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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第2章 公城での生活
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第25話 進化と迷宮探索の準備


 父上と共にする食事は豪華なものだ。

 テーブルに並んでいる料理だけでも相当な量だ。とても七名で食べる量じゃない。

 これに冷菜やら作りたてのメインディッシュが加わるのだから、豪華ではなく浪費と言うべきだろう。


 やはり俺は部屋食がいい。クリスタが俺の好む料理を、適量で用意してくれるから。

 それを本でも読みながら食べる方が、食事という行為に対する満足度は高い。


 そんな事を考えていると、宰相のルイドが声を出した。


「陛下、少しよろしいでしょうか」


「どうした、ルイド」


「今般の事態ですが、大公国内外の異変に逸早く気付くべき宰相の役にありながら、キルアス殿下のお手を煩わせるに至ったこの身の不明、解任されて然るべきと存じます…」


「それは違うぞ宰相殿。宮廷魔導士を含む軍部を所管し、大公国の安全保障を担う軍務卿である私こそが、今回の責を負うべき立場にある。陛下、キルアス殿下、如何様なる処分もお受け致す所存にございます」


「違うのです!長年にわたって、魔族の最も近くにいたエルが、一番悪いのです!エルには、テスラ宮廷魔導士の資格はないのです!」


「えっと、ルルは…テスラが好きです。好きになりました!キルアス殿下のことが断トツで大好きですけど、獣人のルルに優しくしてくれるテスラの皆さんも大好きです!…あれ?ルルは何を言いたいんでしょう?」


 自虐大会が勃発した。ルルだけが意味不明だ。

 奸臣なんてどの国にもいる。いや、どの世界にも腐る程いるだろう。

 世界が幾つ在るのかは知らんが、この世界にいた奸臣の一人が、結果的に悪魔だっただけの事だ。

 うん、我ながら他人事っぽい考え方だな。


「いいんじゃないか?大事になる前に対処できたって事でさ。宰相も軍務卿もエルランテも、保身ではなく罰を望むあたり、父上だけでなくテスラにとっても喜ぶべき事だろう?ルルは…ただの天然で残念なオオカミだな」


「酷いですぅ!」


「ハハハ、それは英雄殿に失礼だろう。しかし、俺もキルアスの言に同意する。ルイド、ガロイド、エルランテ、俺はお前たちの様な忠臣に恵まれた事を嬉しく思う。今後も民のため、国のために働いてくれ」


「「「畏まりました(はいです!)」」」



 そんな心温まる状況の中、ルシェだけがバツの悪そうな表情で食事をしていた。

 その光景は、ちゃんと咒慮が掛かっているのか不安になるくらい自然だ。


「あのさ、ルシェの処遇どうする?俺が言うのも何だけど、余りにも悪魔っぽくないから、その内にルシェの正体が気にならなくなると思うぞ?」


「そうだったな…ルシェは悪魔なのだな。既に気にならなくなっていた。これは不味いな…」


 俺もこれ程までに違和感のない支配が出来るとは思っていなかった。

 情報を引き出したら即殺するつもりだったが、こうして食事を共にしている状況自体が想定外だ。

 問題にならない形でルシェを始末するには…


「あ、テスラ大迷宮の中で消滅させるってのはどうだ?それなら国としての外聞も悪くならないだろ?」


「そんな事が出来るのか?いや、キルアスなら出来るのだろうな」


「俺がやるんじゃなくて、ルシェは迷宮で自滅させる。迷宮探索者がルシェの遺品でも見つければ、顛末としても自然なものになるだろ?何より、他の隷属者がラルゴの消滅を疑問視しないはずだ」


「それは妙案だな。こうしている今も、俺はルシェに対して同情する気持ちが湧いているからな…」


「ルシェ・マスカランって人間は実在して、ラルゴって悪魔が憑依しただけだからな。まあ、悪魔は邪な魂にしか憑依しないから、ルシェが善人だったわけでもないだろうけど」


「キルアス殿下!例えルシェ様が悪人だとしても、悪魔が消滅すればルシェ様は助かるですかっ!?」


「エルランテ、それはない。悪魔に憑依された者は、憑依が解けた瞬間に死亡する」


「そうなのですか…」


 悪魔は心身に加えて魂にも憑依する。

 憑依された魂は、経時的に悪魔との同化率が上昇する。

 憑依された直後であれば、悪魔だけを分離するのも可能だろうが、ルシェはもう無理だ。

 咒慮を掛けた時に確認したが、ルシェの魂は完全にラルゴと同化していた。


「ルシェ、今聞いたとおり、お前はテスラ大迷宮の中で消滅しろ。ラルゴのステータスをベースにして、なるべく深いところまで潜っての消滅だ。なるべくなら魔獣に殺される形が望ましい。解ったか?」


「畏まりました。キルアス殿下のご意向を察し、消滅の際には『迷宮下層で魔獣に殺られた』という思念波を筆頭隷属者へ送ります。念のため、陛下の勅命で迷宮探索のパーティーを組んで潜る形に偽装しますので、勅書の発行をお願い致します。最後に、私が消滅した後には、新たな隷属者がテスラへ派遣されるであろう事にご留意ください」


「上出来だ。勅書を得たら直ちに迷宮へ潜れ」


「拝承致しました。陛下、長らくお世話になりました。エルランテ、第一席になれるよう精進してください。それでは皆様、私はこの場にて失礼致します」


 父上がすぐさま発行した密命の勅書を懐に収めたルシェは、深々と一礼してダイニングルームから退出した。

 ルシェが父上とエルランテに残した言葉が、妙に俺の心に響いた。

 悪魔も、人間に対して情を抱くのだろうか?

 ルシェを見送るエルランテの表情が、少しの罪悪感を俺に抱かせた。


「悪魔さえも手玉に取るか…。凄まじいものだな、キルアスの魔術は」


「悪魔よりも悪魔的って感じ?ま、凶悪な術式だってのは自覚してる」


「ところでだ。キルアス、そして英雄殿、此度の魔族討伐、大儀だった。大公として礼を言う。事が事だけに公に出来ないのは心苦しいが、功績には報いねばならん。望みがあれば聞こう」


 そりゃあ『宮廷魔導士第一席が悪魔でした。えへっ!』とは言えないわな。

 望みねぇ…細々した事はあるが、大公陛下に願うような事じゃないしな。

 いや、一つ問題があったっけ。


「ルルは何もしてないですけど…これからもキルアス殿下のお傍に居たいです!護衛にはなってませんから、愛人でもいいですぅ!」


「黙れ残念オオカミ。愛人を囲う八歳児がどこにいる」


「あぅ…」


「いやまあ、どういう立場が妥当かはキルアスと話し合うといい。テスラとして考えれば、英雄殿の滞在は歓迎するところだ。取り敢えずは客分戦力として、衣食住は年給を支払う形で保障しよう」


「ありがとうございますぅ!」


 残念オオカミの尻尾が、千切れんばかりにブンブン振られている。

 子供にでも当たったら、3mくらいは吹っ飛ぶんじゃなかろうか。


「キルアス、お前はどうだ?」


「望みとは違うんだけど、俺のステータスに関する事で問題があるんだ」


「キルアスのステータスか…聞かずとも大問題だろう事は確定だな。ここにいる者たちは皆…ああ、英雄殿はキルアスのステータスを知らんな。後で話すか?」


「いや、個人的には誰に知られても構わないと思ってるからね。勿論、率先して知らせるつもりはないが」


 ポケットからステータスプレートを出してテーブルに置き、魔力を流してステータスを表示させた。


=====================================

 【名前】キルアス・ルスト・デュケ・テスラ

 【種族】人間族 【性別】男  【年齢】8歳

 【クラス】魔導戦闘士 マスタージャッジメント

 【称号】神権執行者 エレメントの盟友 悪魔殺し 魂の支配者

 【レベル】82

 【体力】2800   [闘気解放+10000][闘魔混合+20000]

 【魔力】113800 [高速融合+50000][魔力圧縮+70000]

 【魂力】39000  [魔魂融合+50000]

 【耐久】2900   [闘気解放+10000][闘魔混合+20000]

 【敏捷】3500   [闘気解放+10000][闘魔混合+20000]

 【物防】2100   [闘気解放+10000][闘魔混合+20000]

 【魔防】86000  [魔力循環+15000][闘魔混合+20000]

 【スキル】無詠唱・術式並列制御・闘気解放・魔力圧縮・闘魔混合・次元制御・

      魔眼

 【固有スキル】咒式創造・咒刻・解咒・魔力直接制御・術式創造・生体進化・

        神眼・神化・魔術解析・魔魂融合・魔咒式創造・冥族探知・冥王        召喚

 【魔術】炎爆・氷冷・暴嵐・霹雷・地殻・冥王・神聖・境界・刻印・錬成・錬金

     合成・複合・召還・重力

 【加護】創造神・智神・技神・魔神・武神・慈神・???・死滅のエレメント

 【罪科】なし

=====================================


 うん、我ながら凄まじい成長性だ。

 戦闘らしい戦闘は、グレンやルルとの模擬戦を含めても四戦だけだが、レベルは82になっている。天使とラルゴの二戦で70レベルくらい上がったんだな。

 こんな数値化された能力だけで実戦力は計れないが、字面だけ見るとインパクトはある。


「キルアス殿下は強いですねぇ!ルルはもうメロメロですぅ」


「キルアス…俺は眩暈がしてきたぞ。解ってはいたが、俺など比較にならないレベルで強いではないか。テスラ大公になるか?」


「冗談でも止めてくれよ。俺は自由を満喫したいんだ。大公なんてやってらんない」


「そうだったな。それで、問題とは何だ?俺からすれば、全てが大問題に見えるんだが?」


 俺が抱える問題とは、保留にしていた生体進化だ。

 智神ウィスドムによると、俺は四段階の生体進化を経た後に神化しなければ、破壊神を消滅させるに足る力を獲得できないらしい。


「固有スキルにある“生体進化”だよ。神託で『進化しろ』って言われたんだけど、進化すると外見が変化するらしいんだ。城内で騒ぎが起きるのは、俺的にも面倒だからさ」


「外見がどう変わる?人でなくなるなどと言うなよ?」


「そんな進化なら俺の方から願い下げだ。外見が変わると言っても、飛躍的に成長して体格が大きくなる程度だよ。実際のところ、進化の肝は体内変改らしいからね」


「そうか、安堵した。で、どれくらい成長するのだ?」


「第一段階の進化は、種族特性上の二次性徴期終盤くらいって言ってたから、人間だと十六歳前後かな?」


「八歳がある日突然十六歳の体になるのか…非常識どころの話ではないな」


「非常識認定されてる俺でも、非常識が過ぎると思う」


 この世界の人間は、前世の人間よりも平均体格が大きく、運動能力も高い。

 事実、俺は八歳にして身長150cm近くある。父上は2m超え、母上でさえ170cm以上ある。


「それで、キルアスはどうしたいのだ?テスラを出るのか?」


「いや、エレメント絡みで迷宮探索するから、当面はテスラを出ない。けど、俺のことを知ってるヤツがいない、テスラ城下か迷宮近辺で暮らそうと思う」


「なるほどな。キルアスは城外に顔が割れていないか。いいだろう。城下に屋敷を用意してやる」


「いやいやいや、進化して十六歳前後になるとは言え、若造の新人探索者が屋敷に住むのはおかしいって。探索者は迷宮で稼げるらしいから、稼ぎが良い探索者として認知されるまでは宿に泊まる」


「そう言われると、その通りだな。まあ、お前の自由は既に認めた事だし、好きにするといい。優秀な探索者として、キルアスの勇名が聞こえてくる日を楽しみにしている」


「キルアス殿下!宿はベッドが一つの部屋がいいですぅ!ラブラブですぅ♪」


「黙れ発情オオカミ。自分の部屋は自分で取れ」


「えぇぇっ!?ダメです!断固拒否です!百歩譲っても同室ですぅ!」


 ルルに譲って貰う必要などない。

 皆が見せている呆れ交じりの苦笑に、この駄狼は気付かないのだろうか?

 と言うか、迷宮探索は、単独の方が早く片付くに決まっている。

 こいつは旅に出るまで放置だな。


「キルアス殿下!あのあの、テスラ大迷宮に潜るの、エルも同行『断る!』」


「はきゅっ!?言い終わる前にお断りされたのです!?」


 当たり前だろ。

 ルルだけでも面倒なのに、エルランテまで連れて行くわけがない。


「エルランテよ、キルアスに同行したい理由は何だ?」


「陛下!エルは、宮廷魔導士第二席に相応しい強さが欲しいです!違うです!第一席になれる強さが欲しいのです!キルアス殿下に同行できれば、エルは絶対に強くなれると思うのですよ!!」


「ふむ…。キルアス、テスラの未来平和の為と思って、エルランテを同行させてやってくれないか?」


「…国の平和を引き合いに出すとか、ズルくないか?断り辛いったらねぇわ」


「キルアス殿下!お願い致しますです!足手纏いにならないように頑張るですから!!」


「あーわかったよ!連れて行ってやる。但し、死に物狂いで付いて来いよ?日和りやがったら、俺が迷宮に沈めてやるからな?」


「こ、こ、怖いです!キルアス殿下が悪魔より怖いですよ!でもエルは頑張るです!死に物狂いで頑張るですよ!!」


 どうしてこうなるかな?

 前世ではワンマンセルだったから、連携戦闘なんて訓練くらいしかやったことないんだが。

 前途の多難が、どんどん増えていく…


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