御伽の国のコトカ13
カンラクが攻撃されるかもしれない。そう思って三人は身構えたが、特に何も起こらなかった。彼女の表情は真っ赤で、どう見ても怒っているのに、泣いているようにも見えた。
コトカはハッとして、ギグルに駆け寄った。もしかしたら、彼女は今焦っているのかもしれない。
「ねえ、もしかして……。自分がいらなくなった、そう思ってるの?」
ギグルの瞳が動揺するように震えた。黄泉で、ギグルの心の叫びを聞いたのは自分しかいない。きっと彼女は魔法とかラボとかそんなの初めからどうでもいいんだ。
Яのためになるならば、命だってどうでもいいのだろう。
でも今カンラクのせいでどうすることもできなくなって、ギグル自身がЯにできることが何一つなくなってしまった。
「――……気持ち、わかるなあ」
コトカは呟きながら笑った。呼吸が交じったような震えた声で、かつての自分を思い出した。諦念が漏れ出たような笑みでのどが熱くなる。
「無能で、なにもできなくて、ただ友達の死を見送って。何か見出せないかってギアーズに入ったけど結局変われなかった。私なんて、別にこの世に存在しなくて良かった。そっちの方が、世の中や周りの人はうまくやれてたんじゃないかって思う」
「……」
「要らない子同士だよ、私たち」
うずらがコトカへ駆け寄ろうとしたが、カンラクがそれを片手で制した。Яもこの状況をよく分かっていないのか、訝しげにギグルたちを眺めていた。
「でも、ギグルちゃん。自分が要らない子だとしても、自分にとって必要な人がいて、その人の力になりたいって思うなら、それで十分じゃないかな」
「…………どうだろ」
「ギグル……君たちはさっきから一体何の話を……?」
やっと口を開いたЯは、笑ってしまうくらい戸惑った様子だった。それもそのはずだ、我が子が思い悩んでいたら気になるのが親というものだろう。……たぶん、だけど。
「Я……」
怯えたような声で、ギグルはЯの顔を見上げた。
「Яは、私なんか、必要じゃなかった?」
「何を根拠にそう思うんだい?」
「私は一度も、戦ったことがなかったから」
マスク越しに、Яの瞳が震えた。目の前で自分を見つめる娘はとても不安そうな顔をしていて、今にも泣き崩れてしまいそうなほどだった。ギグルの問いはあまりにも愚問だというのに。
それにつられてしまいそうになったが、熱くなるのどをぐっと飲みこみ、まるで祈るような声で呟いた。
「……それは君が、大事だったからだ。君が魔法の餌食になって、社会の犠牲者になるのが嫌だった」
どうして今まで気づかなかったのだろう。娘の心境ひとつ窺わなかった自分に腹が立つ。今となってはもう遅いのに。
でもそれは、こちらの気持ちにも混じりけなどひとつもなかったからなのだ。
「もちろんホームの子どもたちは大事だ。でも、全て君のための、ことだったんだ」
Яは大きなため息をつき、カンラクの方へ振り返った。
「あなたの言う通り、僕はどうしようもない間違いをしていたようだね。
――共に行こう、泥船へ」