ラプチャー4
「私たちは、あっちの雲に乗ってる虚を倒す。奴の風は彼女らの仕事を阻害するからな。ただでさえあの霧は動き続けるのに」
「だねえ。まずはあの筋肉マッチョをボクが縛る。そしたら君が、ドカン?」
「だな。しかし奴はでかい。縛ったあと横転させることは可能か?」
「HAHAHA! 造作もねぇよ!」
パルメザンは自身の武器であるモーニングスターの鎖を、柄を振り回しながら調整した。「このくらい? いや、もう少し……」
じゃらららら、じゃら
「……上々だ、パルメザン。たかがバケモノ、人でないなら情けなどいらない」
弾丸をいつもより多く乗せた。体勢は抜群、非の打ち所のない隊列だ。あとは木っ端微塵にするだけ。
「あの二人のためにも、倒すのは早いほうがいい。入念に縛ってくれ」
「もちろん。……じゃ、ボクも降りる」
・・・
戦闘衣装が風にぶつかり、バタバタと音を立てた。髪も暴れてしまい、強風に耐えるので精一杯だ。マントが飛ばされないように、エメンタールは拳に強く力を込めた。
風が吹く、止むの繰り返し。雲に乗った虚は明らかにこちらを倒そうとしている。瓦礫の霧は風のままに空中を泳いでいた。
霧はわずか一メートルほどで、鰯の群れのように移動する。強風に煽られてもばらばらに霧散してしまうことはない、らしい。ただの憶測だが、今のところ広範囲に広がる様子はない。これならばマントで包み込むことが可能だ。とはいえ、時間との勝負。早く仕留めなければ、街に被害が出てしまう。
「っ……エメンタール、平気?」「う、うんっ……」
エメンタールは急いで鎌の先端にマントをかけた。少し繊維を貫き傷つけてしまったが、あとで魔法で直せるだろう。手放してしまうことのないよう念入りに固定するのが最優先だ。
この鎌を振り、霧を包み込めば成功。そのあとはチェダーの出番だ。
雲の虚は依然として腕を仰ぎ突風を生み出している。巨大な、黒い鎧のバケモノ。二人はその正面にいるため、風をまともに食らってしまう。霧の虚は約五メートル先、右方向。
黒い地面と砂漠の上を駆ける。立ちこめた砂埃は、やはり風によって消されてしまう。
微々たる粒子が舞う中、エメンタールは目を凝らす。
風の影響は大きい。追いかけても追いかけても、空気が乱れればまた遠くなってしまう。
速くなる鼓動とともに、足が棒のような感覚になってくる。隣のチェダーもまた、呼吸が乱れ始めていた。
・・・
地に降り立ったパルメザンは、その大きな瞳で敵を睨んだ。少し屈み、跳躍の準備をする。
「まずは……腕だァ……!」
跳
その脚は獅子のようであった。獲物を狩る、一頭の獣。ひゅるひゅると空気を縫いながら、握りしめた武器の柄をめいっぱい振り下ろした。
鎖が伸びる。大蛇のごとくそれは敵をとらえ、鋭い金属音を響かせた。先端の星球が重みを携えながら弧を描く。風を切り裂き、稲妻のように漆黒の鎧へ。
ジャラジャラと轟かせながら、雲の虚の両腕をまとめて縛った。鉄と瓦礫が擦れる音が絶え間なく耳を貫く。
――――……次は、脚。
大きく跳躍していた軽い体は、空中で落下を始める。そんな中パルメザンは右腕を真一文字、空を切った。
轟轟轟轟轟……――――!!
星球が真一文字、空を切った。流星の如くそれは、鎖を引きながら虚の足に巻き付いた。そして、
彼女が地に足を付けたと同時に、雲の虚は横転した。
爆発のような音と共に、砂の煙が辺りを覆う。
「ボクの役目は終わったよ! あとはキミが」
体に付着した埃を払い、ロックフォールのいる塔に叫んだ。
「ああ……任せろ」
隊列を組んだ六輌の戦車隊は、すでに敵の目の前にいた。
「――撃て!」
・・・
「うわああっ!」
虚が倒れた影響でできた煙は、エメンタールたちも覆った。しかし風は止んだ、ゆっくりと漂う霧へ、鉛のような足を動かす。
――――もう少し……!
「エメンタール……」「うん、いける!」
腕を伸ばし、鎌の柄を大きく縦に振り下ろした。全ての体力を、この武器に!
――――――捕えろ!
たなびきながら弧を描くマントは、黒い粒子たちを覆った。小さな砂埃がふわりと舞い、そのまま空気に溶けた。
それと同時に、チェダーがハンマーを握る。小さく「よくやった」と呟いた。本人に届いたかはわからないが、あとで精一杯勝利を分かち合えばいい。……狙いを定めて、
「――撃て!」
塔の号令と共に、霧が消滅する。大きな鎧も微粒子や破片となり、ばらばらに落下した。
――――――!!!!!congratulation!!!!!――――――