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大体堕胎な怠惰2

〈育児日記11〉

 夏休みが始まった。七月下旬から、九月中旬まで。日本の夏はどうしたって暑い。国家管理局も暑さを改善する機械を作ろうとしているけど、どうもうまくいっていないらしい。成功すればいいのだけど。

 それはさておき、例の「オツちゃん」と遊びに行くらしい。オツちゃんのお母さんがプールに連れて行ってくれるのだ。私も仕事がなければ行きたかったな……。


     ・     ・     ・


 八月上旬。生い茂る葉たちが太陽の光を反射し、輝く夏。街に無理やり植えられ、無理やり成長させられた木々は所狭しとビルに挟まれながら並んでいる。太陽光パネルは存分に日光を食べる様子で、建物の屋上にたたずんでいた。


 対して、国家管理局監視塔・南区。ここの屋上には、活き活きと育つ樹木がなければ、日光を集めるパネルもない。芝生とそこに咲く花があるだけだ。


 雪平ゆきひらコトカの頬には一筋の汗が伝った。暑さもあるが、どちらかというと冷や汗に近い。


 ――――……な、なんでこんなことに……。



 コトカにとって、これは避けたい状況だった。というのも――。



「ねえピエロ、ボクは武器を自在に変形できるんだぜ。キミは?」

「ン? N? ん? ――――…………ンン???」


 ――――癖が強いんだよなあ……!


 同じ当番のパルメザンとゴルゴンゾーラが、コトカの少し後ろで会話を繰り広げていた。……噛み合っているとは思えないが。


 ギアーズメンバーの中でもコトカにとって特に苦手な二人だ。ゴルゴンゾーラは、言わずもがな。言い方は悪いが得体が知れない。彼女がやってきてから約ひと月経つが、未だにそのキャラには慣れない。当番がかぶったのも、今回が初めてだ。

 パルメザンは一体何を考えているのか見当もつかない。スパイを発見したと局長から告げられた際に、彼女だけが普通とは違う反応をしていたのである。狂人? それとも、ただ明るい性格なだけ? コトカにはそれがわからない。


 結論はどちらも「知らない」。この二人に関してよく知らないということ。人は自分の知らないもの、踏み入れたことのないものに対して、壁を作ってしまう生き物だ。それは一種の防衛なのか、恐怖なのか。とはいえ、どちらも遭遇したくない事実であるのには変わりない。

 何かに対して知識を付けることは、実は相当の勇気と好奇心が必要なのだ。いかなる分野であれ、知識を身につけている者を軽視する行為は非常に愚かである。

「知らない」に比べたら、「知っている」方が絶対にいいに決まっている。そう思いつつも、コトカには勇気が足りていないのだ、いかんせん。



 ――――……乙ちゃんなら、一体どうするだろう……。


 局津つぼねづおつ。彼女と友達になってまだ半年も経っていないにも関わらず、コトカにとっては親友のように感じるのだ。まるで、幼い頃からずっと一緒にいたような……。この気持ちの名前を、コトカは知らない。彼女なら、この状況をどうするのだろう。


「キミさ、魔力指数いくつ? ロックフォールがこないだ騒いでたんだけど……おしえ、」


「ふぉわ! エムェンタァール!」


「え!?」


 ぼんやりとパルメザンの話を座って聞いていたゴルゴンゾーラがおもむろに立ち上がり、ずかずかとコトカの方へ向かってくる。


 ――――な、な、何かした……? 助けて……!


 ぎゅむ。


 ゴルゴンゾーラは背伸びをして、コトカの両頬を両手で挟んだり、引っ張ったり。それを繰り返した。


「へ……?」


 いきなりで何が何やらわからずにいるコトカに構わず、十分に弄んだあと、ゴルゴンゾーラは歯を見せて笑う。


「リラぁぁ~~っクス」


「りらっ……くす……」


 ――――もしかして不安なのがバレてた……?

     

 コトカは頬に少し痛みを感じたが、それ以上にあたたかくやわらかな感情が心に宿ったような気がした。

 友達になれそうだ、と少しの期待を秘めていたのだ。

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