表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/253

ラプチャー3

 薄荷色の夜がすぐそこにあった。黒い満月は空に浮かぶ大きな空洞のよう。ばらばらと瓦礫のように落ちてくる星屑たちは、地にぶつかると塵と化した。

 乾ききった砂漠の中央には、高い象牙の塔。その屋上には、四人の少女がいた。


 星の瓦礫が空を切れば、砂漠に漆黒の地面ができる。ひび割れたそれは、次々と、次々と、生まれる。その度に、黒い霧――瓦礫の粒たちが辺りを漂った。


「以前よりも早い到着だったな、感謝する」


 戦闘衣装を纏ったロックフォールが、マントをなびかせながら言った。


「いや、いいよ。……ヒマだったし」「ああ。だから呼び出した」「……」


 ロックフォールは御伽を入れたワイン色の布袋を胸ポケットにしまった。彼女の隣にはもう一人の当番、パルメザンがいた。チェダーは思わず眉をひそめる。


「……本当にあんたたちだけじゃ倒せないの? そんなに強い敵がいるの?」


 認めたくはないが、パルメザンは強い。ロックフォールもチェダーから見れば十分な強さを持っているが、奴は桁違いなのだ。一体魔力指数はいかほどなのか。……どんな人生を歩んできたのか。嫉妬の感情がないと言えば嘘になる。彼女を目の敵にしているから、余計に。


「いや、パルメザンがいるから力の差はこちらが優位。しかし……あれを見てみろ」


 “あれ”の先には黒い雲に乗ったウロがいた。それは猛々しい筋肉をギチギチと鳴らしながら腕を大きく振った。すると突風が起こり、霧もろともその波に飲まれる。荒々しく瓦礫の粒が乱れる。


「あれが実に厄介なんだ。霧が見えるだろう、それも虚だ。少し攻撃してみてわかったが、あの粒全て消さないと倒せない。その上、風だ。……情けないことだが、苦戦している」

「バケモノはたった二体なのに、ボクたちだけだと武器の相性が悪すぎる。


……だから君らのハンマーと鎌で、ちょっとよろしく頼むぜ」



「これを使え」と、ロックフォールが自身のマントをチェダーに投げた。装備すればただの防具だが、外して広げれば大きな布になる。



「エメンタール……これ、パワハラだよ」


「“パワハラ”?」


「職場で人にキツイことをさせることだよ、こないだ本で読んだ。



……こいつら、このマントで霧を捕まえてあたしのハンマーで潰せって言ってる。あんたの鎌が、布をひっかけるに最適なんだよ」


「えっ」エメンタールは自身の鎌を取り出し、その先端を見詰めた。……確かに、この曲線を描いている刃ならば、マントは容易にかけることができる。だが……


「ええええ!? 無理だよ! 難しいってば!」


「……しかし、そうやって袋の鼠にできればあとは簡単だ。君の鎌とチェダーの槌が必要なんだ、頼む」


「えぇ……」


 エメンタールは鎌の柄をぎゅっと握った。そんな戦い方、したことがない。できる自信などないに決まっているのだ。


「はあ……」チェダーが大きなため息をつき、ロックフォールに視線を合わせた。「やろう」


「え!? チェダーちゃん!?」


「……やってもいないのにできないなんて言うのは愚かだよ。勝ちたいなら、やるしかない」


「う……」三人に囲まれ体が硬直したが、「……わかった」


「……じゃあ、やるよ。二人で捕まえて、そのあとあたしがハンマーで潰す」


「すまない、手間をかけさせて。もう一体は私たちに任せてくれ」



「エメンタール、行くよ」


 エメンタールの前に、チェダーの手が差し伸べられる。白く華奢な指が僅かに震えているのを、エメンタールは見逃さなかった。しかし、そこにはれっきとした強さがあった。誰のものでもない、局津乙自身の強さ。


 エメンタールは迷わずそれを握った。強さに縋るのではなく、共に戦い、共に強さを分かち合うのだ。……私だって、『ギアーズ』だ。



 象牙の円柱から、二人の少女が舞い降りる。桃色と空色の光が共鳴し、この黄泉ヨミを仄かに照らした。




 まるでラプチャーの如く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ