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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第1章 地球から異世界へ
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第9話 Side:神木刻斗の記憶③ 咒刻


 目覚めた力をリヴァームズに悟られてはならないと考えた時、俺は色葉が持つ悟りの異能に思い至り、咄嗟に色葉の顔を見た。

 色葉は無表情のまま俺の頬に手を添えて、『本当にごめんなさい』と言った。

 俺に悟りの異能はなかったが、色葉は俺の考えを悟り、俺に合わせてくれていると思った。


 俺は色葉を見詰めながら、全力で思考した。

 リヴァームズが俺たちに自由時間を与えた目的は?

 色葉に悟りの話をさせた目的は?


 悲惨であろうが残酷であろうが、俺は色葉と同じ施設で過ごせる状況を、脱出する時まで維持する必要があった。

 答えに至らないまま思考を続けていると、色葉が膝立ちになって、俺の頭をその柔らかな胸に押し当てて抱きしめた。


「悟りの事を黙っててごめんなさい。でも、私は刻斗が傍に居れば、それだけで何でも耐えられる」


 色葉は俺の頭を胸に抱いてそう言うと、辛うじて聞き取れるくらいの声で『私を信じて』と囁きながら俺の頭を胸から離した。

 次の瞬間、色葉は顔を近づけて目を閉じ、顎先を少しだけ上げた。

 俺は色葉を信じた。信じない理由がなかった。


「俺も、色葉さえ居れば、何でも耐えられる」


 そう言って、俺は色葉にキスをした。

 色葉はキスをしながら俺の手を取り、掴ませるように柔らかな胸に押し当てた。

 色葉の考えは解らなかったが、俺が色葉を信じる気持ちに変わりはなかった。

 そこからは、思考をするでも演技をするでもなく、自分の本能に身を任せた。


 貫頭衣を脱がせると、色葉の膨らんだ乳房とくびれた腰が目に入る。

 それと同時に、体中に刻まれた多くの傷痕が目に入った。


 色葉が俺の傷痕を音を立てて舐め、俺も色葉の傷痕を同じように舐めた。

 色葉の息遣いが荒くなり、漏れる声も大きくなっていった。

 俺と色葉は一つになり、ただ衝動のままに激しく求め合った。


「刻斗、愛してる。刻斗の異能で私を食べて!」

(刻斗、愛してる。私の咒を奪って。そして、刻斗は私の分まで生きて!)


「色葉!色葉!色葉!いろはーーー!!」


――うがっ!?ぐわぁぁああああああ!!


 俺は初めての絶頂と同時に、体を引き裂かれるような激痛に襲われて、意識を落とした。



 目が覚めると、いつもの被検室の椅子に、拘束された状態で座っていた。

 壁の大型モニターには簡易ベッドが映され、その上には人が横たえられていた。

 腰の辺りまである長い髪と、痩せこけた体から老婆かと思ったが、ここでは子供の被験体しか見たことがなかった。

 ただ漠然とモニターを眺めながら、自分の記憶を辿っていった。


 俺は…色葉と一緒にいた。俺は色葉と…!?

 眼前のモニターに映っていたのは、生命力を奪われて変わり果てた姿の、色葉だった。


「色葉!?色葉!色葉!!これを外せ!これ外せよぉおおお!!!」


「やっと覚醒したかね?万が一を考えて強制覚醒は控えたが、待ちくたびれたよ」


「色葉に何をした!色葉を元に戻せ!早く色葉を元気にしろよぉおお!!」


「ふむ。記憶が曖昧なのか?76番をあんな状態にしたのは77番、君だろ?」


 モニターの映像が二分割されて、片方に俺と色葉の行為が映し出された。

 それを見た俺は、自分の体から血の気が引く音を聞いた。


 覆いかぶさって激しく動く俺の下から、色葉が刃物で俺の胸を刺し貫いた。

 俺の胸から流れ落ちる、大量の血を浴びた色葉の体が、淡く光りだした。

 淡い光は小さな粒となって色葉の体から流れだし、俺の身体に吸い込まれていった。

 光りの粒を流し続ける色葉の体は、干乾びるように痩せ細っていった。


「う、うそだ…うそだ!色葉ぁぁああああああ!!うわぁああああああっ!!!」


「落ち着きたまえ77番。ああ見えても76番は生きている。ちゃんと治療をすれば、元通りとはいかないまでも、普通に生活できるくらいには回復する」


「本当か!?色葉は元気になるのか!?」


「本当だとも。君がこれまで通り、我々の指示に大人しく従うならば、だがね」


「わかった従う!従うから色葉を元気にして!お願いします!」


 そうして俺は、操り人形が如く、被験体としての生活を続けることになった。

 それ以来、俺は色葉に会わせて貰えなかったが、時々モニターで見せられた色葉は、少しずつだが回復しているように見えた。



 実験が進むにつれて、俺の異能が明らかにされていった。

 自分が死なない体を持つだろうことは解っていたが、正確には、“自己再生による不死”が異能の正体だった。

 但し、自己再生には、自分以外の生命力を必要とした。

 人に限らず、動物や植物、微生物に至るまで、自分の周囲に存在する生物の命を、無作為に強奪・吸収することで俺は再生した。


 リヴァームズは、他の被験体を使い、様々な方法で俺を殺させた。

 俺は殺される度に、その被験体から生命力を奪って再生した。


 そんな地獄のような日々が続く中、俺は自分に新たな異能が宿っていることを自覚しつつあった。

 その新たな異能は“悟り”だった。

 そう、色葉の悟りだった。


 リヴァームズは、俺が自己再生をする際に、生命力を奪った対象の遺伝子情報まで吸い上げることを、認識していなかった。

 更に、俺が持つ鬼の遺伝子特性に適合する遺伝子情報があれば、それを俺の遺伝子に付加し、新たな異能とする能力も備えていた。


 悟りの能力を自覚した俺は、リヴァームズの科学者に対して、悟りを使った。

 そして俺が知ったのは、既に色葉が死んでいるという事実だった。


 リヴァームズは、色葉の異能が、生体兵器としては不適格だと判断していた。

 夢見は曖昧すぎて用途が無い。

 悟りは魅力的だが、使用限度が一日に一回で、対象は一人。よって、生体兵器の主用途である戦闘には寄与できないと判断した。

 対して、俺は不死であり、自己再生では相手の生命力を奪う。

 リヴァームズは、俺を生体兵器に仕立て上げるべきだと判断した。


 リヴァームズは、不適格と判断した被験体を、即時廃棄していた。

 しかし、俺の生体兵器化を決定したリヴァームズは、色葉の廃棄に躊躇した。

 それは、これまでの生体モニタリングの結果から、俺の色葉に対する精神的依存度が、異常に高いことが判明していたからだった。


 俺の生体兵器化を円滑に進めたいリヴァームズは、俺を精神的に拘束し続ける為に、色葉を生贄とし使った。

 リヴァームズが色葉に『77番を死なせたくないなら、君が77番の為に死になさい』と告げた時、色葉は『はい』と即答していた。


 その後も、リヴァームズはCGで捏造した色葉の姿を、モニターに映して俺に見せ続けた。

 俺が、悟りで思考を見ていることを知らないままに。

 そして俺は、リヴァームズへの復讐を、色葉と神に誓った。





「77番、君は、今日で被験体の役目を終えることとなった。だが、君を廃棄などしないから安心してくれ。君には、新たな役目が用意されている」


「新たな役目?」


「むしろ任務と言うべきか。君には、世界初の実戦用バイオウェポンとして、世界正義の実現に尽力してもらう。訓練期間は君の能力次第だが、最高・最強の生体兵器となるべく、戦闘・諜報・言語・工学・化学・医学・薬学・歴史・文化などを身につけた後に、実戦投入されることとなる」


「不死の生体兵器、ですか?」


「そのとおりだ!素晴らしいだろう?世界初にして世界最強の兵器となる君に、我々は“ゼロ”のコードネームを贈る」


 俺は復讐の契機が訪れることを予感した。

(いいだろう。世界最強の兵器になってやるさ。そして、お前らを挽き肉にしてやる)


「わかりました。これからも命令に従うので、元気になった色葉に会わせてもらえますか?」


「もちろんだとも。76番、いや、神前色葉は映像で見せたとおり、かなり回復した。彼女も君に会える日を心待ちにしていることだろう。但し、君たちの再会は、君の訓練課程が全て終了した後だ」


「そうですか。色葉に会える日が待ち遠しいです。一日でも早く再開できるよう、訓練を頑張ります」


 俺は悟りの能力によって、訓練の期間中に、リヴァームズが俺の記憶を改竄、もしくは消去することを知った。

 そして、その時の俺は、自分の能力がサイキック的な異能ではなく、先祖返りによって覚醒した鬼の呪いであることを、既に理解していた。

 鬼の始祖、鬼神の権能は咒であり、敵への咒は死を、自身への咒は、制約と対価を以て、望みの事象を発現せしめる。


 俺は、俺の命を含めた人生を対価とし、色葉のためだけにリヴァームズ滅すると制約した咒式を、己の身に刻んだ。

 何を失おうとも、リヴァームズだけは冥府の底に沈めることを誓った。


 それから五年余りの期間、俺は最強の生体兵器となるべく、訓練を受け続けた。


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