フラスコに詰まった凶器
〈育児日記9〉
今日はせっかくのゴールデンウィークだから、コトカと出かけた。
初めての観覧車。どうやら高いところは平気らしい。
ちょっとしたテーマパークに行っただけだけど、楽しんでくれてよかった。
もちろん、私も楽しかった。また行けたらいいね。
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FASは、パトロールのように日本国土上空を回る必要がある。
というのも、FASは、その機能を発揮できる範囲が限られているのだ。
事故や事件を未然に防ぐことは出来るが、範囲内でなければ犯罪などいくらでも出来てしまう。ここがFAS唯一の欠点だ。
国家管理局は今もなお全国で稼動するFAS二号機の製作に全身全霊で取り組んでいるのだ。
とはいえ、国民はみな幸福。犯罪に手を染めることは、その幸福を自ら断つ行為。事件など滅多に起きない。葦原の件は極めてまれなことである。
ただ、それでも水面下の人間は存在するのだ。……ギアーズもまた。
とあるビルの屋上。一人の青年がフェンスの前に立ち、まっすぐと数百メートル先の景色を眺めている。バーテン服の上に羽織っている白衣の裾がゆらゆらと風に身を任せていた。
彼の視線の先には雑木林が茂り、林の真ん中に木綿豆腐のような研究所が建っている。林の中だけあってこぢんまりとしているが、確実に研究員は大勢いる。その証拠に、研究所の駐車場には四駆だったり、トラックだったりがずらりと並んでいるのだ。
ぽちり。
青年は右手に持っているスイッチのボタンを押した。その瞬間、
どかん。
研究所で大きな爆発が起きる。爆風と共に炎は舞い、たちまちのうちに煙が育つ。
勢いよく押し寄せる波のような爆炎が廊下を通ると、研究所のガラス窓は端から端まで全て裂けてしまい、木っ端微塵となった。ガラス片がアスファルトにぶつかる、シャラシャラという音がこちらまで聞こえてきそうなほどに。
研究所の入り口から、わらわらと研究員が出てくる。彼らは雑木林と所の境界線となる大きなゲートを目指す。
もう一度、青年はボタンを押した。今度は左手に持っている方だ。
ぼん。
今度はゲートが爆発した。酸素で腹を満たした大きな炎が、研究員を包み込む。雑木林も包み込む。もう逃げ場などなかった。
黒と赤と白と緑。
研究所はものの数分で地獄へ変わった。青年はそれをただ冷静に見つめていた。自身の白髪と、着ている白衣を風になびかせながら。