血まみれの制服
廊下を歩いていると、視界がゆれていきなり口の中がドロドロの何かで溢れた。
あまりにも急だったので、口を閉じていることが出来なかった。
ベチャベチャと汚い音をたてて、床に広がった。
「うわぁ!!!」
近くの者たちの視線が、床のそれから自分の口元に移る。
あぁ……またか。
液体の正体は【血】だ。真っ赤な口内を舌で探ると、右頬の肉がかなり深く削げていた。これはまずいな。
「ユウ、職員室に行って来い。俺がやっとく。」
そういってくれたのは、一緒に歩いていた親友の光輝だ。
「ありがとう。」
俺は職員室へ向かった。周りの人の視線がやけに刺さるので、口元を袖で隠した。
血まみれの制服で職員室に入るのは、これで数回目。先生方も大分慣れてきたようだ。数人の先生方が一斉に動く。素晴らしいほどスピーディーに段取りを済ませにかかっている。
「ここに血を出せ。」
一人の先生が手洗い場を指さす。俺は口の中に、たまりにたまった血をベチャベチャと吐き出した。
「今救急車を呼びました。来るまではそこにいてくださいね。」
「はい、分かりました。」
また母さんに怒られるんだろうなぁ。めんどくさい。目の前の鏡に移っている自分は、事件直後のような有様だった。
「優斗さん、廊下の状況は?」
「血、吐いちゃいましたけど光輝が片付けてくれてます。」
廊下の心配とは、ずいぶん落ち着いてんな。まぁ人間こんなもんか。
鏡で後ろの先生方が処理をするのを見ていると、救急車が来たらしい音が聞こえた。
促され玄関に出て、救急車に乗り込むとビニール袋を渡された。それに血を吐けといわれた。
止まらない血を袋に貯め続けていると、病院についた。ストレッチャーに乗せられすぐさま先生のところへガラガラと運ばれる。ストレッチャー楽しい。
「これは……大分噛んだね。どうしたの? 縫わないとだ。」
「はい。多分廊下を歩いていた時、誰かにぶつかったんだと思います。それで多分ガリっと。」
はぁ、口の中は気になるから、縫うのは嫌いなんだよなぁ。噛んだ俺がわるいけど。
すぐに俺は手術室に運ばれた。麻酔をかけられ、うとうとしていた。
眠りにつく寸前、会話が聞こえた。
「無痛無汗症なんて、絶対にかかりたくないものだな。」
「そうですね。」
まぁそうだな。俺だって何も痛くない体を気に入ってなんかないさ。でも、否定してくれるだけいい。何も知らない輩に肯定されるのが俺は一番、大嫌いだ。
聴覚を遮断し、優斗は眠気に任せて体の力を抜いた――。