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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第2章 公城での生活
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第22話 黒い天使


「おいルル、その恰好はどうなんだ?」


「―モグモグ、ごっくん― えっと…どこか変ですかぁ?」


 目が覚めると、何故かルルが横で寝ていた。狼のくせに猫のように丸まって。

 朝食を運んできたクリスタはそれを見て『あらあら、まあまあ』と意味深な微笑みを湛えて部屋を出て行き、ルルの朝食まで用意してきた。

 そんなこんなで俺はルルと二人、自室で食事を摂っているわけだが…


「ルル、春とはいえ、ちょっと薄着がすぎるだろう?」


「そうですかぁ?部屋着ってこんなものじゃないですかぁ?」


「まあいいけど」


 まだ八歳で良かった。

 あと二~三年後だったら、くっきりはっきり先っぽの形や色まで判るこの薄着に、俺のジュニアがスタンピードを起こすところだ。


「そうだルル、お前のガントレットを修復しておいたぞ。ついでに少し改造したから、前よりも強靭で魔力の流れも向上してるはずだ」


「ほんとですかぁ!?キルアス殿下は優しいですね!あ、耳触ります?」


「お前はバカか?なぜ耳なんだ」


「ルルにはそれくらいしか、お礼をする方法がないですから…」


「…また今度な。食事が終わったらエレメントの調査に行くから、着替えてこいよ」


「はーい!」


 テスラにあるのは根幹のエレメントと呼ばれているが、実質的には黒のエレメントだ。

 代々の守護者は、守護するエレメントの加護を宿して生まれる。

 父上の魔術系統は黒の上位である暗黒で、加護系統は魔神のディア先生だ。

 ディア先生が言うには、守護者は血統によって加護を与えられる。

 得られる加護の大きさは、血の濃さがものを言うらしい。


 破壊神の隷属者がエレメントと大精霊を狙っていることから、『今代もしくは次代の守護者に、もっと強力な加護を与えられないのか?』と聞いたところ、ディア先生の答えは『不可能』というものだった。

 その理由は、『現代の守護者では、神との親和性が足りないから』だという。

 但し、守護者が聖人・聖女・英雄といった、普通の種よりも一段高い存在値を得れば、加護を追加することも可能になるらしい。

 ステータスに称号があるのは、神々が資質を確認する為のようだ。


 であれば、英雄の称号を持つルルが、守護者の血統でないのは惜しいな。

 まあ、グレンにしろルルにしろ、対破壊神で考えれば到底足りないんだが。


 あと気になるのは、セリーの魔術封印がどのタイミングで仕掛けられたかだな。

 セリーは当然ながらテスラで生まれている。

 それなのに、封印の対象になっていたのは、母親の生国にある火のエレメントだ。

 この辺の因果関係が不明なのは、封印を未然に防ぐという観点からすれば、厄介と言わざるを得ない。


 ともあれ、実物のエレメントを見てみないことには、今後の指針すら得られないだろう。



 装備を整えたルルを伴って、俺は父上の執務室へと向かった。

 執務室には、宰相と宮廷魔導士第二席のエルランテがいた。


「父上、エレメントの間へ連れて行って欲しいんだけど?」


「早速か。もうじきルシェが帰城するんだがな」


「ルシェ?ああ、宮廷魔導士第一席とかいう?俺は会ったことがないな」


「ん?お前は会ったことがなかったか?ああ、ルシェが守護七国連盟の歴訪を始めたのは、キルアスが生まれた頃からだったな」


 宮廷魔導士第一席、ルシェ・マスカラン。

 彼が宮廷魔導士として召し抱えられたのは、今から約十三年前。

 テスラで四年に一度開催される魔術技能大会での優勝が、登用の切っ掛けだという。

 人族でありながら、その卓越した魔術の技量を認められ、僅か三年程で第一席まで上り詰めたらしい。

 特に魔力制御能力においては、エルフであるエルランテをも凌ぐという逸材だ。


「陛下、キルアス殿下、ルシェ様の帰城は午後の予定です!だから、午前中なら平気です!エルも大丈夫です!」


「エルランテ、お前は連れて行かないぞ?」


「えぇーっ!?キルアス殿下、エルもエレメント見てみたいですっ!!」


「却下だ。物見遊山に行くわけじゃない。そもそも、ルルとの戦闘を見てただけで震えて動けなくなるヤツを、俺が連れていくわけないだろ?」


「うぅぅ…」


 恨めしそうに見つめるエルランテを放置し、俺はルルを伴って父上とエレメントの間へ向かった。



 エレメントの間は城の地下深くにある。

 一見すると壁しかない行き止まりだが、壁の中央にはテスラの紋章が刻まれた、小さな黒い玉が埋め込まれている。


 父上が玉に触れながら詠唱を始めると同時に、魔力を注入する。

 詠唱を始めて三分ほど経った頃、黒い玉が光を放つと同時に壁が忽然と消え去り、10m四方ほどの石室が現れた。


「ふう。この壁は相変わらず魔力を食うな。キルアス、英雄殿、俺から離れない様に付いて来い」


 父上に付いて歩を進めると、壁があったラインを越えた瞬間、膨大なエネルギーを身に受けた。


「へぇ。この感覚は、やはり魔素に似てるな」


「キルアス殿下、このモヤモヤしてるのが魔素の感覚ですかぁ?」


「純粋な魔素じゃないがな。魔素にエレメントのエネルギーが添加されている感じだな」


「キルアス、お前の感覚は正しいのだろう。伝承によると、エレメントは魔素に自然界の力を加えて、大地に力場を形成すると云われている。其々のエレメントが形成する力場は相互に干渉し、この世界のエネルギー循環を整えているらしい」


「それで父上、エレメントはどこに?」


「此処より更に下だ。後ろの壁を閉じなければ、最奥への道は開かれない」


 父上に付いて石室の中央へ進むと、足元に魔法陣が現れた。

 後ろを振り向くと、そこには消えたはずの壁が再び現れている。

 足元の魔法陣は、術式からして転送陣のようだ。

 侵入を防ぐセキュリティとして考えれば、なかなか優秀なシステムと言える。


 父上が魔力を流すと魔法陣が白く輝き、視界が暗転した。


「キルアス、これが根幹のエレメントだ」


 視界が戻ると、そこは先程と全く同じ石室のようだが、中央には台座があり、台座の上には黒曜石のように黒光りする正八面体が浮かんでいた。


「綺麗ですぅ。夜空の星みたいに、小さな光がいっぱい入ってます!」


「対角線長で2mってとこか。思ったより小さいけど、内包エネルギーは膨大だな。うん…なんだ?」


「どうしたキルアス。何か感じるのか?」


「…ちょっとね」


 エレメントに纏わりつくような波動を感じるが、セリーの魔術封印で感じたノイズとは全くの別物だ。

 魔力や咒に類する波動ですらない。むしろ…神の権能に近いか?


 俺は正体不明の波動を神核データベースに記録しつつ、エレメントに触れた。


――統べる者よ。我は根幹にして死滅を司るエレメント

――我らの拘束を解き、星の力をその身に宿せ

――汝が星の力に目覚める時、呼応する大迷宮最奥の扉は開かれよう


 エレメントが意志を持つのは予想どおりだが、言ってる内容は意味不明だ。


(エレメントを拘束しているのは、破壊神の隷属者なのか?)


――否。破壊神の隷属が成せるは、守護者血統の封印のみ

――我らエレメントを拘束せしは、悪しき力の眷属


(悪しき力の眷属って何者だ?)


――悪しき力の眷属とは、異なる混沌より現れし者


(え…何者か不明ってこと?)


――然り。悪しき力の眷属は、破壊の隷属に比すべくもなく強大


 …厄介事が増えましたよ。

 破壊神の隷属者とは別の勢力が存在するのか?


(じゃあ、大迷宮深奥の扉って何だ?)


――数多ある迷宮の起源は、最古の七大迷宮にあり

――七大迷宮深層の先に在る最奥には、創世真理の欠片が眠る

――統べる者よ。創世真理に届きし時、汝の道は開かれる


 今に始まったことじゃないが、問答無用で方向性を決められてるな。

 転生を決めた時点である程度は覚悟していたが、破壊神までの道筋が未だに見えてこない。

 なんつーか、誰かの掌の上って感じ?


 釈然としないながらも、俺はエレメントに纏わりつく妙な波動を吹き飛ばすべく、黒魔術の最上位である冥王の即死術式に、解咒を複合して発動した。


―――キンッ!


 甲高い音が響くと、エレメントに纏わりつく何かが具現化した。


「父上!ルル退け!」


「はい!」


「何だこれはっ!?」


 エレメントの直上で、高密度エネルギーが人型を形成していく。

 人型の細部が造形されて姿が明確化すると、人型はその双眼を開いた。


「黒い…天使?」


 そう、こいつは天使だ。

 前世の地球で、教会のステンドグラスや絵画に描かれていた天使。

 背中から生える一対の羽、頭上に浮かぶ円環、黄金比とも言える姿形。

 但し、眼前の天使は禍々しい漆黒を基調とし、長い白髪と深紅の瞳が、その異様を強調していた。


 薄く嗤っている黒い天使からは、明確な敵意を感じる。

 いや違う。この敵意は、父上とルルに向けられているものだ。


「…お前は、何だ?」


『私は使徒。我が主の御心のままに、この世界を導くべく遣わされし者』


「主だと?破壊神のことか?」


『戯言を。我が主は偉大にして絶対。破壊神などという存在ではありません。神子よ、私と共にこの世界を正道へと導くのです』


 神子?俺のことだろうな。

 しかし理解できない。俺が知る限り、使徒とは神の遣いだ。

 破壊神の眷属でないとするなら、こいつは誰の使徒だ?


「断る。お前の主とやらの思惑に乗る理由がない」


『貴方に断るという道はありません。貴方の宿星さえも、我が主の定めしものなのですから。さあ、先ずは其処にいる二匹の羽虫を粛清するのです』


 話にならんな。何より、こいつが放つ波動は俺をイラつかせる。


『アイ、こいつの波動解析はできたか?』


《はい、マスター。解析結果を表示します》


 …どういう事だ?

 魔力波動じゃないのは判っていたが、この波動は…咒の波動に類似性がある。

 こういう時は、直感に従うのがセオリーだな。


 俺は虚無空間にストックしてある爆炎術式を発動した。


「これでも喰らっとけ。プラズマフレア!」


 赤熱のドームが天使を飲み込み、内部に集束したプラズマが爆炎を巻き上げた。

 スパークしたプラズマの残渣が収まり、ドームが霧散する。


「…無傷かよ」


『フフフ、そんなもが私に通じるとでも?仕方がありませんね。少しばかり教示して差し上げましょう』


 黒い天使が漆黒の指をこちらへ向けた。

 頭上の円環が鈍く光り、指先にエネルギーが集束される。


『ライトニング』


 黒い稲妻が閉鎖空間を縦横無尽に奔った。


「っ!?マスシールド!!」


 俺は半球の広域シールドを展開して、父上とルルを覆った。


「きゃぁっ!」


「ぐおっ!」


 黒い稲妻はシールドなど無意味だとばかりに、直貫通して俺たちを襲った。


「グゥッ…聖天!!」


 俺は神聖魔術“聖天”の術式を発動し、被弾した自分たちを癒した。

 父上とルルは俺の背後で倒れているが、呼吸はあるようだ。


「てめぇ…やってくれんじゃねーか。今のは魔術じゃねーな?しかもライトニングだと?」


『力の差を理解しましたか?貴方の魔術など、頬を撫でる微風にすら劣るのですよ』


 一発喰らって理解した。今のは権能の類だ。

 しかも、僕神やディア先生の権能とは完全に異質な力だ。

 少なくとも、こいつが現界の法則から外れた存在であることは確定した。

 魔術が無効だというなら、新しい力を創るしかない。


『アイ、不明神格と咒を統合しろ』


《はい、マスター。不明神格と咒を統合しました。不明神格の解放率が25%に上昇、魔力と魂力の融合が可能になりました》


 概ね予想どおりだ。

 解咒と術式を複合できるなら、咒式と術式も合わせられると思ってた。

 魔力と魂力を融合すれば、術式と咒式も合一化される感じか?


「嗤ってんじゃねーぞクソ天使。消し飛ばしてやる」


『相手の力量が判らないとは。神子と言えどその程度ですか。我が主もお嘆きになられることでしょう』


「お前はどうにも癇に障る。それとな、俺を神子と呼ぶな。俺の名はキルアスだ」


『嘆かわしいですね。貴方の魔術が通用する道理など無いというのに』


「言ってろクソ天使。…魔力解放…魂力解放…魔咒融合…」


 青白色の魔力と金色の魂力が混ざり融合し、急速に圧縮されながら蒼金のエネルギーへと変換されてゆく。

 蒼金色のスパークが体表に生じ、恰も使役される蛇の如く俺の体表を這いまわる。

 スパークする度に空中へ拡散されるエネルギー粒子が、空間全体を蒼金に染めあげた。


『そ、その力は何なのですかっ!?』


「何を後退ってんだ?お前を消し飛ばす力に決まってんだろーが!」


 意識に浮かんだ言の葉を、俺は小さく呟いた。


「魔咒絶式――縛鎖」


 蒼金の超高密度エネルギーが黒い天使の頭上一点に集束され、集束点から金色の鎖が何本も落射して天使を拘束する。

 天使は拘束から逃れようと権能を行使するが、金色の縛鎖は更に締め上げた。


「何をしても無駄だ。その縛鎖には、お前の権能を拒絶する咒を込めた」


『主より授かりし私の権能を拒絶することなどっ!』


 既にもがく事すら叶わない天使を見据え、俺は再び呟いた。


「魔咒絶式――雷禍」


 空間に拡散された全エネルギーが一瞬で集束され、集束点に生まれた黒金の雷撃が、直下の天使に突き立った。


『そんな…馬鹿な…』


 黒金の雷撃は天使を両断し、断った端から天使の体を分解して消滅させた。


「目には目を、雷撃には雷撃をってな。が、やはり実体じゃなかったか」


 波動の消滅を確認した俺は、背後で蹲る父上とルルへ走り寄った。

 二人は電撃による熱傷を無数に負っており、全身をスキャンしてみると、体内損傷の方がより深刻な状態だ。


「治療術式だけじゃ間に合わないな。時間…止められるか?」


 俺は時空魔術の最上位である境界魔術を応用して、体内の時間だけを停止させる次元結界術式を構築した。

 二人の体内に限定して時間軸を除去すれば、生体崩壊を停止させた状態での治療が可能だろう。


 しかし懸念はある。生体機能の全停止が及ぼす影響は未知数だ。であれば、可能な限り迅速に治療を行うべきだ。

 俺は既存の治療術式に、境界魔術の加速術式を付加した。


「上手くいってくれよ。クロノホールド!ヒーリングアクセラレーション!」


 二つの術式を並列発動すると、父上とルルの外傷が瞬く間に癒えていった。

 再び体内をスキャンすると、生体組織の治療も加速度的に進行している。


『アイ、十五分前の二人の生体情報と、現在の生体情報を照合してくれ』


《はい、マスター。照合完了しました。其々の生体情報に差異はありません》


「よし、クロノリリース」


 体内時間の停止を解除すると、二人は瞬時に目を開いて起き上がった。


「キルアス!?……どういう事だ?俺は、攻撃を受けたんじゃなかったのか?」


「…あれ?あの黒い人は?あれ?ルルの体…何ともないです。どういう事でしょう??」


 二人は自分の体をキョロキョロと見回して、不思議そうな顔をしている。

 見ている限り、異常は無さそうだ。


「父上、ルル、体の傷は治療したから大丈夫なはずだけど、精神的な違和感とかはないか?」


「ああ、大丈夫だ。問題ない」


「ルルも平気です!」


「ふぅ。かなり酷い状態だったから、二人の体内時間を停止させてから治療をしたんだ。時間を停止させる事自体が初めてだったけど、成功して良かったよ」


「時間を停止させた!?お前…そんな事まで出来るのか。もはや何でもありだな…」


「凄ーい!キルアス殿下はルルの命の恩人です!今夜はサービスしちゃいますぅ!」


「俺の術式でも、ルルの脳ミソは治せないみたいだな…」


 バカは放置して帰ろうと立ち上がると、エレメントが俺の意識にアクセスしてきた。


――統べる者よ、我が拘束は解かれた

――我が宿す星の力を授けよう


 エレメントの中心部から小さな光が浮き上がると、その光は黒い結晶へと変化して、俺の体に吸い込まれた。


《冥王の恩寵を獲得しました。神核に統合します。統合完了。冥族探知と、冥王召喚が可能になりました》


 冥族探知?冥王召喚?なんだそれ。

 まあ、後で確認すればいいか。


「キルアス、今のは何だ?また何かやったのか?」


「父上、エレメントから星の力とかいうのを貰ったらしい。どんな力なのかは、調べてみないと解らない。取り敢えず、用は済んだから戻ろう」


 謎は増すばかりだったが、俺たちはエレメントの間を後にした。


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