第14話 神核第一層解放
今朝は、初めて父上、母上と一緒に朝食を摂った。
母上はニコニコして嬉しそうだったが、俺は父上から無陣・無詠唱に関する質問責めを受け、朝食に二時間もかかった。
母上には悪いが、食事は自分の部屋で食べる方が楽だ。
父上と話をして感じたのは、この世界の魔術師は、魔法陣や呪文の改良努力が足りていないという事だ。
魔法陣の小型化、呪文の短縮や簡略化、起動・発動・展開速度の向上、省魔力化など、やるべきことは沢山あると思う。
しかし、魔法陣も呪文も、この数百年ほど全く進歩していない。
グレンが言っていた“平和ボケ”という言葉が頭を過った。
今は自室で、魔力循環と闘気循環の鍛錬をしている。
循環は常時しているのだが、意識して循環量を上げると、魔力も闘気も最大量が増えるようだ。
その結果、俺の魔力量と闘気量は、天井知らずで上がり続けている。
折角だから新しい利用法はないかと試していたら、魔力と闘気を、身に着けている物に纏わせることが出来るようになった。
なので、最近はその鍛錬に時間を割いている。
物質に纏わせると魔力も闘気も消費量がハンパないので、消費量を低く抑える鍛錬だ。
まだ実用レベルじゃないから使ったことはないが、闘気を戦闘装備に纏わせれば、単純に攻防力が上がるだろう。
魔力を纏わせた物の用途は未だ考えていないし、用途があるのかも判らない。
そうこうしていると、母上が俺の部屋へやって来た。
「キルアスの魔力は本当に綺麗ね。輝きを放つ魔力を視たのは、キルアスが初めてよ」
「母上は…俺の魔力が視えるの?」
「ええ。私には魔力視のスキルがあるから、魔力の色や波動が視えるの」
初耳きた!スキル、何それ、超気になる。
「スキルって初めて聞いたけど、何?」
「スキルはね、レベルやクラスなどのステータスが上がると発現する、固有能力よ。その話をするために来たの」
また初耳きたよ。ステータス。地位?身分?
レベル?権限レベルとか?
それが上がる?どうやって?
「母上、もう全部教えて!」
この世界で言うステータスとは地位や身分ではなく、生物の状態を意味する。
前世の医療現場では、患者の状態をステータスと言ったが、それに近い。
身体機能・健康状態・物理戦闘力・魔術戦闘力などが、位階、もしくは数値で示される。
レベルは生物の身体能力や技能を、相対的な到達度として示される。
前世のゲームを地で行く仕様だ。
クラスは意味が広く、細分化されているらしい。
人間であれば職種に近い意味を持ち、就いている職の熟練度が上がれば、上位の職種にアップグレードすることが出来る。
クラスには系統樹があるようだ。
これらのステータスは、神が創りしシステムで管理されているという。
僕神は、こういう自分が創った一般常識を、率先して俺に教えるべきだと思う。
「そのステータス、どうやったら判るの?」
「教会や聖堂にある開眼石を使うのよ。開眼石を使って自分のステータスに目覚めれば、その後は自分の魔力を使って、いつでも確認できるわ」
「取り敢えず、教会へ行きたい」
「その必要はないわ。開眼石は貴重なレリックなのだけれど、この城にもあるの」
なるほど。
僕神が創ったシステムなら、それをインストールするツールも僕神が創ったわけか。
つーか、僕神の権能で俺にインストールできんじゃねーの?
ホント使えない駄僕神だな。
「お話はそれだけじゃないの。キルアス、アカデミーに入学してはどうかしら?」
「アカデミー?学術、魔術、武術の教育・訓練機関だよね?確か国立で、国庫から費用の援助も出ているとか」
「その通りよ。自分のステータスを基に、受講科目を選択できるのよ。キルアスも外へ出られるようになったのだから、社会を知るのも良い勉強になると思うの」
うん、悪くないオファーだ。
この世界の魔術を学ぶ必要性は感じないが、学術と武術を学ぶに損はないだろう。
俺的には一般常識コースがあれば嬉しいが、無いだろうな。
「いつでも入学できるの?」
「ええ。入学試験と適性検査はあるけれど、五歳以上なら誰でも、いつでも入学できるわ。成人後に働いてお金を貯めて、それから入学する人もいるわね」
「わかった。前向きに検討する方向で、取り敢えずステータスが知りたい」
母上に連れて行かれたのは城の一階、正面扉から一直線に進んだ最奥の部屋だ。
そこは聖堂のような部屋だった。と言うか、城内聖堂だった。
正面の壁には五柱神の立像が並べられている。本物とは…かなり違うな。
立像の前には祭壇があり、そこには父上と、豪奢なローブを纏った神父が立っていた。
「来たかキルアス。紹介するから祭壇へ来い」
「キルアス様、お初にお目にかかります。神聖教会で枢機卿を務めております。ライラック・エストハイムと申します」
「キルアス・ルスト・デュケ・テスラだ」
挨拶が終わると、父上が母上に向けて小さく頷いた。
母上もまた小さく頷き、俺たち全員を覆う魔力遮蔽術式を展開した。
「キルアス、開眼石を使うには、お前の魔力を解放せねばならん」
「ああ、それで母上が遮蔽結界を」
しかし…俺が魔力を全解放したら、母上の術式強度じゃ耐えられないな。
「父上、ただ隠蔽を解けばいいのか、それとも、魔力の全開放が必要?」
「枢機卿、どうなのだ?」
「全開放は不要ですが、抑えると開眼石が機能しません。所謂、通常状態ですな。しかし驚きです。キルアス様は、本当に魔力を隠蔽できるのですな…」
「母上、念の為に、もっと術式強度を上げられる?」
「え?キルアス、貴方、まだ魔力が上がっているの?」
「まあ、念の為だよ」
上がり続けてるけど、ずっと隔離状態だから、最大量がイマイチ判んないだよね。
母上の術式強度が上がったのを確認した俺は、魔力隔離を解いた。
「「「なっ!?」」」
おー、こりゃあかなり上がってんな。
母上の結界がミシミシいってるし、早く終わらせた方が良さそうだな。
三人とも固まったように俺を見詰めてるし。
「エストハイム枢機卿、早くしないと母上の結界が壊れるぞ?」
「はっ!?これは失礼しました。キルアス様、この開眼石を両手で包む様に握り、開眼石の声をお聞きください」
マジか。開眼石って喋るのか。僕神にしては凝った造りだな。
枢機卿に言われたとおりにすると、開眼石が語り掛けてきた。
『あ、やっぱりキルだ!ウィスドム!キルが開眼石を使ってるよ!』
…僕神、なぜお前の声が聞こえる。なんかスゲーがっかり感が大きいぞ。
『おお、キルアス殿。開眼石を使うのが存外に遅かったですな?』
『ん?会話できるのか?えっと、ウィスドム久しぶり。僕神が何も教えないから、ステータスとか今日初めて知ったもんでな』
『何と…。主神様、まさか神核のことも伝えておられないのですか?』
『えっ!?あ…忘れてた、かも?』
『あのさ、僕神を説教したいのは山々だが、こっちの魔力結界が壊れそうだから、ちゃっちゃと終わらせたいんだけど?』
『仕方ありませんな。では、システムとの魔力接続をするとしましょう。キルアス殿、接続と同時に、神核の起動も始まりますのでご注意を。ではまた、いずれ』
開眼石を通して、俺の脳に情報が流入してきた。
これがステータス情報か。結構なボリュームだな。
《神核の起動と第一層解放を開始します》
お?神核って音声ガイド付きなのね。
―――ドクンッ!キィイイイイイイイーーン!
ぅがっ!?
これヤバい!母上の結界をぶち抜く気がする!
俺は母上の魔力結界の内側に、更に結界を構築すべく術式を起動する。
《大径魔力回路の構築完了まで、術式行使は不可能です》
何だとっ!?聞いてねーぞ!?クソ駄僕神が!
《魔力路への接続と大径魔力回路の構築を開始します》
―――ゴバアァッ!!
竜巻の如く白銀の魔力が噴き上がった。
「キルアスっ!?陛下!枢機卿!私の遮蔽術式が破壊されます!」
「何だとっ!?」
「ひぃいっ!?へ、陛下!?」
―――バキンッ!
分厚い強化アクリルでも圧し折ったような音が響き、魔力遮蔽結界が破壊された。
やっちまった!クッソ!どうすりゃいい!?
制御はできてる…が、絶対量がデカすぎる!
《大径魔力回路の構築完了。気力路への接続を開始します》
マジデスカッ!?
術式イケるか!?
俺は虚無空間から結界術式をロードする。
すると、脳内に術式の構築パラメータが投影された。
んだこれっ!?
あークソ!取り敢えず半径5メートルで最大強度!!
―――キンッ!
甲高い金属音と共に、金色に輝く結界が構築された。
結界の表面は、積層型電子回路が縦横無尽に走っているような模様を露わにしている。
《拡張済み気力路を確認。勁力路への接続を試行します》
《拡張済み勁力路を確認。闘気路への接続を試行します》
―――ゴバァアアアッ!!
もうムリ。好きにしてくれ…
《闘気路への接続完了。闘気路の拡張を開始します》
《闘気路拡張完了》
《不明な潜在神格を確認しました。神格解析を開始します》
《解析不能。再試行します》
《解析可能領域21%。統合可能経路を確認しました》
《神核との一次統合を実行しますか?》
『…よろしくどーぞ』
《はい、マスター。一次統合を開始します》
《一次統合完了。不明神格の解放率は15%です》
《生体進化が可能になります。生体組織の変改を開始します》
《変改完了まで残り28797秒です》
《神核第一層解放を終了します》
…どーも。高性能なのは認めるけどさ…
父上は母上を庇うように立ち、俺の状態を見定めるかのように睨んでいる。
枢機卿は床に両手両膝を付いて唖然としている。
…まいったね。さて、どう収拾したものか…