畢竟予兆7
博物館には、予定通り全員が集まった。
チェダーの立つ隣には、カマンベールと話すエメンタールの姿。パルメザンも椅子から立ち、他メンバーと同じように、五味うずらを囲むようにしている。さすがに、ある程度の常識は持ち合わせているらしい、狂気じみた彼女にも。
「さて……と、」五味うずらが、全員に目を向けた後、くるりと振り返った。「今日は私ではなく、我らが局長、カンラクからお話しさせていただきます!」
「こんにちは、みなさん」
テレポートしてきたかのように、五味うずらの後ろに一人の女が現れた。
「私が、局長のカンラクです」腰まで届く長い髪を揺らし、微笑んだ。肌も髪も、色素は薄い。黒いスーツとのコントラストが際立つ。
それと、風格。何人たりとも逆らえないような、全てを見据えてるかのような瞳が長い睫毛越しに仄かな光で揺れている。その姿は、まるで「女王」。
ああ、そうか。この人は魅力と権力の両方を兼ね備えているんだな、とチェダーは直感的に悟った。
「……もう五月下旬ね。来月は、あなたたちが来てから二か月が経ちます。少しずつなれてきたでしょう? とても感謝しているわ。………でも……少し問題が起きたの」
――――……?
若干、この場がざわついた。パルメザンはニヤリと笑い、隣のエメンタールは不安げな顔をしている。
「あなたたちの敵は、虚だけじゃない。
……葦原研究所――“ラボ”も、対立した組織なの」
ざわめきが大きくなった。当たり前だ、ラボは国で一番大きな研究所なのだから。
カンラクは続ける。
「ラボが私たちを目の敵にするのも無理ないわ。……科学に魔力は必要ないもの。そろそろ動き始めるかもしれない。それと……、ラボは、私が元々所属していた場所。私を取り返しにくるかもしれない。……でも安心して、私があそこへ戻る理由はないわ。
科学じゃ実現できない幸せ。……それを叶えるために、魔法ができたんだもの」
――だから彼らがやってきたら、容赦なくあなたたちの「正義」を振りかざして頂戴――
――それが、ギアーズの掟だもの――