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フラスコに詰まった凶器5

 葦原研究所・所長室。

 コポコポと液体の跳ねる音がする。バーナーで熱されたフラスコの中で、コーヒーが沸騰しているのだ。

 他にも、大きな漆黒のテーブルには、書類や試験管の群れが窮屈そうに置かれており、本棚には大小様々な本が詰まっている。普通の、科学者の部屋だ。


 ただ、異様な空気を放つのはそこにいる人間だった。

 白衣の上にくるぶしまで丈のある黒いインバネスコートを羽織った、ペストマスクを付けた男。……所長のЯ(ヤー)だ。部屋の奥で研究書類データを眺めている。その表情は、隠れていて把握できない。


「Я」更田真打は木製の扉を開け、入って来るやいなやЯに話しかけた。「……Я」


「ん……? おお! 真打! 一体いつからそこに? もう来たのか。さすがギグル、私の愛娘。相変わらず仕事が早い」


 マスクをしているのにもかかわらずよく通るその声は部屋中に響いた。真打の淡々とした声とは少々ミスマッチだ。


「話を聞きに来た。茉莉也と双子らのことだろ?」


「まあまあ、焦らないでよ。そういえば真打はタヌキアレルギーだったよねえ? ちょっとこの薬試してみてよ」


「……」


「……」


「……」


「……。


……はあ、わかったよ、手短にするよ。


――今回の茉莉也の件で、僕らの計画は今よりずっと前に進むだろう。偶然という名の、神様からのご褒美だよ。


改めて確認だ。いいかい、最終目標は『ギアーズを潰すこと』。そして、カンラクを取り戻す。そのためならなんだってする。……ただ、今までは偵察程度のことしか不可能だった。でも今回は、茉莉也のおかげでもっと踏み込める。――頼むよ。真打も、トロイカも、みんなね」


「……あなたのためなら」


「…………じゃあ、今後の作戦を話すよ――――」


 葦原研究所の所長、Я。彼は所のおさ、またはギグルという名の血縁の娘を持つ父親であると同時に、児童養護施設を一人で運営している。通称、“ホーム”。

だが、研究所の隣に立地しているにもかかわらず、その存在は世に広まってはいない。Я自身がそうさせている。

世間、家族から外れた命を彼一人で救い、包んでいるのだ。


 そこで育った子供たちが、暗殺者アサシンとして社会に溶け込むのである。

 自らを受け入れてくれたЯのために、研究所にとって害悪なものを、……潰す。

 科学を語る彼らにとって、魔法を使うギアーズは言うまでもなく、悪。


 それが、白衣の集団である。更田真打も、ペレストロイカも、安名茉莉也も。


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