第16話 ステータス照合
「キルアス殿下の魔力は凄いのです!大精霊様より大きな魔力を、エルは初めて体感したのですよ!」
この子は、百年以上このテンションを保っているのか…スゲーな。
「なあエルランテ、大精霊ってハイエルフのことか?」
「そうなのです!世界には七大精霊様がいるのですよ!」
「ほお…七ね、エレメントと同数か。神は何柱だ?」
「五柱神様です!…なぜそんな当たり前の事を聞くのです?」
「ん?まあ、深い意味はない」
神も元来は七柱、エレメントも大精霊も七か。
神と大精霊は無関係だとしても、エレメントと大精霊は関係ある気がする。
神核が起動してこっち、地下に妙な波動を感じるんだよな。
僕神も当てにならねーし、サリーは面倒だが禁書庫で調べてみるか。
思考を巡らせていると、やっと宰相が目を覚ました。
「ルイド、大事ないか?」
「陛下…私としたことが、面目次第もございません」
「よい。気にするな。むしろルイドが普通なのだ。大事ないなら、キルアスのステータスを確認するぞ」
「はは。直ちに支度を」
宰相が扉を開けて外に指示をすると、二人の近衛兵が何かを運び込んだ。
一辺30cm程の立方体形状をした…石?金属?
無機質なそれからは、何らかの干渉波を感じる。
「父上、これ何です?ちょっと気持ち悪い感じがする」
「何が気持ち悪い?これはステータスを読み取ってプレートを造る魔道具だ。魔鉄鋼と鑑定のレリックを組み合わせてある」
この覗かれてるような、探られてるような感覚…かなり気持ち悪いって。
皆は何も感じないのか?
「魔道具の上に掌を当てて魔力を流し、『ステータス』と念じてみろ」
「…はい」
気持ち悪いながらも、父上に言われたとおり掌を当て念じる。
―――ステータス
突如、知らない術式による干渉を感知した。
立方体の中心部が赤く光り、覗かれてる感が一層強まっていく。
…そういう事か。
鑑定のレリックってのは、分析と解析を合せたような術式が込めてあるんだ。
この術式はディア先生が創ったぽいけど、魔力隔離してたらダメなやつだわ。
赤い光が弱まって消えると、10cm四方、厚さ2mm程の金属板が浮かび上がった。
これがステータスプレートか。想像より遥かにデカイな…
ステータスプレートを手に取って内容を見みると、予想通り、魔力の欄が空白だった。
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【名前】キルアス・ルスト・デュケ・テスラ
【種族】人間族 【性別】男 【年齢】7歳
【クラス】魔導戦闘士
【称号】神権執行者
【レベル】5
【体力】50 [闘気解放+10000]
【魔力】 [高速融合+50000]
【魂力】30000
【耐久】100 [闘気解放+10000]
【敏捷】100 [闘気解放+10000]
【物防】10 [闘気解放+10000]
【魔防】1000 [魔力循環+5000]
【スキル】術式構築・無陣・無詠唱・闘気解放・魔力圧縮・闘魔混合・次元制御
魔眼
【固有スキル】咒式構築・咒刻・解咒・魔力直接制御・術式直接制御・生体進化 神眼・神化・魔術解析
【魔術】炎爆・氷冷・暴嵐・霹雷・地殻・冥王・神聖・境界・刻印・錬成・錬金
合成・複合・召喚・重力
【加護】創造神・智神・技神・魔神・武神・慈神・???
【罪科】なし
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これ、どうなんだろうか?
咒まで判るんだな。ディア先生がシステムをアップデートしたとか?
取り敢えずは…生体進化と神化を塗り潰したい。
ふと視線を上げると、皆が固唾を飲んで見詰めていた。
見詰めてはいるが、誰も何も言わない。
業を煮やしたのか、父上が口を開いた。
「キルアス、例え家族であっても、他者のステータスを詮索するのは礼儀に反する。しかし、お前はまだ子供だ。いや、妙に悟ったとこはあるが…」
「父上、見たいんでしょ?正直、見せたくない部分もあるけど、隠し立てしても仕方ないしね。皆も見ていいよ」
父上にステータスプレートを渡すと、皆が群がる様にして覗き込んだ。
「「「「「「…なにっ!?…えっ!?…へっ!?…ほほぉ………」」」」」」
こりゃ時間かかるな。ツッコミどころ満載だもんね。
偽造とか改竄できないって言ってたけど、技神あたりに頼めば可能な気がするな。
技神といえば、ちょっと物造りを試してみたい。
偵察衛星とは言わないが、マッピング機能がある無人偵察機とか欲しいな。
この世界って正確な地図が無いんだよね。先々を考えると、地図とコンパスは必須だろう。
あ、この星の地磁気ってどうなんだ?永久磁石も探さないとだな。
あと、レリックの分析・解析術式が興味深い。
覗かれてる感を除去した鑑定術式を作ってみよう。“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”って言うしな。
「キルアス…キルアス!」
「ん?ああ、父上。終わった?」
「聞きたい事は山ほどある。山ほどあるが、聞くのは止めておく。そして皆に申し渡す。キルアスのステータスについては、テスラ大公国の国家機密に指定するものとする」
「え?国家機密?そんなに大事?」
「キルアスよ、お前が考える万倍は大事だ。お前に聞かされた破壊神の話にしろ、国家レベルでもどうこう出来る事柄ではない。お前のステータスを見れば、お前が重大な使命をもって生まれてきた事は明々白々だ」
「…俺に、どうしろと?」
「何も課しはしない。いや、我々が何かを課す事など出来んだろう。ここまで言えば、此処に居並ぶ面々の意味を、キルアスならば解るだろう?」
まあ、何となく。
宰相の役目は、俺に与える自由度の査定と各方面への通達と調整。
軍務卿の役目は、俺の物理的な危機対処能力を向上させるプランの策定と実行。
老師の役目は、俺の魔術技能を向上させる為の指導教官。
エルランテは…ただの事故だな。
この認識に間違いがなければ…
「俺のステータスに鑑みて、父上は、俺にほぼ無制限の自由を与える事を決めた、という理解でいい?」
「ふんっ、その通りだ。お前は本当に七歳なのか?」
「もうすぐ八歳ですよ、父上」
(前世を加算すれば三十九歳だが…)
「そうだな。八年という孤独な時を強いられながらも、腐らずに研鑽を積んだキルアスに、私は敬意を表する」
「八年間、俺を護り続けてくれた父上と母上に、俺は最大の感謝を」
「まったく、とことん大人びた息子だ。なあ、アルテイシアよ」
「ええ、本当に…」
母上の頬を伝った一筋の涙を見て、俺は悪くない転生だと、つくづく思った。
「キルアス、お前から聞きたい事はないか?」
「知りたい事は沢山あるけど、聞くより自分で調べる方が身に付くから。あ、でも、自分以外のステータスを見てみたいかな?」
「いいだろう。私のステータスを見せてやる」
父上は懐からステータスプレートを取り出し、俺に見せてくれた。
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【名前】アルケイド・フォスト・ルインドル・デュケ・テスラ
【種族】人間族 【性別】男 【年齢】38歳
【クラス】正魔導士・Aランク冒険者・AAAランク探索者
【称号】エレメントの守護者・魔獣の天敵・階層主討伐者
【レベル】75
【体力】525 [気力循環+300]
【魔力】1115 [魔力循環+500]
【魂力】945
【耐久】380 [気力循環+300]
【敏捷】250 [気力循環+300]
【物防】150 [気力循環+300]
【魔防】800 [魔力循環+500]
【スキル】略式詠唱・気力循環・魔力循環・魔力回復(大)・大剣術
【固有スキル】攻性防壁・暗黒魔練
【魔術】火炎・土・轟雷・暗黒・時空・刻印
【加護】魔神
【罪科】なし
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ヤバい、申し訳ない感でいっぱいだ!
父上って強者カテゴリーなんだよな?
僕神が破壊神の復活に危機感を持つわけだ。
つーか、累積年齢でタメって…
頬を引き攣らせながら見ていたら、父上がジト目を向けて言った。
「どうだ?自分のステータスが、どれだけ異常か認識できたか?」
「…何かスミマセン」
視線を逸らしながらステータスプレートを父上に返していると、母上がソワソワしているのが目に付いた。
「母上、どうかしたの?」
「え?ええ、あのねキルアス、貴方のステータスに神聖魔術があったでしょう?」
「うん、あるね」
「私が知る限りでは、白魔術の最上位は聖光魔術なの」
そうか、母上の専門は白魔術系統だもんな。
白魔術は治癒が大前提だから、生体の自己回復能力を高めるのが限界点だ。
俺は治癒に、前世の医療用ナノマシン技術を基にした、治療を術式化して付加した。
母上は、神聖魔術の可能領域を知りたいんだろう。
「もしかして、アレイスト兄上のこと?」
「そう!キルアスなら、治せるかもしれないと思って…」
「俺もそれは考えてた。兄上はいつ頃から寝込んでるの?」
「もう二年近くになるわ。私が聖光魔術をかければ安定するのだけど、一月程でまた悪化する。それの繰り返し。そろそろ悪化する時期だから心配なの」
「連続的に魔術をかけてみた?」
「ええ。だけど安定度も悪化する期間も変わらないわ」
「じゃあ、兄上の世話をしてる侍女に感染したことはある?」
「それは無いわ。私もアレイストの部屋には毎日行っているし」
ふむ、感染症ではないみたいだな。
治癒魔術で安定はするが、完治には至らない。
「兄上が悪化した時の、顕著な症状って何かある?」
「発熱して酷く疲れた状態になって、立つだけで眩暈を起こすわ。それと出血ね。鼻血とか歯茎からの出血、皮下出血もするの」
「出血か…。安定してる時には出血しない?」
「ええ、しないわ」
発熱、眩暈、出血を当てはめると、風邪、貧血、…血小板減少?
ちょっと判らないな。智神に聞いてみるか。
「母上、聞いた限りでは見当がつかないから、明日、兄上の部屋に行ってみよう」
「ありがとう、キルアス」
他の皆も兄上のことが心配らしく、ステータスの事など忘れて意気消沈してしまった。
後顧の憂いを絶つためにも、兄上には元気になってもらわないとな。