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大体堕胎な怠惰6

 黄泉が訪れ、パルメザンら三人は身構えウロの様子を窺っていた。


 大樹はやがて成長を止め、その根を地響きと共に地中から引っこ抜いた。バリバリと音をたてるそれは、触手のように蠢く。……間違いない、この大樹こそが虚だ。


 黒い根を足のように動かし移動する虚だが、その大きさゆえなのか大樹そのものの動きは遅い。傷つければいいのか、または何かからくりがあるのか……エメンタールは眉を寄せ、虚を塔の上から眺めた。


「根っこだね」


「え?」


 パルメザンが虚を指差し呟く。その先には、バキバキと不気味に動く大樹の根があった。威嚇行動なのか、空を切るようにそれを勢いよく伸ばしている。


「まず動けなくさせるのが先だね、ボクとキミでやろう。ゴルゴンゾーラはここで後援を頼んだよ。……指揮はボクがとってやるよ」


「……うん」「ウィ!」


 パルメザンとエメンタールは塔を降り、ゴルゴンゾーラは塔の上でジャグリングクラブを投げる準備をした。


 水分のない、枯れた地面は砂埃を舞わせている。虚は根を伸ばしては縮め、伸ばしては縮めを繰り返し、こちらを攻撃した。その度に、黒い葉がわさわさと揺れ、何枚かが散った。


 近接戦ではわからないが、遠距離だとある程度の攻撃を避けることが出来る。虚の動きが遅いからだ。だが、まともに食らったら危なそうだ、動きが遅いぶん根の威力はすさまじいだろう。その証拠に、攻撃を外し地面に突き刺さってしまった根は地下数メートルまでも潜る。確実に、この体は貫かれてしまう。エメンタールは身震いしたが、それどころではない。はやく奴を行動不能にしなくては。


 パルメザンの装備するモーニングスターの鎖部分がジャラジャラと伸びた。虚の方へ投げられたそれは、虚の幹をあっという間に根ごとぐるぐる巻きにする。


「んっ……よい、しょっ、と!」


 ぐいいぃっ


 モーニングスターの柄を力強く引っ張った。しかし、この大樹は微動だにしない。


「クッソ……。あんまり使いたくないんだけどなあ……仕方ねェ」


 がりり


 パルメザンが御伽オトギを噛み潰した。柄を持つ腕が淡い緑色の光に包まれる。


 そして造作もなく、



 ぐい。


 虚が横転する。ザザァという音と共に砂埃がいっそう立ち込めた。

 パルメザンはすぐさま持っていた武器の柄を杭のように地面に突き刺す。これで虚は動けない。


「ハイ、次は君があの根っこを刈り取るんだよ」


「う、うん」

                      

 虚にパタパタと駆け寄ようとするが、


「あのっ……これ、刈れる気がしないんだけどっ……」


 それもそうだ。パルメザンでも一度手こずったのだ、エメンタールが敵うはずがない。

 しかし、彼女は不敵な笑みを浮かべながら彼女の腕を指差した。


「アー、ヘーキだよ。HAHA、さっきキミの分もやっといたから」

「え……?」


 エメンタールの腕は、先程のパルメザンと同じ、淡い緑色の光を纏っていた。一時的な身体能力上昇、ドーピングと似たようなものだ。持続する間に根を全て刈り、虚を攻撃不能にする。その直後にゴルゴンゾーラの爆弾で倒す、これがパルメザンの作戦だ。刃物で切り刻むより、爆発で木っ端微塵にした方が手っ取り早い。


「……!」エメンタールはもがく虚に向かって走りながら、「あ……ありがとう!」



「アハハハ、頑張れよォー……!」エメンタールにかけた魔法を維持しながら、パルメザンは口角を上げ呟く。「どうするかなァ~? 実験体モルモット



 本来、パルメザンほどの強さの持ち主であれば、こんな回りくどいことをせずとも即座に虚を攻撃不能にできる。爆発はやはりサポートが必要だが。


 パルメザンは戦闘狂だ。指揮を取ったり、他の誰かのためにサポートするのは性に合わない。自分勝手に敵を攻撃するのが好きなのだ。

にも関わらず弱いエメンタールを動かしたのは、「好奇心」がゆえ。

彼女は狂っているが、馬鹿ではない。……ちょっとした推理をしたのだ。


 五味うずらが世話をしている、そしてエメンタールは“実験体”。ならば、エメンタールが自分より強いわけがない。本来ギアーズに適さない彼女が、何らかの事情でここにいる……と推測するのが妥当。


 知りたい。


 パルメザンの、単純な知識欲だ。敵を前にして、エメンタールはどう動く? 知りたいだけだ。戦闘だって、自分が攻撃したら敵はどう動くのか……この目で確認する。ちょっとした動機が、彼女の魔力指数を恐ろしいほどに上げた。十代とは思えないほどの経験の多さ……それが紛れもない彼女の「個性」を構築するのだ。

 ゆえに脳は常にフル回転、彼女が糖分を好む理由の一つ。


 ――――さあ、教えろ。このボクに……!

                

 エメンタールが横たわる敵の前で大地を踏みしめる。よりいっそう強く、鎌の柄を握った。


 鎌を上に振り上げ、大きな弧を描きながら、



「ふっ……ぁぁぁあああああ!」



 降ろした。



 びき、バリ、ばりばりばり! と轟きながら、大樹の根が全て刈り取られた。ただの葉のついた丸太になる。「やった……!」


 根は枯れ、灰のように粉々になり消滅した。枝葉がわさわさと揺れるが、こちらへのダメージは皆無。


「おお! ナイスバウムクーヘン!」


 ――――……戦い方は、同じ。違うのは中身か? そういえば虚が来る前に何か……。


「で、できたよ!」エメンタールがパルメザンの方へ戻ってきた。「あとは爆弾……」


「――あァ、そうだった。考えてる暇じゃねェな、AHAHA。」


 振り返り、後方の塔にいるゴルゴンゾーラへ視線を向ける。


「爆破ピエロ、キミの番だよ、……





…………誰だァ?」


【ギアーズの所有する武器などについて】


「変身条件」


ギアーズはコアという宝石のような丸い物体を所持している。それがアクセサリーなどの飾りとして、常に装備されている状態になる。例)エメンタールは腕輪、ゴーダはヘッドドレス。

コアに意識を集中することで変身ができ、戦闘衣装に着替える。


その際、ギアーズに装着されていたコアは武器へ移動する。柄の付け根だったり、刃に埋め込まれていたり(ゴルゴンゾーラは例外)、仕組みは不明。


実はパルメザンが武器を自在に動かせるのは、これが原因。


コアは、「自身の心をうつす鏡のようなもの」。意識を集中させさえすれば、対象を自分の意思で操作できる(もちろん限度あり)。


でもこれ、すごくむずかしい。神経使うし、集中力の持続も大変。

だからみんなやりたがらないしやらない。やりたければ御伽を使えばいいのだから。

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