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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第2章 公城での生活
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第17話 記録層と禁術書


 まだ暗い早朝、俺はコッソリと智神に会うため、城内聖堂へ来た。

 何故コッソリなのかは、自分でも解らない。気分?

 会えば物理的な受け渡しも可能って話だから、兄上の治療に使える物が貰えるかもしれない。


 早朝とはいえ、誰も此処へ来ない保証はないから、神に祈る振りくらいしないと、怪しまれるかな。

 俺の場合、祈ってる方が怪しまれるか?まあいいや。



『ウィスドム、起きてるか?ちっと相談があるんだけど』


『キルアス殿、我らは睡眠など取りませぬぞ』


『うぉっ!?ちょ、姿が丸見えだぞ!?』


『心配ご無用。キルアス殿以外には視えません。して、相談とは?』


 俺は兄上の病状を説明し、妙案もしくは有用な物が欲しいと頼んだ。

 すると、ウィスドムは何ら思考することなく即答した。


『ユニバーサル・レコードレイヤーで調べるが最善でしょう。聞いた限りでは血液の病と思われますが、そこは念の為』


『おぉ!そうだよ!宇宙の記録層!ウィスドム、頼むよ!』


『キルアス殿は、勘違いをされていますな。我がその様な些事を調べるなどありません』


『え、まさかの拒否!?』


『やれやれ、主神様にも困ったものですな。未だ以て、キルアス殿に神核の説明をなされていないとは…』


 ため息交じりにそう言ったウィスドムは、取説を読むかのように神核の説明を始めた。


 神核は常時リンク式の情報ネットワークとしても運用が可能。

 僕神が地球を訪れた際、地球の工学技術に興味を持ち、自律成長型人工知能の理論などを持ち帰り、それらを技神テクノロジェに伝えた。

 テクノロジェは、その理論群の中で神核に利用できそうな技術を魔工技術化した。

 その魔工技術で構築した魔導AIが神核には内蔵されており、俺の意識コマンドで制御することが出来る。

 神核は、AIを介して魔力線で記録層ともリンクしている。よって、俺は何時でも何処でも記録層にアクセスできる。


『…マジかよ。宝の持ち腐れ状態?』


『端的には。キルアス殿の記憶や知識、我らの権能や術式の情報も記録層に在ります。正確には、主神様の影響下にある全ての空間宇宙の情報は、漏れなく記録層に在ります』


『…そうっすか。ところでさ、記録層の検索方法って、ややこしいのか?』


『それは知りたい事柄に対する、キルアス殿の知識と認識レベルに依ります。記録層の情報は膨大。故に、答えへと到達するには、情報を辿らねばなりません』


 ウィスドムの説明を要約するとこうだ。

 例えば俺がアレイスト兄上の病気について調べる場合、兄上に関係する事象を一つ一つ調べる必要がある。

 母上の話では、兄上が病気になった時期は二年程前だ。しかし、兄上の発病時期が、実際は三年前という可能性もある。

 もしそうなら、この二年間の病変を幾ら調べようが、兄上の病因には辿り着けないという事になるらしい。

 詰まる所、“記録層に在る兄上百科事典の何ページを調べるべきか”という話だ。


 これは厄介だと俺が顔を顰めたところ、ウィスドムは別の指針を示した。

 それは、『病歴や病変を調べるのではなく、アレイストの魂の情報を調べてはどうか』というものだ。

 もしも兄上が、自身の発病を何らかの記憶として残しているなら、先ずは発病時期が判明する。

 その発病時期における魂の情報を調べれば、兄上の身体組成の変化が判明する、というわけだ。


『道理だな。調べたい事柄についての前情報を持っていなければ、得たい答えを見つけるのは難しいよな』


『然り。宇宙を網羅する記録が在るとはいえ、記録はあくまでも記録。そして個々の記録は単一。その単一が、他の単一に繋がっている。という具合ですな』


『良く解った。助かったよ、ウィスドム』


『何の。これもまた、我らの欲する先へ至る為の手段に過ぎません。キルアス殿の前世で言うところの、ギブ・アンド・テイクですか』


 なるほどね。僕神にしろ智神にしろ、神々が欲するのは俺の利ではなく、あくまでも自分たちの利という事か。

 いいんじゃない?タダほど高い物はないからな。

 俺は俺の欲する先へと至る為に、がっつり神々を利用させて貰うとしよう。




 聖堂を出た俺は、窓越しに未だ暗い空を横目にしつつ、自室へと歩きながら独りごちる。


「この時間なら、セリーも禁書庫にはいないか?」


 その希望的観測の下に、俺は禁書庫へと向かった。

 禁書庫の守衛の前に立ち、入庫許可証を出そうと懐を探る。


「キルアス殿下、入庫許可者台帳に御尊名が記されましたので、許可証のご提示は不要にございます」


「そうなのか。セリーシェ姉上が中に居るか、知っているか?」


「今はおられません。セリーシェ殿下は毎晩遅くまで読書をされますので、来られるのは昼頃にございます」


 ならば午前中で禁術書を読破しようと考え、禁書庫の四階層へと直行する。

 書棚から禁術書の上・中・下巻を引っ張り出し、読書台へと置いた。


「ん?何だこれ…」


―― キルアス殿、私に魔術を教える事は、弟の義務と心得て然るべきです。――


 俺に宛てたセリーの書置きだった。


「断る!」


 思わずそう叫びながら書置きを燃やし、いざ禁術書を開いて目を落とす。



 上巻は召喚魔術に関して書かれているようだ。


「どれどれ…」


<召喚魔術は、時空魔術と契約魔術の併用であり、召喚者が正しく認識する存在や事象の召喚が可能である。必要となる魔力量は、召喚対象の存在値により大きく異なる。召喚は複数術式の併用であるが故に複数の術者で行使するが、召喚者の存在値を遥かに超えたものを召喚すれば、術式行使者全員の生命を奪われる結果を齎す。更に、召喚の規模が土地の力場を――云々>


「…肝心の術式が載ってねーし!あ、記録層に在るんだっけ。記録層イカス」



 中巻は生成魔術に関する内容だ。


<生成魔術は、非存在が存在となるために不足する過程情報とエネルギーを、術式により補完して現出させる。無機と有機に拘わらず現出可能だが、錬成と錬金の熟達が必須となる。但し、宇宙の摂理を超える物は現出不可能である。また、概念の有無に拘わらず、根源の法則を――云々>


「内容が抽象的なのは、応用範囲が広いからか?唯一具体的なのは、賢者の石についてだけか」


<賢者の石は、それ自体が根源法則と成る触媒であり、且つ、エネルギー結晶体でもある。法則も供物も必要とせずに事物、物事の生成が可能となる神創物である。賢者の石は、七種のエレメントを根源のエレメントの理術により合成することでのみ、生成可能とされる。賢者の石を手にした者は存在しないが、賢者の石を定命なる者が手にすれば、その余りある力によって喰らわれる、との伝承は在る>


「凄そうなモノだって事は判るが…エレメントの数が変じゃね?」


 此処の一階にあるテスラ建国記には、『エレメントは全部で七つ。最も重要な根幹のエレメントがテスラに在る』と書いてあった。

 しかし、禁術書には七つのエレメント+“根源”のエレメントとある。

 これも記録層で調べるしかないが、情報が少ないから時間がかかりそうな気がする。

 まあ、取り立てて調べる必要性を感じないから、取り敢えず放置だな。



 下巻は星命魔術について書かれている。

 初めて知る魔術系統に、年甲斐もなくワクワクしてしまう。


<星命魔術は、星が生み出すエネルギーへの干渉と操作を可能とする。森羅万象の究極真理に到達した者のみが得られる>


「………以上?」


 分厚い本にたった一行の文章。その後のページは、全て空白だった…


「ぬぅわんでだよっ!?著者はバカか!?天上天下唯我独馬鹿か!?」


 絶叫と共に立ち上がって、禁術書を読書台に叩きつける。

 立った勢いで椅子が倒れ、硬質な音が禁書庫内に響いた。


 期待値をゼロマックスで叩き潰された俺が『ふぅー!ふぅー!』と肩で呼吸していると、背後から嘲笑するような声が聞こえてきた。



「くふふっ!禁術書の内容に怒って叫ぶなんて、キルアスはお子様ね!」


 俺はゆっくりと振り向きながら、低い声で告げた。


「セリー、火弾すら作れないお前に嗤われる筋合いはない」


 烈火の如き罵り合いの開幕を確信して放った言葉だったが、セリーの口から漏れた声は、とても弱々しいものだった。


「キルアスの…バカ…」


 そう言ったセリーの顔は悲しみに染まり、両の目からは、大粒の涙が止めどなく零れ落ちていく。

 止まらない涙にセリー自身も仕方がないのか、その場に蹲るようにして座り込んでしまった。


「ちょっ、ちょっとちょっと!?何事!?」


 泣き崩れるセリーを宥めること十五分超、セリーがぽつぽつと語り始めた。


 セリーは物心つく前から、魔術が大好きだったと言う。

 父上は世界に名だたる正魔導士であり、黒魔術の上位系統である、暗黒魔術の名手だ。

 セリーの母親は第二大公妃とはいえ、出自は火のエレメントを守護する一族であり、火魔術の上位、火炎魔術の名手として知られている。

 黒魔術と火魔術は相性が良いため、セリーが生まれた時は、二系統を操る高位魔術師になるだろうと周囲は期待した。


 しかし、蓋を開けてみれば、セリーは火の基礎術式すら満足に使えない“出来損ない”として認知されてしまった。

 魔術が好きで好きでたまらないのに、自分は魔術が上手く使えない。

 そんな葛藤を抱えながらも、セリーは自分の心に鞭を打って、魔術の理を日々勉強しているのだと言う。


「いや、まあ、知らなかったとは言え…ごめんな」


「キルアスなんてキライ。でも、自分のことはもっとキライ…」


 前世で異能が上手く使えずに廃棄された、名も知らない被験体たちの姿が頭を過った。

 勝手な期待を掛けられ、期待に沿わないからと殺され、ゴミのように廃棄された被験体たち。

 色葉だってそうだ。生体兵器に適してないからと、俺のために殺された。俺が…殺した。


「なあセリー、魔術が上手く使えない原因に、何か心当たりはないのか?」


「…わからない。それを調べたいから、禁書の閲覧許可を貰ったの。許可を貰うのに一年かかったし、ここへ毎日通って一年経つけど、何も判らない…」


 ふーむ。セリーも魔力量はそこそこあるんだけどな。

 ただ、波動にノイズが乗ってるのが気になる。


「今日の夕方、独りで俺の部屋に来れるか?」


「な、なななな何をする気よ!?わわわわ私たちは姉弟なのよっ!!」


「…アホですか?それこそ姉が考える事じゃねーだろ」


「エ、エッチな事なんて考えてないわよ!バカ!」


「俺はエッチな事なんて言ってねーけど?」


「っ!?もう…バカ。じゃあ何するのよ?」


「ちょっとセリーの魔術器官を調べてみようかと思ってな。もし上手くいけば、魔術が使えない原因が判るかもしれない」


「うそ!?本当に!?」


「あー、過度な期待はするな。何の確証も保証もないからな」


 俺は手をヒラヒラと振って、禁書庫を後にした。

 さて、今日は兄と姉の問題解決に勤しむとするか。


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