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ダイタイダタイナタイダ3

「本当によかった、ペレストロイカと茉莉也まりやが君たちを見つけてくれて。あれからお母さんには会った?」


 双子は揃えてふるふると頭を横に振った。


「そう。……真打、彼女らの身元を調べてくれ。……――ようこそ、僕らのホームへ。



……君らは新しい家族だ」


 おいで、とЯは二人を黒い扉の中へ招き入れた。



「さあ、家族になる準備だよ」


 ぼさぼさと好き勝手に伸びた二人の髪をうなじあたりまで短く切り、癖をつけた。そして細く三つ編みにした触角のような髪束をつくり、それを二本垂らした。

 少し大きな白衣は袖が長く、手のひらまで隠してしまう。それでもЯは「よく似合ってるね」と褒めた。


「……よし、できた。


 最後に、名前だ。

 君らは新しい家族。古い名前なんていらない。君たちは阿藤あどうレナ・阿藤リンなんて名前は捨てて、新しい名前が必要だ。そうだなあ……」


 ――「ブーバ」と、「キキ」だ。


「レナがブーバで、」「リンがキキ?」

 お互いがお互いを指差し、顔を合わせた。


「そうそう。いいだろう? ここに来たみんなはまず僕が名前を付けるんだ。


さて、とっくに真打が調べてくれただろう! ブーバキキ、お仕事だ!」


「しごと?」「……?」


「ああ……そうか、説明を忘れていたね。


ホームのみんなは仕事をするんだ。本当は君らが大きくなってからじゃないとだめなんだけど……僕がいるからノーカウントってことで。


家族を守るための、大事な大事なお仕事なんだ。……行こう」


 大きな車に乗る。また捨てられるのではないかと不安になったがそんな気配は全くなかった。それと同時に、眠気も皆無だった。


 着いた場所は……家?


「おうちだ……」「わたしたちの……」


 大きなマンションは双子らの住まいだったところ。帰してくれた……?


「ん? 違う違う、ここはもう君らのうちじゃない。言っただろう? 仕事だ。


……行くよ」


 Яは大きなトランクを持ち、マンションの一室に近づく。……双子の母がいる部屋へ。


「君らが母親だと思ってた人は、とんだ悪者だ。君らのような子供を無責任に捨てたんだから。……さて、扉越しに会話を聞いてみようじゃないか」


 トランクからイヤホンを三つ取り出した。そして、吸盤のようになっている球形の小さな機械を扉に付けた。ワイヤレスの聴診機器だ。


「今にわかるよ、君らの『家族』がどれほど屑だったかを……」


 双子は耳へと聞こえてくる音声に集中した。高鳴る拍動が不愉快だった。


『…………やっと捨てられた。はぁーーあ! 子育てなんてするもんじゃなかったわね、ほんと』

『警察に見つかったらどうするんだ? お前』

『へーきよへーき。あの子らが死んだら満足よ。……ったく、双子なんか生まれやがって。管理局もうるさいことうるさいこと――』


 Яが聴診機器を外した。


「……」「……」


「……可哀想に。


僕の家族を傷つけた罰だ。――行くよ」


 ポケットから鍵を取り出し、穴に差し込む。

 カチャリと小さな金属音のあと、ドアノブが引かれた。


 「おっと、」Яがトランクから二本のナイフを手に取り、双子に渡す。「これ、君たちも持ってなきゃね」


 …………間違いない。復讐だ。


 双子は至って普通の子供だったのだ。手のかからない、育てやすい子。

 しかし問題は親にあった。一度に二人も育てられなかった、自堕落で不毛な社会の屑。


 見慣れた家には、双子の跡がきれいに消えていた。衣類も、食器も、なかったことになっている。


 ――――ああそうだ。 ――――こんなの家族じゃない。


 双子の胸に黒い何かが募った。この家の者は、自分らが不安に襲われ死を覚悟していたときに、ヘラヘラと笑っていたのだろう。許せる? そんなわけがない!


 Яは空になったトランクを放り投げた。右手に大きな鉈を握っている。トランクを持つ理由がなくなったのだ。

 鉈の刃と、双子の眼がぎらぎらと共鳴する。部屋中が復讐心に包まれる。


 死ね、と、心の底から思った。



 ――…………そこから先はよく覚えていない。


 あれから今現在、双子は十三歳になった。

 彼女ら“だけ”の初仕事、目的地は国家管理局。


 武器の扱いはペレストロイカに教わった。勉強は真打、情報はギグル。大事な大事な、家族だ。


 白衣に身を包んだ小さな双子。三つ編みを揺らして歩く。

 外跳ねカールが姉のブーバ、内巻きカールが妹のキキ。


「たのしみだね、ブーバ。」「たのしみだね、キキ、」


 復讐心から始まった、狂気の双子。

 小さな足音が、重く響く。


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