フラスコに詰まった凶器2
「ぉおー、ナイスウェルダン」
がちゃり、という屋上扉を開ける音の後に、別の青年の明るい声がする。彼は片手に黄色の花束を持っていた。
「すごいねこれ、全部シンウチがやったの?」
シンウチ、と呼ばれた男は先ほど持っていたボタンを捨て、正八角形をしたフレームの眼鏡をくい、と上げた。
「……Я(ヤー)の研究書類を盗んだんだ、これくらいじゃ足りねぇくらいだ」
「だねえ」質問者は笑う。「ベストアンサーに決定!」
「おかげで新作の爆弾は試せたけどな。ところで……」不敵な笑みを浮かべたとたん、真剣な面持ちと共に今度は彼が質問者となった。「ペレストロイカ。例の件、誰が行くんだ? 原か?」
回答者は笑ったままだ。
「ああそれなら、ブーバとキキになったよ」
「えッ」今度は驚きの表情を見せた。彼の表情筋は何かと忙しい。「……早すぎねえか。Яは一体どんな判断をしてんだ」
「そうかなあ? 君が初仕事で繊維工場に行ったときも、彼女たちと同じくらいだったじゃない。……ああ、でも君と違って殺害任務はないよ。ただの偵察」
「……あ?」怒った。「なんで俺の時と違うんだよ。不平等だろ。殺害任務も出せ」
「まあまあそう怒らないで。カンラクさんも言ってたでしょ? 伝統を束縛にしちゃいけないって。−−……あ、それよりこれ。ほら」
ペレストロイカはその手に持っていた花束を差し出す。シンウチはそれを受け取り、かつて研究所だった地獄の方へ投げた。
黄色い花弁はふわりと風を撫で、赤い炎の方へ舞った。
「……やっぱり、赤には黄色がよく映えるね」
更田真打とペレストロイカ。
彼らは葦原研究所専属の、暗殺者である。