フラスコに詰まった凶器4
「えっ」愛用のナイフを満足気に眺めていたペレストロイカは、真打の言葉に仰天した。
「シンウチ、鉄砲使うの? やめなよ! めちゃくちゃ下手くそじゃん! いくらマリヤが気に入らないからって、同じ武器で対抗する必要なくない? 何のプライド?」
「うるせ、茉莉也は関係ねえよ。……今回は必要なんだ」
ふぅん、とだけ返し、ペレストロイカは彼を不思議そうに眺めた。
更田真打は、主に爆弾を武器として使う。稀に火炎放射器なんかも使ったりしているが、銃はもってのほかなのだ。照準が合わなければ、タイミングも遅かったり早かったり。
対してペレストロイカは、ナイフを使うのが得意だ。そして彼自身も、ナイフを武器として扱うことを愛している。
……ギィ、と鋼の扉が開いた。
そこには小柄な少女。
白衣の上に深い緑色のインバネスコートを着た、葡萄色の髪をした少女。その髪は頭の高い位置で二つに結わえてあり、飴玉のような髪どめを付けている。短い毛がぴょこぴょこと跳ねるようだ。
彼女もまた、彼らの仲間である。
「おー、やっぱりここにいた。お二人様」
「あれ? ギグルちゃん。どうしたの?」
ギグル、と呼ばれた少女は背の高いペレストロイカを見上げ、いたずらっぽく笑う。
「ざんねーん! トロイカちゃんには用はないでーす! 用があるのは真打でした!」
「あー、そっかー! 僕には用なしかあ! やってきても無視しとけばよかったなあ!」
二人はくすくすと笑った。
決して仲が悪いのではない、むしろ逆だ。二人は何かとウマが合うのだ。今のもちょっとしたジョークだ。
「……おいギグル、何の用だ。言ってみろ」
「えっとねえ! Яが呼んでたよ! たぶん茉莉也とブーバキキのことだと思うぜ」
ギグルは基本的に誰かと戦ったりはしない。連絡をしたり、武器調達をしたり、敵情報を調べたり。
一見雑用係のようだが、この係は機転を利かせて動くことが重要であるため、なかなか難しい仕事なのだ。
「ブーバとキキねえ。あの二人ね、僕が仕事をお願いしたとき、『みんなのために頑張ります、。!』だって! ときめいちゃうよねえ」
嬉々として語るペレストロイカ。彼の話を聞いてギグルはうんうんと頷く。
対して真打ははあ、とため息をついた。
「……おっさんがときめいても、気色悪いだけだろ」
「おっさぁあん!?」
ペレストロイカのよく通る声が、よりいっそう赤い部屋に響く。
「あのねえシンウチ、28はおっさんじゃないから。アラサーだから。わかる? この違い。シンウチもまだハタチだけどね、それでいい気になってちゃだめだからね? あっという間にアラサーはすぐそこなんだから!」
「うるせえなお前」
くどくどと説教をする彼を見て、ギグルも応戦した。
「もしかして真打、自分より年上の人はみんなおじさんおばさんだと思ってる? ワタシも? ワタシもそうなの? こっちも言わせてもらうけどねえ! ハタチなんてまだまだガキンチョだから! チチクセエわ!」
「いっこしか違わないだろ……お前ら二人いるとほんと面倒だ!」




