キズとキズナ論考3
国家管理局監視塔西区。赤と黄色の花が咲く屋上。そこにはエメンタールとゴーダの姿があった。
足を揃え、上品なゴーダの立ち姿はまるで黒い薔薇のようだ。そんな彼女は小さくため息をつく。
「……面倒ね。敵が来ないまま終わってしまえばいいのに。面倒なことはキライなのよ、私」
「…………はあ」
ゴーダは流暢な日本語を話す。というのも、彼女は日本人ではなくどちらかというと西洋人のような顔立ちをしているからだ。真っ黒な日傘が、彼女の姿に影を落とす。
ドリルのように巻かれたツインテール。ゴシックロリィタ調の服装。カチューシャのようなヘッドドレスには、真っ黒なコアが装飾されていた。
そして彼女の背中は異様だった。大きく開かれ、白い素肌が露わになっている背面には、リボンのようなものが、“通されている”のである。
疑問に思うエメンタールをよそに、ゴーダは気ままな振舞いをする。
「ただね、退屈も嫌なのよ。……変身くらいしたっていいわよね?」
「えっ」ゴーダがエメンタールをジッと見つめる。「ど、どうぞ」
漆黒の霧のようなものが彼女を包んだあと、空気に溶かされるかのように消えた。