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歯車と卵3

 地下はまるで別世界のようだった。はるか昔にタイムトリップしたような不思議な空間に、コトカは思わず息を呑んだ。


 壁はゆるやかなカーブを描き、部屋を円形にしていた。天井は高く、壁一面に本棚がずらりと並んでいる。まるで大きな円筒のようだ。本棚には古びた分厚い本が窮屈そうに詰まっている。

 床はモノクロの大きな市松模様で、標本や化石などの展示台が置かれている。もう一度天井に目を向けると、恐竜の骨たちがワイヤーで吊るされその体をつくっていた。その名の通り、博物館ミュージアムだ。


 雪平コトカが少女と共に階段を降り、木製の茶色い大きな扉を開けると、七人の少年少女がいた。


「全員揃いましたね」


 どうやらコトカが最後だったらしい。少女は隅にあった木箱を床の真ん中まで引きずり、その上に立った。


「ようこそ国家管理局東日本本部へ! 機密部隊『ギアーズ』五期生のみなさま! あなた方は今日から社会を動かす最重要的存在――歯車となるのです!」


 少女は続ける。


「私は国家管理局東日本本部・総務課の五味いつみうずらと申します! 今日からあなた方ギアーズの教育係として頑張りますので、どうぞよろしく! なんと今年は、昨年の約二倍、九名の方が選ばれました! 快挙です! ……それと、国家管理局局長・カンラクからもご挨拶を申し上げたかったのですが、生憎都合が合わず、また後日とさせていただきます」


 五味の挨拶に拍手をする者、笑顔でうなずく者、退屈そうに眺める者。様々だったが、彼女はお構いなしに話す。


「ではまず、あなた方が機密部隊としてこれから頑張る上で、この国家管理局、及び日本国の秘密をお教えしますね。



みなさんはおそらく、幼少期の頃、絵本やRPGで魔法という概念をご存知でしょう。誰もその存在を確認できていないのに、誰もがそれを受容している……。なんとも不思議な世界です。


けれど、実現なんてありえない。『魔法があれば』なんて考えるだけで、現実にしようとは誰も思いません。


ええ、それが“普通”なのです。


しかし、たった一人の日本人が、空想を実在にしてしまいました。






 ……現在、我々の国日本は、国家管理局の生み出した魔法によって動いています」


 博物館ミュージアムにいる五味以外の誰もが動揺した。

 長い前置きがあったにもかかわらず、その事実をすぐには受け入れられなかった。時が止まったかのように場は静まった。

 しかし五味本人は眉を下げて小さく笑い、話を噛み砕いて説明した。



「まあ、無理もないですね、すみません。


……例えば、交通課が製作した飛行型管理システム・通称FASは、電波によってガードポールやセーフティーネットと連携していると世間では思われていますが、あれはFASから発せられた魔法がそれらにかかり、機能しているのです。


電波よりもずっとお手軽で便利なんです。接続や通信の障害もなければ、機械を弄って連携システムを設定する必要もありません。『ちちんぷいぷい』と唱えるだけのようにね」


 魔法。

 たしかにコトカ自身、FASやガードポールはまるで魔法のような装置だと思っていた。ただそれは単なる比喩で、実際に起こりうることだとは微塵も思っていなかったのである。


「どうして我々が魔法に頼っているかというと、あの事件が発端となっています――交響曲シンフォニーです」


 交響曲シンフォニー

 約三十年前に起こった、今世紀最悪の凄惨な事件。それは社会の教科書で見開き一ページまるごと扱われているため、コトカも知っている。

 とある団体が、発電所や燃料タンク、コンピューター施設などを破壊し、東日本を死の境地に立たせたのだという。コンピューターに依存していた時代だったからこその出来事だった。



「あの災厄によって一時期、あれほど人々に信頼され続けていたコンピューターの存在が恐怖の対象となりました。もちろん現在もコンピューターは欠かせませんが、いつ同じようなことが起こるかわからない。


だから機械ではなく、我々にはもっと別の、絶対的な“平和”を実現させるものが必要なんです。科学や理屈じゃ成しえない、ほぼ概念と言えるような何かが。――その気持ちを具現化したものが、国家管理局の生み出した魔法なんです」


「……ただ、魔法を生み出したものの、その扱いは本当に難しい。FASだって、まだ不完全なんです。まるで雲を掴むかのように。当たり前です。空想は実在しないからこそ空想であり続ける。


だけど私たちにとって必要不可欠。今ある幸せは、魔法という名の雲の上に立っている! ええ、不安定すぎます。……だからこそ、国民には言えない、大事な大事な秘密。そして、それを扱える者、完全なる平和・幸福を成し遂げられるのが、ギアーズ。あなた方です」


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