ダイタイダタイナタイダ7
引き金は引かれた。……間違いなく。
しかし放たれた銃弾は刹那に空中で粉砕され、ぱらぱらと地に落ちた。
「……FAS…………!」
安名が恨めしく空を見上げる。傾きかけた太陽と、楕円型の機械が浮いていた。小さなライトが赤く点滅し、ピコピコと機械音を発している。危険察知機能だ。
「残念ねェ? 裏切者。あなた達の科学じゃ成しえなかったことよ? あはは!」
「テメェ……!」
――――ならば……こちらだって攻撃は出来ないだろうな、もちろん。
ゴルゴンゾーラのクラブ……のような爆弾、ゴーダの鉤爪も立派な刃物。動けばFASに制御される。自分の戦車なんてもってのほか。戦争はしていないのだ、日本は。……本当に、「日本」は。
ギアーズの武器は対虚のためのものだ。FASがいなければ、人を傷つけることは可能なのか?
――――可能、だろうな。
というのも、ギアーズは虚だけでなく、組織に危害を加えるものすべて滅するのがルール。魔力と平和の行使を阻むものは削除、その対象が人間ではないと誰が言った?
だが、あくまで憶測だ。それに、どうせ近いうちにわかるだろう。研究所との戦争状態のさなかならば。
「……諦めろ、安名。交戦は出来ない。そこをどいてくれ。」
「うるせぇ……科学をなめるな、我々葦原研究所は……」「はぁーいマリヤ、ストップストップ」
「確かに君らの言うとおりだ。科学じゃFASは造れない。でもね、魔法はとても不安定、危険なんだよ。それを証明してるのは、まぎれもなくギアーズだ。だからコソコソと機密部隊が動いてる。……皮肉だね。自分たちの存在こそが、自分たちの不完全さを具現化してるなんて。そんなことさせないよ、科学は。
……じゃあ、今日はサヨナラだね。行こう、マリヤ」
――――……なるほどな。
相手の思想を垣間見ることが出来た。完全、絶対、普遍的を求める……いかにも科学者らしい考えだ。ロックフォールはFASを見上げた。こいつには感謝しないと。
「イツミに報告しないとねえ? ほんと、困るわぁ」「もちろんだ。……って、ゴーダ、ゴルゴンゾーラは?」「ああ、帰ったわよ、終わったらすぐに」
彼女らは……ギアーズは、まだ理解していない。
この闘い、今までの闘い、これからの闘い……すべて。
歯車が廻りだす。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると。
豆知識
ギアーズの労働体制、もう一つの理由
塔が四つあるのにも関わらず、そのうち二つで見張りをするのはなぜか。
虚は魔力の集まるところへやって来る。からっぽは満たされたいのだ、それはどこぞの少女と同じ。それゆえに、国家管理局を目指して襲来するのだ。
ギアーズ発足から今年で五年目。まだまだ浅いが、一応統計的にどの方角から虚がやって来るのか予測できる。それを参考に見張り場所を決定する。もちろん間違えるときも、来ないときもある。
ただぶっちゃけ、無人の塔に襲来されても確認は一応できるのだ。コアを持っていれば黄泉に入り込むことが出来る。
黄泉は虚のつくる結界、と認識してもらって構わない。ただ、細かく言えばちょっと違う。
現実の世界線と虚の世界線は元々平行状態のはずなのだが、それが交わってしまうと黄泉の時間がやってくる、という仕組み。ギアーズは警報がなればわざわざ入り込む間もなく黄泉に迎え入れられてしまう。