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キズとキズナ論考

〈育児日記8〉

 今日は運動会だった。

 コトカの小学校は、五月に行われる。私の頃は十一月中旬だったので、なんだか新鮮だ。

 一年生の種目は玉入れ。たくさんの保護者の中、なんとか娘の姿をビデオに収めることが出来た。新型のカメラならそんな苦労せずに撮れるんだけどね……。


           ・     ・     ・


 とすとす、と国家管理局エレベーターホールに敷かれた絨毯を踏みながら、雪平コトカは博物館ミュージアムへと足を運ぶ。

 床に一枚の青葉が落ちていた。外からやってきたのだろう、活気あふれるような緑色だ。


 少しずつ。少しずつではあるけれど、コトカは成長しつつあった。ただそれは共闘できるメンバーありきのことだ。本人一人じゃ、何も。


 地下の博物館には先客がいた。……【マスカルポーネ】だ。淡い光に包まれたそこで、携帯型TVモニターを眺めている。腕時計のように装着しスイッチを押せば、空中にモニターが浮かぶのだ。


 マスカルポーネ。『ギアーズ』で唯一の、男性メンバーだ。といっても彼はなんとも女性的で、美しい。肩まで伸びた緩やかな曲線を描く髪は、ハーフアップによって軽く仕上がっている。その後頭部には、金属製のプレートに真っ白な宝石のようなもので装飾された髪留めが光を放っていた。これが彼のコアなのだろう。


 コトカはそんな彼の容姿に対して若干の敗北感を覚えながら、彼との会話に花を咲かせる。


「あれ、エメンタールじゃん。君も今日が当番? 僕はパルメザンとなんだけど」


「うん、ゴーダさんと! 何観てるの?」


「これ。“ラボ”で事件だって。研究書類? が盗まれたらしいよ。まあ、FASのお陰で未遂だったんだけどさ……」 



 “ラボ”とは、『葦原研究所』という、国家認定の研究機関である。国家管理局の魔法技術と研究所の技術は、負けず劣らず。


 国家が認めているということもあり、その規模は最大級。

 ゆえに、他の研究機関が存在するにもかかわらず、日本では“ラボ(Laboratory)”という単語そのものが、葦原研究所を指すことが多いのだ。


「エメンタールはさ、どう思う? あのラボだよ、セキュリティは万全なはずなのに。どうやって盗んだんだろう……」


「…………魔法、じゃない?」


 エメンタールがマスカルポーネの顔を覗き込み、笑う。マスカルポーネは一瞬目を丸くしたが、にんまりとした笑顔に変わった。


「魔法、だね」


 博物館に、泡の弾けるような笑い声が響く。

 もちろん魔法なんかじゃない。ただ、秘密を共有できること、それで街を救えること。……俗に言うと、“絆”。


 そんな雰囲気に、ナイフのような声が突き刺さる。



「あれ、ボク三番なの? 早いねぇ、お二人さぁん!」


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