キズとキズナ論考4
ゴーダの戦闘衣装は、フリルやレースの多い彼女自身の服装とは打って変わって、至ってシンプルであった。
ボンデージ風のレザー生地が彼女の肌を覆い隠した。ぴったりと肌に密着したその衣装は、彼女の美しい体のラインに沿って曲線を描く。黒いそれに対して、彼女の雪のように白い肌のコントラストがより彼女を引き立てるようだった。
ただ、リボンの通った背面だけは、依然として露わになったままだ。
「まあ、悪くないんじゃないかしら。……それで? 武器は……」
ゴーダは自身の両手に視線を移した。
彼女のしなやかな手には、鉤爪。……のようなものが装備されていた。
指先に長い刃物がそれぞれの指、計十本。ぎらぎらと光を黒く反射する。その刃物の指は、かの有名映画を彷彿とさせた。
異様な彼女の服装は、まるでミュータントのようであった。
ゴーダは指を何本か動かし、武器の性能を確かめていたが、エメンタールの視線に気づく。
「ン……? どうしたの、あなた? 背中が気になるの?」
「えっ……その、少しだけ」
ゴーダの背中は、肩甲骨の幅に沿ってピアスが一列に二本並んでおり、そこに黒いリボンが通されているのだ。
「これね、“コルセットピアス”っていうのよ。素敵でしょう? ……私ね、人体改造が大好きなのよ。どんどん自分を塗り替えていくの。ほら、耳にも」
縦に巻かれた髪の束の下から、大きな穴の空いたピアスが覗いた。ぽっかりと空いた耳たぶには、リボン括り付けられていた。他にも、痛々しいピアスの数々が、彼女の耳を飾っている。
「痛くないんですか……?」
「痛いわよ、もちろん。ただ、その痛みを常に感じていなくちゃ」
「でも、痛くない方がいいと思いますけど……どうして?」
当然の疑問だ。
エメンタールは不安げな顔で問う。痛みを欲する人間など、そういない。
エメンタール自身、記憶を引っ張り出そうとすると、無理な真似をしようとすると、頭痛に悩まされた。その度に、自分が記憶のない人間であることに虚しさを覚えるのだ。……色彩のない病棟で。
この黒ずくめのミュータントは何をもって痛覚を欲するのだろう。単純のような、複雑のような、疑問。
ゴーダは、降り始めた雪のように淡々と述べた。
「……痛覚って言うのはね、必要なのよ。人間にとって。――物理的な痛みは、必要。
……人はね、二つの痛みを持ってるのよ。ケガとかの物理的な痛みと、精神的な痛み。心の痛みってことね。ケガはいくら痛くても、治ったのがすぐにわかるわ。見ればいいのよ。でも、心のキズは違う。目に見えないから、治ったことも、ときには傷ついたことも、……わからないの。
だから、より単純な物理的痛覚を求めるのよ、人間は。もしこの世からそれがなくなったらいくらこの素晴らしい世界でも、潰れちゃうでしょうね。……人って弱いから」