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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第1章 地球から異世界へ
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第10話 Side:神木刻斗の記憶④ 復讐の終焉と誤算


 訓練を終えた俺の初任務は、世界規模で軍縮を推進する超大国に対する、軍事基地の破壊工作だった。

 軍縮の気運が盛り上がる前に軍事基地を潰し、超大国の危機感を煽り、軍縮から軍拡へと転換させる目論みだった。


 俺の記憶は、色葉との思い出も含めて、訓練期間中に消去されていた。

 俺が自身に刻んだ咒は、『色葉のためにリヴァームズを根絶やしにする』という意思を強く残していたが、色葉が誰なのかすら解らなかった。

 それでも俺は、咒に従い復讐の算段を始めた。

 俺は、リヴァームズのトップから末端まで、全て復讐対象者を把握する為に、任務を熟しながら調査を続けた。


 リヴァームズは、世界最大の軍産複合体の傘下にある、新型兵器研究開発の専門機関だった。

 構成人員は3121名、その内、生体兵器開発部門は243名と、リヴァームズ全体の十分の一にも満たない規模だった。


 2286日

 最初の一人目から数えて、俺がリヴァームズ壊滅までに要した日数だ。

 約六年と三か月をかけて、俺は3121人のリヴァームズを葬った。


 自分でも理由は解らなかったが、俺は最後の一人に白衣の男を残した。

 日本語を話す生体兵器開発部門の科学者だった男だ。

 白衣の男は、神に祈るかの様な姿勢で、醜く命乞いをした。

 白衣の男は、俺に色葉を吸収させたのも、俺の記憶を消したのも、全て組織の命令でやった事だと弁明した。

 最後には、自分の妻と子供の写真まで持ち出し、『命だけは助けてくれ』と懇願した。


 俺は白衣の男に対し『俺にお前の言葉は響かない。色葉を吸収だの、俺の記憶だのの意味も解らない。お前は今日、此処で、色葉のために死ぬ。それだけの事だ』と告げた。

 白衣の男を含め、葬ってきた中の数人は、色葉のことを知っている様子だった。

 しかし、俺の感情は微動だにしなかった。俺の中に在ったのは、『色葉のためにリヴァームズに復讐する』という鬼の咒刻だけだった。


 最後の一人を始末し終えた時も、俺には何の感慨も湧かなかった。

 “俺の命が終わる”という咒刻の対価だけを抱え、その時を待った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「…俺はなぜ死なない?リヴァームズの生き残りは、いないはずなんだがな?」


 復讐を終えてから三ヵ月後。俺はまだ生きていた。

 リヴァームズ最後の一人を始末した時、自身に刻んだ咒刻が消えた。

 だからこそ、俺は復讐と命の終焉を確信した。

 だが死ななかった。死ねなかった。


 三ヵ月間、自分の心臓を銃で撃ち抜いたり、ナイフを延髄に突き立てたりしたが、俺の自己再生は、相変わらずの性能を発揮していた。


「しかし何だろうな、この、死ななきゃならない感は?生きる意味は無いが、死ななきゃならない理由が、此れといってあるわけでもないんだが。つーか最近、独り言が増えたな…」


 生体兵器ではあるものの、殺しが好きなわけではなかった。

 だからと言って、一般人のような生活を始められるわけでもなかった。

 何しろ、俺の祖国だったらしい日本では、当の昔に俺の死亡届が出されていた。


 俺は困っていた。かなり困っていた。

 復讐の最中、俺は生体兵器開発部門のサーバーをクラックして、被験体に関する情報を入手した。

 大した情報は無かったが、被験体の出生地、入手経緯や経路、能力の特徴について知るには、必要十分だった。


 サーバ―をクラックした趣旨が、“自分と色葉の素性と関係性を知る”だった為、被験体になった以降の実験データ等には、必要性を感じなかった。が、それが失敗だった。

 まさか復讐を完遂しても死ねないとは、夢にも思っていなかった俺は、自分の身の振り方に対する指針や、色葉の生死を含めた情報探索が必要になるとは考えていなかった。


 復讐の完遂確率を上げる為に、俺は生体兵器開発部門関係者の抹殺を、復讐の終盤フェーズに置いていた。リヴァームズに、俺が復讐者だと悟らせるのを遅らせるためだ。

 それが仇となり、復讐終盤で“色葉が死亡している可能性は高い”とは判っても、それを確認・断定する方法がなかった。


 復讐対象者のリストは、リヴァームズの上部組織のメインフレームをクラックして入手した。

 復讐を終えても死ねなかった俺は、再度そのメインフレームに侵入したが、色葉の情報どころか、リヴァームズに拘わる一切の情報は、既に抹消されていた。


「あー、これからどうすっかなー。手持ちの偽造パスポートも使えないしなー。色葉も、なんか死んでるっぽいしなー」


 生存そのものに意義を見いだせなかった俺は、いつしか、自分の不死を打ち消すことに傾倒していった。


 手持ちの現金も尽きかけた頃、俺は、不死の咒が、古代イスラム世界の呪術に似ている事実に行き当たった。

 その中でも、中東に存在した古代文明に、“王を不死化し、国に災いする邪悪を滅ぼす力を授ける呪術”に注目した。


「これは…似てるな。しかも、命の源を奪う不死ってところは、似てるなんてレベルじゃない。中東か…戦火も拡大してるし、密入国も簡単だな」


 俺は中東へと渡り、古代文明の都市が在ったとされる地域へ向かった。




 中東で勃発した戦争は、某大国の謀略に端を発していた。

 社会主義を謳う中央集権大国であるC国が、資本民主主義大国であるA国に対して仕掛ける謀略に、中東の反資本主義小国であるI国を利用した。


 C国は当初、A国に反発するI国に裏から資金を提供し、反A国運動を拡大させていた。

 その反A国運動が中東で拡がりを見せると、C国は更に具体的な手段に打って出た。

 それは、I国でテロリストを育成・組織化し、実効的なテロをA国で行うというものだった。


 度重なるテロによって莫大な被害を被ったA国は、報復措置として、I国に軍を派兵した。

 テロ国家撲滅の気運は世界的に高まり、A国への賛同と支援という名目の下に、主要国家群は、連合軍を組織してI国に派兵した。


 この世界が腐っているのは、その連合軍に、元凶であるC国が参入したことだった。

 C国に裏切られたI国は、世界的に孤立し、勝算などあろうはずもない戦争に、怨恨の念のみを以て抗い続けていた。


「おいおい頼むぞI国、俺の咒解が完成するまで持ち堪えてくれよ?微力ながら、俺も協力するからよ」


 俺の外見がアラブ系に見えないこともなかった為、幾度か戦闘に助勢することで、俺はすんなりと現地のゲリラ組織に受け入れられた。

 好都合だったのは、その組織の幹部に、古代文明でシャーマンだったという者の末裔がいたことだった。

 俺は戦闘に助勢した際、その幹部、ラシードの命を救った。その見返りとして、曾祖父との面会を要求した。


「なあトキト、俺の曾祖父に会って、何するんだ?」


「ん?古代文明の呪術について、知ってる事を教えてもらう」


 俺の生体兵器としてのコードネームであるゼロは、悪い意味限定で知れ渡っていた為、俺は自分の本名らしい“トキト”の名を使うことにした。


「傭兵の戦闘報酬が、古代文明の呪術の話?おかしいだろ」


「ラシード、俺は傭兵として此処に来たわけじゃない。調べたい呪術のある場所が、紛争地域だっただけだ。お前の命を救ったのも只の偶然だ。それに、戦闘で貢献すれば、呪術情報の対価を払わなくて済むだろ?」


「トキトは変なヤツだ。まあ、お前のような腕利きの報酬がそれで済むなら、こっちとしては願ったり叶ったりだ。だが、頑固爺さんだから、トキトが知りたい事を教えてくれる保証はないぞ?」


 ラシードが俺の立場だったら、同じことをしただろう。

 ラシードの組織からは、寝る場所と食事が支給されたので、無報酬というわけでもなかった。


 ラシードの曾祖父は、避難キャンプではなく、戦闘地域からそう遠くない自宅に住んでいた。

 それは、『殺したくば殺せ』との明確な意思表示だった。


「俺の名はトキトだ。単刀直入に言う。不死の呪術について知りたい」


「今時、古の呪術について知りたいなど、どんな物好きかと思うたが…不死か。仮に儂がそれを知っているとして、お主は、不死を望むのか?」


「まさか。不死なんぞ、どんな拷問よりも耐え難い苦痛だろ?そんなもん欲しがるヤツは、度し難い愚者だ」


「フッ…そうじゃな。儂の曾孫を助けてくれたとも聞いておる。その恩には報いねばなるまいて」


 爺さんは地図を取り出し、ある一点を指さした。

 そこには古代文明の神殿が、遺跡として残っていた。


「遺跡の最奥には石碑が残っておる。その石碑の裏側には、古代アムナダ文字で、小さく刻まれた文章がある。その文章を細長い紙に縦一列で複写し、直径3ルススの長い棒に、重ならぬよう巻き付けるがよい。さすれば、最初の一文字目から横に並んだ文字が、正しき文章となる。それを読めば、不死の呪術を知ることが叶うであろうて」


 古代アムナダ文字の読解と、古代アムナダの長さの単位であるルススを調べるのには苦労したが、俺は遺跡へ行き、爺さんに言われたとおりの事をした。

 そしてそれは、俺が期待した以上の内容だった。


 不死の呪術には、解呪の方法も記されていた。

 その方法とは、『この地を侵さんとする、幾百の邪な者の血を鋼の刃に纏わせ、その刃に必至の念を以て必死の呪を刻み、一刀のもとに首を落とす』だった。


 その日から、俺は連合軍と戦い続けた。

 幾百が何百人かは判らなかったが、俺は率先して敵地上部隊の侵攻エリアへと突っ込んだ。

 敵への止めにはナイフを使い、銀色だった俺のナイフは、いつしか赤黒く染まっていた。


 ある日、空が白み始めた頃、俺は999人目を殺した。

 止めを刺したその瞬間、俺のナイフは蘇生したかの如く、一つ大きく脈打った。

 俺の心と体は歓喜に震えた。

 死に場所は、この戦場を見渡せる、一番高い場所にすると決めていた。


 その場所へ向かおうとした時、俺に銃口を向けた連合軍の兵士が、視界に入った。


(…なんて運の悪いヤツだ。だが喜べ、お前は俺の、千人目だ)


 俺はその兵士に向かって、一歩を踏み出した。


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