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御伽の国のコトカ9


 できれば私一人で倒したかったな、とコトカは独りごちた。ここでギグルに自身の活躍を見せつけていれば変わっただろうか。膝を抱えて座り、ギグルをちらっと見た。彼女は今、隣で寝息を立てている。


「いや……どうかなあ?」


 コトカは苦笑した。ちょっと関わっただけでもわかる、ギグルはとても頑固だ。自分の芯が通っていて、己の信念がはっきりしているような人。

 羨ましい。根無し草のような自分とは大違いだ。ギアーズに入っていれば相当な戦力になっていたはず。そんな彼女を、言葉で説得する方法……。


 改めて、自分には何もないなと痛感する。とりわけ特技も趣味もなくて(あったとしても思い出せないのだからしょうがない)、強いわけでもない。大事な人はもうこの世にはいない、だから守るものもない。ギグルとは真反対だ。


「ん……」


 ギグルがもぞもぞと動いて、ゆっくりと目を開けた。瞬間、コトカに目を見開いたが、なんだかまだうとうとしている。きっとうずらの魔法がまだ解けていないのだろう。深いワイン色の髪が漂うように揺れた。


「なんで……あんたが……」


「一般市民を巻き込むわけにはいかないから。そう教えられてるの」


「そう……」


「途中で寝ちゃってもいいから、聞いてくれる? 私の話」


 ギグルは答えなかった。けれど寝息は聞こえない。


「あなたたちが大嫌いな魔法は、私のお母さんが作っちゃったの。お母さんさえいなければ、魔法なんか生まれなかった。だから、私たちとラボの対立は娘である私がなんとかしなくちゃいけない。……わかるでしょう? この気持ち」


 彼女とЯの詳しい事情はまったくわからないが、ギグルにとっては何かしらの葛藤があるのはわかった。ならば、こちらのことを話したら多少理解してくれるんじゃないかと問いかけたのだ。


「私も、魔法なんかなくなっちゃえばいいと思ってるよ。魔法のおかげでみんなが幸せになれるなら、どうして私の友達はいなくなっちゃったんだろうとか、虚は来るのはなぜ? とか。結局は、自分でなんとかしなくちゃいけないんだよね。幸せって」


 ギアーズとは、いわば人柱だ。

 魔法によって虚がやって来るのを、成人すらしていない子どもたちたった数人が退治しないといけない。軍隊ですらない、その功績を称えられることもない、尊い幸福の犠牲者たち。


「お母さんのことは嫌いじゃないけど……良くないことをしたなって思う。魔法で死んじゃったし、作った本人が手に負えないものならそもそもここまで大きくしちゃいけなかったんだ。お母さんも、カンラクさん――国家管理局の局長も、先生も、みんな馬鹿だよ」


 コトカは膝を抱える力を強めた。

 歯車は休むことを許されない。その命が尽きるまで働かされて、小さいから見落とされる。一つでも欠けたら機能しないのに。


「だからもう、終わらせたいんだ。そしたら……友達になりたいな。難しい親を持つ者同士」


「……終わらせるって?」


「魔法をなくしたい。そんなものがいらないくらい幸せな社会を作るの」


「なくならないよ」


「え?」


「一度生まれてしまったものを消すなんてできない」


 ギグルの言う通りだ。

望んだ通り魔法を消せたとして、「初めからありませんでした」というような振る舞いはできない。その残滓はずっと存在し続ける、砂の一粒でも消し去るなんて不可能に等しい。


「なら、せめて虚が来ないような仕組みを作るよ」


 ギグルは、「そう」とだけ言って再び眠りに落ちてしまった。


「……オイ」


 声が上から降ってきて、コトカが上を向くと闌が武器を担いで見下ろしてた。


「どうしたの? 虚は?」


「キミも来て」


 虚はすでに崩壊しかけていて、あと一歩のところで倒せそうなほどだった。黒曜石が剥がれるように虚だったものがぱらぱらと空気中に消えていく。まるで黒い炎のように揺らめいて、こちらをじっと見ていた。闌が虚に向かって走り、コトカの方へ振り向く。


「三人でやるンだよ」


「えっ……なんで?」


 コトカは武器を構えつつもきょとんとして、闌をじっと見た。彼女ならこんな虚を倒すなんて容易なはずなのに。そして、なぜかその後ろでうずらがにやにやとした顔で笑っている。


「……ボクがそうしたいだけ」


 そう言って、ふいと背を向け虚の方へ行ってしまった。すると、うずらが吹き出して腹を抱えた。


「ぶっ……あはは! 闌さん、成長しましたね……!」


「お前!」


「あははは! 追いかけて来ないでください!」


 二人の少女が走っていき、コトカはぽかんとしたまま立ち尽くした。こんな状況だというのに……。


「……ううん、こんなときだからこそ、かな」


 よし、と武器を握りしめ、コトカも彼女たちに続いた。


「待ってよ! 二人とも!」

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