畢竟予兆8
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わたしたちは、にほんのためにぜんしんぜんれいでまほうをつかいます
わたしたちは、かならずこのひみつをまもりぬきます
わたしたちは、いかなるばあいでもウロのしゅうらいにめをひからせ、そのそんざいをしょうめつさせます
――……わたしたちは、わたしたちのそんざいをけそうとするものにたいしては、ようしゃしません
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――――……そういうことか。
チェダーは四月に音読させられたギアーズの掟を思い出し、カンラクを見詰める。
きっと、過去のギアーズでも幾度となく争いがあったのだろう。ならば今年も、例外ではない。背筋が冷えたような気がした。
「それと……【マスカルポーネ】。彼がその、ラボのスパイだったのよ。だから今日、彼はここにはいない」
空気が息を飲んだ。
まさか、自分らが顔も名前も知らない、最初の最初から、……敵がすぐそこに、いたなんて。裏切者がいたなんて。
彼と友好な関係を築いていなくてよかった、チェダーは自身の欠けた協調性にほんの少しだが感謝した。
「うそ……うそだよね?」
「――!」
――――……コトカ……。
隣にいた唯一の友人が、眉を下げ困惑の表情を見せていた。そうだ、この子はあたしとは違う。もっと優しい、悲しいほどに純粋だ。文字通り、「不純物がない」。
「エメンタール? 現実を見ないのはよくねえよ? 嘘じゃねえんだって! ボクはアイツの正体をちゃんとこの目で見たからねえ」
「そうです! パルメザンさんのご報告のおかげです! まあ、わかってましたけどね! あはは!」
――――お前ら……!
嗤う二人の少女を睨んだ。やめろ、やめろ。コトカはお前らとは違うんだ。
「……エメンタール、仕方ないよ。私たちは私たちのやるべきことをやるしかない」
「チェダーちゃんは知ってたの?」
「いや、……全く」
積乱雲がのしかかるような重い空気に、雷のように五味うずらの声が博物館じゅうに響く。
「でもでもでも! なんと! 私たちもスパイを奴らに送ってたんですよ! びっくりでしょう?」
――――……?
「ご紹介します! 【ゴルゴンゾーラ】さんです!」