貨って大銀貨換算で何枚だ?」


「千枚です」


 ナンテコッタ。

 大銀貨九枚で一月生活できるのなら、白金貨一枚あれば十年近く生活できる。


「キル様!あのお店の朝食セットが美味しいみたいですぅ!」


 エルの常識講座を聞いている間に、ルルは周辺で聞き込みをしていたようだ。

 ルルとエルに連れられてその店へ向かう。

 城内ではいつも先頭を歩いていた俺が、城外では二人の後に付いて歩いている。

 なんとなく屈辱…


「いらっしゃいませー!何人ですか?」


「三人ですぅ!」


「奥から三番目の丸テーブルへどうぞー!」


 店内は欧米のバルみたいな内装と雰囲気だ。

 六時前にも拘わらず、店内は客でごった返している。

 俺たちは体を横にして、客たちの間を縫うようにしてテーブルへと進んだ。


「何にしますか?」


「朝食セットを三人分くださぁい」


 朝食セットを注文したルルが、テーブルの上に銀貨一枚をパチンと置いた。

 店員の女性はその銀貨を手に取り、厨房に向かって『セット三つでーす!』と叫ぶと、ウエストポーチから銅貨一枚を出し、テーブルにパチンと置いた。

 将棋を指すようにお金を受け渡すのが、この世界の流儀なのだろうか?


 ものの三分もしない内に、大きめのワンプレートに纏められた朝食セットとコップが提供された。

 プレートには全粒粉であろう中まで茶色い大きなパンが一つ、こんがりと焼かれた全長20cmくらいの厚切りベーコンらしき肉が二枚、オイルドレッシングを絡めたザク切り葉野菜がこんもり、厚めにスライスされたレッドチェダーらしきチーズが二切れ盛ってある。

 コップに注がれた液体は、レモン果汁が少し添加された水だ。

 かなりのボリュームで、ルックスも美味そうだ。


 ルルとエルが、全ての具材をパンに挟んで齧り付き始めた。

 俺もそれに倣って齧り付く。


「へぇ、美味いな」


「美味しいですぅ!」


「ルルさんグッドリサーチです!」


「これで幾らだ?」


「一人分が銅貨三枚ですぅ。あ、銅貨十枚で銀貨一枚ですよぉ」


 安っ!?

 三人分の朝食よりも、風呂に一回入る方が高いのか…

 風呂が贅沢なんだろうな。


「この店が特別に安いのか?」


「んー、美味しいからお得感はありますけどぉ、公民区なら銅貨三枚から五枚が普通ですよぉ」


 これを地球で買うと十数ドル、もしくは千数百円はするな。

 文明水準が違うから一概には比較できないが、貨幣価値は四倍くらいか?

 父上に貰った白金貨三十枚があれば、当面の生活費は心配無用だな。


「これ喰ったら、探索者ギルドと冒険者ギルドへ行くぞ」


「登録するですか?」


「そうだが、何か問題あるか?」


「キルアス様は装備が無いのです。探索者も冒険者も、初回登録の時には装備の確認をされるのですよ」


「装備がないと登録できないのか?」


「以前は装備を買うお金がないのに登録して、魔獣と戦って死ぬ新人が沢山いたですから、ギルドが装備確認をするようになったです。ただ、推薦状とか資産証明があれば無装備でも登録できるです。キルアス様が持っているテスラ大公家の短剣を見せれば、超VIP待遇で登録できるですけど、キルアス様はそれ嫌なのですよね?」


 なるほど、先ずやるべきは装備の調達か。

 あ、俺のストライクガンとナイフ、僕神に預けたままだわ。

 どうにかして受け取れないもんかな。


「なあエル、一人きりで祈れる教会か聖堂を知らないか?」


「はい?聖堂になら“告白の小部屋”があるですから、一人でお祈りできますけど…なぜお祈りするです?」


「そうか、お前たちには事情説明が必要か。今夜の宿で説明しよう。兎に角、今は聖堂へ案内してくれ」



 食事を終えた俺たちは、聖堂へと向かうことにした。

 教会なら公民区にも幾つかあるが、聖堂は商業区と貴族区の区境にしかないらしい。

 来た道を戻る形で二十分ほど歩くと、中世ヨーロッパ的な大聖堂が見えてきた。

 大聖堂は、公都の南門と北門を結ぶ中央大路に面した一等地に建っている。

 大聖堂の中にいた神父に『神に告白をしたい』と告げ、告白の小部屋へと案内して貰った。


 告白の小部屋は一平米くらいの、小部屋と言うに相応しい広さだ。

 壁の棚には、五柱神の小さな立像が並べられている。


『キルアスだ。誰でもいいから応えてくれないか?』


『あら、テスラ大聖堂にいるのね。やっと城を出られたのかしら?』


『そうなんだよディア先生。今日から俺は、ただのキルアスだ』


『ヤダ、進化したキルったら、もの凄く素敵よ。進化の波動を感じたから楽しみにしてたけど、予想以上の美丈夫になったわね』


『はは、気に入って貰えて何よりだよ。ところでさ、俺が前世で使ってた武器のこと、ディア先生は知ってるか?』


『ええ、知っているわよ。いつでもキルへ渡せるよう、主神様がテクノロジェに預けていたわ。もっとも、テクノロジェが目をギラつかせて弄っていたけど。テクノロジェを呼んであげるわね』


 おいおい技神、人の物を勝手に弄るんじゃねーよ。

 いや、もしかすると…いい感じに改造してくれたとか?


『元気そうじゃのキルアス。武器を受け取りたいと聞いたが?』


『久しぶりだなテクノロジェ。俺の銃とナイフを受け取りたいんだが、お前が弄ってたと聞いたぞ?』


『応ともよ!ナイフの方はキルアスの咒…だったか?アレが強力過ぎて魔力を流せる程度しか出来んかったわ。だがな、あの荷電粒子ストライクガンとかいう武器には、技神の血が滾ったわ!儂に血液なんぞ無いがな。ワッハッハッー!!』


 この爺さん、ガチガチの職人気質かと思っていたが、独りノリツッコミを自笑で完結させる強者だった。


 テクノロジェの説明によると、魔素対応の荷電粒子銃に改造したという。


 銃身から何から全てを、神鋼なるアンブレイカブルで自己造形特性を持つ合金に変えたから、改造と言うよりは別物と言うべきだと語っていたが、そこは俺の関知範囲外な拘りだ。


 まあ、神鋼は神にしか創れない宇宙最高の可変金属だという点には、『変形ロボ造れるんじゃ!?』と少し心を擽られた。


 魔素の融合原子核は非常に重く、磁場や他の荷電粒子束の影響を受けないので、超重イオンビームには最適だったらしい。

 へぇー、という感じだ。


 融合原子核はテクノロジェの虚無空間から自動転送供給される仕様だと言うが、これは『すごいね技神!』と思うに止める事とした。

 ぶっちゃけ意味不明だ。


 内蔵されていた二基の粒子加速器についても、加速路を螺旋形状にすることで、最終加速度を圧倒的に高めてある。

 これは『直進じゃなくていいんだ?』と感心してみた。


 また、エネルギーパックを魔結晶化し、雷魔術の雷纏術式を刻印することで、電子と超絶量の電力供給を可能にしてある。

 充電どころか電気がないから、これは嬉しい仕様だ。


『ザックリとしか解らんが、この世界でも問題なく使えるってことだな?』


『応ともさ!最大出力でぶっ放せば、テスラ公都なんぞ一薙ぎで消滅するわ!まぁ塵くらいは残るかぁ!?ワッハッハッー!!』


『…』


 これ以上の会話は精神負荷がヤバそうだったので、早々に銃とナイフを転送して貰った。


 テクノロジェが『これはオマケだ!オマケなんてレベルじゃないか!?ワッハッハッー!!』と言って、フード付きの黒いロングコートも一緒に転送してきた。


 これから季節は夏に向かうのだが、デザインも悪くないので、貰える物は貰っとこうの精神で受け取った。


 大聖堂を出ると、ルルとエルが石段に座って、肉の串焼きっぽい物を喰っていた。

 あの量の朝メシを喰った直後に肉串。よく太らないものだ。


「わぁ!?銀色に光ってカッコイイですぅ!何かわからないけどぉ!」


「変わった形の黒短剣です。もう一つは…何です?」


「黒い方がバトルナイフで、銀色の方がストライクガン。この二つが俺の武器だ。どう使うかはその内に見せてやる。さあ、ギルドへ行くぞ」


 そこで俺は、ストライクガンのホルスターが無い事に気付いた。

 ナイフは後ろ腰に挿せないこともないが、ストライクガンは殴打武器としても使える大型で重厚なハンドガンのため、手で持って歩くしかない。


 この黒いロングコートも何気に邪魔くさい。

 ルルとエルは大きな鞄を肩に掛けている。


「エル、こんな時間でも宿は取れるか?」


「取れるですけど、もう宿に行くです?」


「荷物が邪魔だろ?」


「キルアス様、宿に荷物を置きっぱなしにするなんてダメなのです!もし盗られても、誰にも文句は言えないのです。それに周りを見てください。冒険者や探索者らしき人たちは荷物を持っているですよ?」


「ルルもそう思いまぁす」


 確かに。

 冒険者らしき者たちは、大昔に軍で使われていた様な大きなキャンバスバッグを担ぎ、細々した物を収納する雑嚢を肩から下げている。

 腰のベルトに小さな鍋や釜をフックで下げている者までいる。


「…あれが普通なのか?」


「「普通なのです!(でぇーす!)」」


 そりゃそうか。この世界に便利な軍用品やらサバイバル用品があるわけないわな。

 あ…戦闘糧食とかもないんだ。参ったな…


「迷宮に潜る時も、お前たちはその荷物を持って行くのか?」


「「当然なのです!(でぇーす!)」」


「ないわ。軍隊じゃないんだから、そんなんで十全に戦えるわけがない」


 装備云々以前の問題を解決すべく、俺は宿を取って物造りをすることにした。

 ここでも不思議そうな面持ちのエル、何も考えていないルルを伴い、俺の希望に合致する宿探しを始めた。


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