ダイタイダタイナタイダ
『ゾーラ・ザ・クラウン』
さあ! 衣装を着ろ!
君がいればどんな場所もサーカスになるのだ!
舞台上の独裁者、アントワネットよりも傲慢に、貪欲に、道化!
涙の雫がふた粒あれば、
綺麗なハートのマークができる
そうだろう、笑え
君を引き立てるのは破壊と破戒
君を縛ろうとする縄すらも
上手に渡り歩いてしまえばいい
ほら、拍手が、
きこえる
・ ・ ・
ほどよさを極めた暑さだ。
長い間日本に住んでいるものにとっては、この心地よさはごく普通のことになりつつあるのだろう。しかし、日本に戻るまで国外の戦場にいたロックフォールにとっては違和感そのものだった。戦場にFASはない。
国家管理局が出来てから、日本人が海外へ足を踏み入れる機会は露骨に減った。禁止しているわけじゃない、それだけ今の日本が住みやすく、居心地がいいのだ。
世界へ羽ばたき活動している人物がいるのかは、ロックフォールは知らない。少なくとも……いや、どう考えても、熱と煙と鉄の香りにまみれた戦地よりずっといい。海外の都市部ではどうなのだろうか、日本のように暮らしやすい世界なのだろうか。それすらも無知な自分に腹が立つ。――今まで戦争しかしてこなかったという事実を自ら浮き彫りにする行為だ。
ふるふると頭を横に振った。さっきまでの思考を振り落とすかのように髪を小さく乱し、深呼吸をした。
「どうしたの? 緊張でもしているの? 何を今更」
隣に立つゴーダがロックフォールの様子を見てクスリと笑う。「なんてね、冗談よ」
ここは国家管理局監視塔・西区の屋上。虚の襲来を見張る最中だ。
黒い日傘をさし涼しげな表情でいるゴーダ、迫るであろう闘いに集中しようとするロックフォール、そして……
芝生に咲く赤と黄色の花を楽しげに観察する、ゴルゴンゾーラ。
「ゴーダ。当番の人数は二人だったはずだ、変更はされていない。なのになぜここは三人なんだ?」
「さあ? イツミが勝手に割り振っただけよ、東はいつも通り二人だし。だけど……、あなた、あの子と二人っきりって自信ある?」
“あの子”、とゴーダの視線はゴルゴンゾーラへと向いた。当の本人は、猫のような声を出しながら芝生にごろりと寝転んでいる。
「……それは……」
「私は無理ね。抱えきれっこないわ。まああなたは私と違ってしっかりしてそうだし、何かあったら任せるわね」
「ちょっ……何の話だ」
「これも冗談。ハァ、あなたっていつも考えすぎね。何も考えずに行動ばかりする人を脳筋って言うらしいけど、あなたは考えてばかり。少しはラフに生きましょうよ」
「ラフ……君みたいにか?」
「…………それ、冗談で言ってる?」
ああ、いや、悪い意味では……、とロックフォールは慌てて弁解を始める。対してゴーダはそんな彼女を見て小さく吹き出した後笑った。
ゴルゴンゾーラが加わってから、ギアーズの任務が変更された。
四つのうち二つの塔で、二人ずつ見張り番をするというのに変わりはない。しかし、もう一つ任務が追加されたのだ。――国家管理局内での見張りだ。
一階のエレベーターホールと地下の博物館のみだが、これは葦原研究所対策だ。今日はパルメザンが担当している。
――――結局、バケモノだけでなく人間とも戦わなければならないんだな。
ため息をついた。
……ああ、違う違う。もっとラフにしなくては。さっき言われたばかりじゃないか。――と思ったものの、脳内でも視界でもゴーダの顔がちらつく。道のりは遠そうだ。
――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――
「来たわね」
「……ああ」
「N、? アァー……TSUいに、か!」
豆知識
国家管理局監視塔は東西南北四つに分かれている。そのうちの二つ、見張りをするのがギアーズの役目。
東なら西、北なら南、と反対の区域をそれぞれ二人ずつが担当することになるのだが、全ての塔に見張りを置かないのは訳がある。
まず、労働力を適切に保つため。
全ての塔に二人ずつでは、毎日ほぼフルメンバーが働かなくてはいけない。ギアーズは一種の「職業」として認識されている。機密部隊とはいえ、過労は禁物。命がけで戦う彼女らには適度な休息が必要だという、国家管理局らしい、日本らしい発想がゆえ。休みでも緊急で応援に行かなければいけないときがあるが、稀なのでメンバーに支障は出ない。
別の理由は、またあとで。