ダイタイダタイナタイダ2
双子が児童養護施設に来たのは六年前、七月の初旬だった。
「……よく来たね。僕はЯ(ヤー)だ、よろしく」
生い茂った背の高い木々がさわさわと揺れる。オレンジ色の木漏れ日がゆらめき、幻想的な森のよう。
双子はまだ幼い。背中にはランドセル、両手には大きな鞄を持っていた。
彼女らがここへ来た理由。疑うまでもない、施設に入るのだ。
双子は文字通り、“捨てられた”。
『ねえ二人とも。出かけましょう』
『うん』『どこに?』
『それは秘密。ほら、これ持って』
『荷物たくさんだね』『ランドセル? 今日は学校お休みだよ?』
『いいのいいの。車に乗るわよ』
『うん!』『行こう!』
エンジンがかかった。
それは休む暇もなく働き、どんどん進む。進むたびに双子はうつらうつらと、最終的には瞼を閉じ到着を待った。それを確認した母親は、より強くアクセルを踏んだ。
――……そして。
『レナ、起きて、起きて』『ん……、リン? ママは?』
深い深い森の中。土色の傾斜があった。――山だ。
やま、……?
『起きたら、ママがいないの』『車は?』
『ない、ないよ』『……探そう』
……どこにもいなかった。
お腹が空き、傾く陽で焦り、探した。探した。探した。
『う、そ……』『ねえ、ほんとに? ほんとにいなかったの? リン』
『いなかったよ! ほんとにほんとに、いなかった……』『おかしいじゃん! ねえ……』
視界が滲む。金色の西日が目に刺さる。深い森に幼い少女が二人。皮肉なことに、彼女らの髪色は西日とそっくりだった。まるで全てが今日のためであったかのように。
このまま死ぬ? お菓子を持ってくればよかった。暗くなったらどうしよう。山は何が出る?
どうして、ママがいないの、?
何もかもがキャパオーバーだ。この事実は彼女らにとってあまりにも残酷すぎた。
呼吸が不規則になり、瞳から涙が溢れ出す。双子は死を悟った、悟るしかなかった。
『――あった! マリヤ、おいで! Яが探してた樹脂ってこれでしょ!』
『お……? おお……! これじゃね!? 写真通りだ!』
『まぁーったく、Яったら買えばいいのにとれたてがいいだなんて。まあ引き受けたのは僕たちだけど、さぁ、……ん?』
『どうしたトロイカ……あ?』
双子と“ホーム”の出会いだった。