御伽の国のコトカ11
――――――!!!!!!congratulation!!!!!!――――――
虚が瓦礫のように崩れていき、やがて砂となって消えていく。
コトカは息を切らし、額に珠のような汗を浮かべていた。本当に時間がかかった。きっと二人が自分のために遠慮してくれたのだろう。鎌で剥がすだけの作業をただひたすらに繰り返した。
別れたギアーズのために。
争いに巻き込まれたラボの人たちのために。
社会を良くしたかった国家管理局のために。
魔法を探求し続けた母のために。
協力してくれた二人の友人のために。
そして何より、自分のために。
既に陽は傾いていて、オレンジ色と青色の混ざり合った空だった。夕陽に照らされた雲はピンク色で、夢の中にいるような景色が広がっていた。
「そろそろ起こしましょうか」
うずらが指を鳴らすと、ギグルがゆっくりと目を開いた。彼女はハッとして起き上がり、こちらを睨む。「頑固なヤツめ」と闌がぼそりと呟いた。
「私に何をした! 妙なことしてたらぶっ殺すよ!」
「ただ魔法で眠ってもらっただけですよ。あなたを懐柔したかったらそういう魔法を使うに決まってるじゃないですか。でもなぜしないかっていうと、そもそもできないからです」
要は、人の心を変えるとか、服従させるとかは魔法じゃ実現できないということ。正直初耳だったが、コトカは納得した。それが出来たら事故も犯罪も起こさないよう人間に働きかけるはず。いわば魔法という名の洗脳だ。
もし母があのまま生きていたら、そんな魔法が生まれてしまっていたのではないだろうか。そう思うとさっと血の気が引いた。
……いや、違う。私たちは魔法を使い、研究した。母がいない世界でも。悪いのは母だけではない。
私たちも、共犯者だ。
「ラボが止めていたのって、もしかして……」
コトカはポツリと呟いた。その声は誰にも聞かれていなかったようで、うずらたちはギグルに向き合ったままでいる。
「私は誰かの心を捻じ曲げてまで自分たちの主張を押し通すつもりはありません。うちの局長もそういう方針です。だから話し合いたい。……たくさん、間違えたけど」
うずらが芯の通った声で叫んだ。コトカも、闌も、それ以上何も言わず、ただギグルの次の言葉を待った。
「……どうでもいい」
「どうでもいいよそんなの。私は、魔法なんか、科学なんか……!」「お待ちになって」
唸るように叫んだギグルの主張を、ある人物が止めた。コトカたちの背後から誰かがやってきた。対面にいるギグルは訝しげに「誰?」と声を投げていた。コツコツというヒールの音がだんだんと近づいてきて、振り返るとその声の主はコトカたちに微笑みかけた。
「初めまして。国家管理局局長の神蔵水鶏子といいます。Яの……あなたのお父さまの元同僚です」
ギグルは一瞬驚いたような顔を見せたが、また疑いの表情に戻った。彼女にとって、ここに信用できる人物など一人もいないのだろう。
「Яに会いに来たわ。約束はもちろんしてある」
「嘘だ」「嘘じゃないよ……ギグル」
ギグルがハッとして振り向くと、研究所の方からЯがやって来ていた。
「久しぶり」
「お久しぶりです。神蔵さん」
「……私たちの間違いの決着をつけるときが来たわ」
二人の大人が対峙して、その眼を光らせた。