-6- 俺、明日の予定が決まりました
カヤさんと別れました。
「今日はとても災難でしたね」
ダンデラの町に戻ってすぐにギルドで依頼の報告をしていたら、
アイラがそんなことを言ってきた。
「確かに。特にこのツクラバとか見つけるのが大変だった」
「スライム」
「え?」
「災難でしたね」
「…どこから聞いた?」
俺がスライムに呑まれたことを知っているのは、カヤさんだけのはず。
そしてそのカヤさんはチェリブの町に行っているから情報は伝わっていない…はずなのに!
「まあ、別にそんなことはどうでもいいんですよ。問題はー」
サラっと流さないで?全然良くないよ?
「問題はナラヤさんが魔法についてよく分からないということじゃないですか?」
この娘はどこから情報を仕入れてくるんだろう。
「あっ、ちなみにこの情報を知っているのは私だけなので安心してくださいね」
情報第一のギルドの中で情報共有がされてないのは、どうかと思うけど今回はそれで良かった…
「それで、なんだっけ?魔法?」
「はい、魔法です。ナラヤさんは魔法の適性はあってもファイアーボール1発で倒れたことから、使ったことはないんじゃないんですか?」
うん、なんで知ってるのっていう疑問は一旦無視だ無視。
「確かに魔法を使ったのは今日が初めてだよ」
「でしたら、魔法訓練の初級を受けてみてはどうですか?
明日からまた訓練講座が開始しますし」
「魔法訓練か、もう少し詳しく教えてもらえる?」
アイラに聞いた限り、魔法訓練では魔法を放つための理論や実技での練習を行い、最終的に初級魔法を放てるようにすることを目指したものらしい。期間は3日間で、朝7時に集合して夕方の17時に解散とのことだ。
「うーん、明日はちょっと装備とか見てみようとしてたんだけどな。」
「ですが、ギルドに登録してから1週間なら無料で受けられますよ?」
「是非参加させてもらおう」
だって無料だもの、拒否する必要ないよね。
「では、参加の登録はしておきますね。よかったー1人で不安だったんですよ」
「うん?ということはアイラも参加するの?」
「はい!明日はよろしくお願いしますね」
ということで、魔法訓練の初級に参加が決まったのだった。
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ところでだけど、
「そういえば、話し方が会った時と同じに戻ってるね。」
友達のようにと言ったのは俺ではあるのだが、それでも怯えてるような感じだった。一体何があったのか。
「それは今日の出来事を見てましたから」
「今日の出来事?と言っても、魔力切れやスライムに呑まれたくらいだぞ?」
「そう、まさにそれです。勇者って伝説の人物で恐れ多いという感じだったのですが、今日のナラヤさんの行動を見て、勇者といっても私たちと同じである。と気付いたんです」
わー情けない。距離を置かれるよりかはいいけど。
「なので、友達として改めてよろしくお願いしますね」
「おう、よろしくなアイラ。」
今日起こした数多の失敗が思わぬ副作用をもたらしたものだな。
「じゃあそろそろ宿を見つけないといけないから帰るわ」
帰る宿はまだ決まってないけど。
「宿ならこちらなんてどうですか?手頃な値段でおすすめですよ」
その言葉とともに、簡単な地図を描いて渡してくれた。
その地図には『ゆせりぐ亭』の所が赤丸で囲ってある。ここがその宿だろう。
「この、ゆせりぐ亭だね。ありがとう行ってみるよ。」
「はい、ではまた!」
そう言って、俺はアイラと別れてギルドを出るのだった。
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「おおー!夜はやっぱり装いが違うな!」
昼間は商人が行き交っていた道は、料理やお酒を手にした人達で賑わっている。
その賑わいに釣られるように俺の疲れていたテンションも上がっていた。
こうして、暫く出店や道端の大道芸を見たりと寄り道をしていたが、お腹減ってきたのでアイラにおすすめされた宿、ゆせりぐ亭に向かうのだった。
「ゆせりぐてー、ゆせりぐてー…どこだ?」
迷いました。
だって初めての町でテンション上がって色々まわってたら自分がどこにいるのか全然分からないんだもの。
…人に聞いてみるかー
「すみません、ゆせりぐ亭という宿屋を探しているのですが、どちらにあるのか知りませんか?」
そのように、近くにいたおじいさんに聞くとおじいさんは
「ん。」
といって俺の横を指した。
横?でも看板は…ってちゃんとゆせりぐ亭って書いてあるし?!
恥ずっ!恥っず!
「ありがとうございます!」
瞬間敬礼即開扉!とにかくすぐにこの場から去りたい!
「はあ…はあぁ顔が熱い…」
こうして急いでゆせりぐ亭に入った俺を待っていたのは…
「いらっしゃいませ!来てくれると思ってましたよ、ナラヤさん!」
満面の笑みのアイラだった。
ナラヤ:この娘怖いんですけど…