ラプチャー9
〈育児日記13〉
今日は久々に雪が降った。国家管理局も、こういった気象現象は制御できないらしい。まあ、仕方ないか。
国家管理局といえば、今進んでいるプロジェクトも順調だった。あとはこれを、どうやって広めるか……。局だってできてから十年も経っていない。その上コレじゃあ……うーん、難しい。
コトカの話に変わるが、四年生になってからだいぶ大人びてきた。昔かったスカートももう履いてくれない。むしろズボンスタイルを好むようになった、乙ちゃんみたいな。少し寂しいけど……これも成長なのよね……!
・ ・ ・
――――……どういうことだ……。
国家管理局監視塔・東区。茶色い芝に、茶色い花。少し霜が立っている。……冬が押し寄せてきた。
そんなことはどうでもいい。
チェダーはあからさまに嫌な顔をした。二人一組で行う当番、今日のペアは……
「アハハハ、そう怖い顔するなよ!」
「…………」
一番嫌いな人間。ペアは基本ランダムに決められる。だから誰かに文句を言うことはできない、しかし。
「ゴーダと代わる」
「いやいや、絶対アイツ嫌がるでしょ。局の見張りも楽じゃないし」
確かに……。
もしゴーダに頼めば、「ハァ……? ちゃんと自分の仕事をしなさいよ。代わる? 余計なお世話」などと言われてしまうだろう。彼女は自分の得にならないことが嫌いだ。
「まあまあ、これでも食えよ」
パルメザンが御伽を噛み潰した。そしてそのあと、屋上に咲いた花――とうに枯れている細い花を、ぷちりと抜いた。
彼女の手のひらに乗せられたそれは、緑色の光を帯び、変化した。枯れた花だったそれは、白い陶器のような小さい花となった。いや、花のような……何か。
「……落雁か、いらない」
「ハズレ! ……和三盆。落雁よりもいい砂糖を使ってんだよ、もう大違い。食えばわかる!」
「…………いらん」
「あっそ」
カリリ、と軽い音がしたあと、パルメザンは幸福そうに笑う。
――――……和三盆。
チェダーも御伽を喰い、手の平にそれを生み出そうとした。しかし、花弁がひしゃげた形の悪く小さな砂糖の塊にしかならなかった。
一応、口に含んでみた。……ああ、確かに落雁とは段違いだ。これは上質な砂糖のみを使っているのだろう、上品で洗練された甘みが絹のように舌を包んだ。
イメージがはっきりしていないものは、魔法の力が弱くなる。御伽を含み、念じることでしか使えないのだから当然だ。逆に言えば、使用者の想像がはっきりとしていればたとえそれが架空のものであっても現実にすることが可能なのだ。
しかしチェダーは和三盆をよく知らない。それが不出来なものが生まれた所以だ。だからこれが本当のその味かは判別できないが、美味いことには変わりなかった。
「素直に言えばいいのによぉ、可愛くねえな」
「……うるさい。言っとくけど、あたしはあんたを本気で潰すよ。コト……エメンタールを傷つけるようなら」
「HAHA、こえーな。事実を言っただけだろうが。……あ、言い忘れてたけど、
魔法の使い方、気を付けた方がいいぜ」
「は……?」
「生み出そうとしちゃダメだよ、身代わりを作るんだ。……わかるか?」
――――……。
そう言いながらまた花を抜き、それをカップケーキに変えた。香ばしく焼けた生地の上に、砂糖菓子の薔薇がピンク色に咲いている。
パルメザンはケーキに大きく食らいつき笑う。その白い歯は、まるで鋭利な刃物のようだった。
「……意味がわからない、黙れ」
・・・
「……どうして」
空虚さを孕んだ声が、空気を響かせた。その主は目を見開き、冷や汗を頬に伝わせ、呆然としている。
彼女に降りかかった無数の疑問を取り払うのは、一生かかってでも成しえないだろう。それでも彼女は、声を振り絞った。
「ならば、私の答えは……――」