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大体堕胎な怠惰4

「リラックスねえ……。キミもアドバイスくらいはできるんだね、見直したよ!」

「ぱるめェ…………ン、#@*&&$%!」


 パルメザンの言う通り、ゴルゴンゾーラのおかげでエメンタールの緊張は解けた。……緊張していた原因は紛れもなくこの二人なのだが、エメンタールにとってはそれはもうどうでもいいことだった。


 ゴルゴンゾーラはまた座りだし、ごろんと寝転んだ。芝生の上をごろごろと転び、クスクスと笑う。ピエロの衣装が土で汚れる心配すらしていない。

 パルメザンはというと、自身の履いている厚底の編み上げブーツの紐をしゃがんで結びなおしている。目線を合わせないまま、エメンタールに言葉を投げかけた。


「……キミさァ、あの眼帯女に何かと目をかけられてない? ボクの気のせいかな?」


 気のせいではない。彼女の感覚は正しい。

 エメンタール……雪平ゆきひらコトカは、特殊な条件でギアーズに加入している。

 ギアーズとは本来、個性――濃い人生経験の持っている人間がなるもの。それを数値化したのが魔力指数だ。


 魔法を使うには御伽オトギ――ギアーズや五味らのみが所持するもの――と、その魔法の質に見合った魔力指数を消費する必要がある。消費しても、しばらくすれば回復する上に、場合によっては魔力指数の最大値を上げることが可能だ。しかし、値がゼロ、またはそれを下回れば自己の破滅。いわゆる“死”だろう。


 指数が高ければ高いほど、質の高い、数の多い魔法を使用できる。飛びぬけて高い人間――思春期の少女に多い――が、ギアーズになる。ただ、機密部隊であるためその数は少ない。現在のギアーズ五期生は八名だが、実は過去最多なのだ。


「あっ……えっとね、私はギアーズに入った理由がみんなと違くて……実験体なんだ」


 雪平コトカは、魔力指数が極めて低い。一般人ですら1000を超えるのが大体にもかかわらず、彼女は119。ほぼゼロといっていい。


 ゆえに、彼女は魔法を使うことができない。


 それでもギアーズに存在するのは、国家管理局の実験体になるためだ。

 空っぽの象徴であるバケモノのウロに対しては、満たされた者――個性のことだ――の象徴であるギアーズがその退治に適任なのだ。

 ただ、それを立証するにはその逆の事例が必要になってくる。「空っぽに空っぽを選んだ場合はどうなるのか」。

 例えるなら磁石だ、同じ極同士は反発し合う。「同じ」だから駄目、という証拠はどこにもない。


 そこで抜擢されたのが雪平コトカ。極めてまれな魔力指数を持つ、場合によれば逸材だ。

 だから彼女は国家管理局にとって大事な存在、失ってはいけないのだ。ギアーズ任期の一年間、彼女が虚に対してどう作用していくのか、見届ける必要がある。国家管理局・総務課に所属する五味うずらが彼女を気にかける大きな理由だ。


「へえ、どういうこと? 詳しく教えてよ、ボクらとどう違うのさ?」

「えっと……実は私ね、記憶がなくて、」



 ――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――


「……中断だね」

「うん……」

「おぉぉオオオォォおおおOOOO! Salutサリュ!」



 緑色の夜が来た。――黄泉ヨミだ、黄泉の時間だ。


 黒い月、黒い星。コンクリートだった大地がみるみるうちに荒れ野に変わる。その中央に…………大木。

 直径は五メートル以上あるに違いない、樹木の幹が高さを増しながら分かれた枝葉に黒い葉脈が走る。


 風が轟轟と鳴る中、三人は戦闘態勢に入り、自身の武器を握った。


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