-7- 俺、宿に泊まります
アイラ:ようこそ!
ナラヤ:なんでいるんだ?!
宿屋の、ゆせりぐ亭に入ったらアイラがいた。
「いらっしゃいませ!来てくれると思ってましたよ、ナラヤさん!」
「……え?」
「どうしましたか? ナラヤさん?」
「ナンデイルノ?」
「え? だってここ私の実家ですし?」
「な、なるほど?」
「でも来てくれて良かったです」
「…うん、まあ他に宿屋のアテもなかったからな」
「まあまあ、おすすめであることは本当の事なので安心してくださいよ。」
「へえ……具体的にはどんな感じなの?」
「具体的には、冒険者の方向けの割引や専用サービスが受けられますよ。 例えばですが、朝食の量が増えたりしますね。」
「ほうほう……」
「まあ、あとは住めば都って言いますし、実際に宿泊してみればわかりますよ。」
いや……ここに住むわけじゃないんだけどと思いながらも、結局アイラの勢いに負けてゆせりぐ亭に宿泊することを決めたのだった。
「おっ! 案外広いな。」
案内された部屋は2階の一人用の部屋であったが、それでも一人にしては大きい部屋だった。
これってもしかして俺が勇者だからとかだったりしないよな…?
「しないですよ。 冒険者の方は装備や素材を多くもってくることが多いため、この大きさになってます。」
しれーっと心を読まないでもらいたいな。
「冒険者ってそんなに荷物が多くなるんだ。」
「あなたも冒険者では……。 いえ、人にもよりますが武器や防具、そして素材、人によっては罠などを持ち込む人もいますね。」
「武器に罠か、それって危なくない?」
「武器や防具は冒険者の命を守るもの、その手入れを怠るといざというときに大惨事になりかねませんからね。 それに、爆発物等に関しては、受付で回収して爆発耐性壁の保管庫に預けてもらってますから心配には及びませんよ。」
「でも、例えばだけど冒険者同士が喧嘩してお互いに斬りあっていたらどうすんの?」
「事情にもよりますが、その場合は既定の宿泊料の10倍の金額を支払ってもらい、そのあとにギルドに報告して問題人物リストに追加されます。 ちなみに、問題人物リストに入れられてしまうとしばらくの間、具体的には3か月ほど、ここダンデラのギルドからの監視、さらに一部のお店の出入り禁止などの制限がかけられます。 だから、よほどのことがない限りここで人の生死に関わるようなことは起こりませんよ。」
「問題人物リスト、そんなものがあったのか。」
「はい、軽い喧嘩などは大丈夫ですが、殺意を持った攻撃や窃盗行為などを働いた場合はリストに入れられます。 ナラヤさんも頭の片隅に入れておいてくださいね。」
「わかった覚えておくよ。 アイラ、サンキューな」
「はい、では私はこれにて失礼しますね。 何かあれば受付か私の部屋にいますのでそこまで来てください。」
「おう、今日はありがとうな」
そう言ってアイラは下に降りていった。
うーん、これからどうしようかな?
今日は結構忙しかったし、ゆっくりと汗を流したい。
…そもそもスライムに呑まれてたから体は洗いたいな。
「よし、お風呂に行こう!」
「それなら、ここから徒歩5分位の所にお風呂屋さんがありますよ!」
「うぉあ?! アイラ、なんでいるんだよ!」
驚いて変な声が出てしまった。
「ふふっ、いやー明日のことについて伝え忘れていたので言いに来たんですけど、面白いものが見られました。」
「…さっきのは忘れてくれ。 で、明日のことって?」
「明日の朝食や集合時間のことです。 明日は7時に魔法訓練がありますので、6時頃には朝食をとって、6時半頃にギルドに向かいましょう!」
「分かった。 それでお風呂屋さんまでの地図をお願いできるか?」
ということで、アイラにお風呂屋さんまでの地図を描いてもらった。
「お風呂屋さんの名前は…ロハス? なんか人の名前みたいだな。」
「実際そうですからねー」
「あ、やっぱりそうか! じゃあ行ってくるわ。」
「行ってらっしゃいませー」
そう言って俺はロハスに向かうのだった。
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……ハイ迷いましたー
ダメだ全然わかんねぇ。 やっぱり人に聞くしかないか?
でもさっきのようにすぐそばの可能性もあるし…
「あ、そうだ!」
選別眼を使えばいいのか! すっかり忘れてた。
ということで、地図に描いてあるロハスを指定してみる。
「さて、どこにあるかなー?」
周りをキョロキョロ見渡して見ると、少し後ろのお店が線で囲まれている。 そこか。
よく見てみると看板に『ロハス』と書いてある。
でも、これは…
「お風呂屋さんの外装じゃねぇな。」
入口のスタンドに武器が立てかけてあり、どう見ても武器屋っぽかった。
とりあえず、俺は入口を開けて中に入ることにした。
「おう! いらっしゃい!」
スキンヘッドで筋骨隆々の男性が沢山の武器に囲まれながら挨拶をしてきた。
「あのーここはお風呂屋さんのロハスですか?」
「おうよ! ここがロハスだ。」
「その武器は?」
「これか?これは他の客の武器だ。 ただ案内してるだけじゃ暇なんでな。 客が風呂に入っている間に手入れさせてもらっている。」
「え?! もしかして外のやつもそうですか?」
「あれは手入れ済みのやつだ。 風呂から上がったらそこから武器を持って帰るといった感じだな。」
「相当な量ですね……」
ぱっと見でも外と中の武器を合わせて武器屋さんレベルの武器が集まっている。
「で、お前は何か武器を持っているか? どんなに小さなものでも出してくれよ? お風呂場は裸の付き合いだ。 身を守るものなんてないからな。」
「なるほど、武器はこの安物の剣と…あとはこの果物ナイフもそうですか?」
「おう、剣もナイフもこちらで預かる。 お前が風呂に入っている間に手入れして外に置いておくからな。 ほれ、これが番号札な。」
「番号札?」
「そうだ。 剣は見た目がほとんど同じようなものがあるからな。 外に出している武器にも札が付いているから、その番号の武器を持ったらここに来てくれ。 俺が番号札と武器の番号が同じことを確認したら札を外す。 くれぐれも自分で外すんじゃないぞ。」
「はい、分かりました。」
「じゃあ男湯は左だ。 ゆっくりしてきな。」
そう言われて俺は左端のドアを開け中に入っていくのだった。
ナラヤ:おっちゃん普通に強そうだな……