大体堕胎な怠惰13
見るも無残。
布や髪が焦げた不快な香り。焼けただれた皮膚は人の形を成していなかった。黒と赤と茶。まだそれはひゅうひゅうと呼吸の糸を僅かに繋ぎ、枝のような指をビクビクと震わせて、口を開いた。
「ヴ……A、HAHA~…………Martyre、。」
ひびの入りかけたコアが、その輝きを失った。それと同時に、細く吹いていた風も止む。脱力し抜け殻のようになった肉体から、皮膚の欠片がべろりと剥がれ落ちた。むき出しになった肉は赤黒く、それを目の当たりにしたエメンタールは吐き気を催した。
――――……どうして。
さっきまで、話していたじゃないか。パルメザンと、私と! 顔が強張っていた私に微笑んでくれたじゃないか。無意識に両手のひらで自分の左右の頬を撫ぜてしまった。あの小さな痛みはもうどこにもない、目の前には、悲痛な事実があるのみ。
その事実をまるで頑なに信じようとしないかのように、両手で顔を覆い膝から崩れ落ちた。指の隙間から雫が落ちる。
まだ仲良くなれていないのに、ましてや友達にすらちゃんとなれていないのに、その希望は一つ残らず潰えた。
「あっ、御伽!……そうだ御伽が、」
「死ぬ気か?」
正常な判断を失い、震える指で御伽を取り出そうとしたエメンタールをパルメザンが制した。その瞳に同情も、悲哀すらなかった。それよりも、眼前の敵を警戒している。
「ガキ二人……国家管理局もこんなガキ共を使うんだな、児童労働って知らねぇのか?」
「よくもまあ事情を知らずにべらべらと。ケチをつけるのは決まって素人だねぇ」
「チッ……潰すしかねぇな」
更田真打は大きく右手を振りかぶりながら、瞬く間にこちらに近づいてきた。目標は……エメンタール。悲しみに暮れる彼女から先に片づけるのが早いと判断したのだろう。
が、しかしそれは大きな過ちだった。
彼の拳は、間違いなくエメンタールの息の根を止めるほどのものだっただろう。その上、本人はその殺気に気づきこそしたが、いかんせん反応は遅かった。……だが、彼女には当たらなかった。
「! ……うずらちゃん…………?」
五味うずら。エメンタールの守護者。橙色の大きな魔法陣で作ったバリアは、真打の拳を跳ね返した。彼の右拳がじわりと赤く染まる。うずらは真打を冷ややかに見つめた。
「ラボの犬……帰れ、警察を呼ぶぞ。FASでもいい」
「…………」
真打は塔から飛び降りた。安否は知らない。知ったこっちゃない。
「危なかった、大丈夫ですか?」
「……どうして、」
「え?」
「…………どうして、私のときだけ? どうしてゴルゴンゾーラちゃんが危ないときにはきてくれなかったの? ねえ、どうして!」
「……。
“メモラジック”は、ギアーズには効かないんですよ」
「メモラジック……なにそれ、」「今日あったことは、あとで詳しくお聞きします。ゴルゴンゾーラさんの件も、皆さんに言わないといけませんし」
そのまままた、うずらはテレポートで消えてしまった。