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御伽の国のコトカ8

 戯繰ギグル。彼は彼女にそう名付けた。

 最初は彼女一人だけだった。彼だってそのつもりだった。しかし既に大人になってしまった仲間には余計なしがらみがあって、完全な味方にはなってくれないと彼は判断したのだ。

 まず出会ったのはコインロッカーに捨てられていた赤子。彼は更田さらだ真打しんうちと名付けた。なるほど、こうすればいいのか。


 ひとり、またひとり、時にはふたり。そうやって彼はどんどんどこからともなく身寄りのない子どもを集めた。そして彼らにこう言った。


「君は今日から家族だ」


 ――――なぜ?


 血の一滴も繋がっていないこいつらのどこが「家族」? 彼女は腹立たしかった。私一人では不満だということだ。その証拠に、彼――父親は孤児たちを戦いに繰り出したが、ギグルは武器調達や情報収集としてしか働かせてくれなかった。

 自身の腹の底で黒い何かが渦巻くのがわかったが、悟られないようにギグルは笑った。


 ぽっと出の奴らに奪われてなるものか。血の繋がりというささやかなプライドだけが日々を生き抜く柱だった。


 そんなことも知らずに、父本人は全員を分け隔てなく愛す。父の下には自分がいて、そのさらに下にいるのが孤児たち。そう信じて止まなかった。本当は今すぐにでも皆殺しにしてしまいたかったが、それでは父の仕事を妨げてしまう。だからこそ孤児たちを管理するという意識で、父に逆らった者――例えばペレストロイカ――は排除した。


 けど、だんだんとわかってきたことがある。

 結局父にとって血が繋がっているか、否かは関係なかったのだ。薄々気が付いていたけれど。ギグル自身も孤児たちと同じ、ただの駒にすぎない、と。


「……私一人しかいなくなったら、頼りにしてくれたりするのかな」


 ギグルは笑った。叶うはずがないことを願うなんて馬鹿らしい。それでも、Яに憎しみをぶつけることなんてできない。……だって、お父さんだから。


 彼のお望み通り、最期まで駒として振舞ってやろう。


 ギグルは目の前にいる敵をじっと見据えた。ボロボロになってまで戦うその女が惨めでおかしかった。ギグルは笑った。


「駒にすらなれないあんたに同情するよ。今ここであんたを潰して私も死ぬんだ」


 きっと彼は私が消えても、また新たな子どもを連れてくるだろう。

 魔法に殺されても、黒いバケモノに踏みつぶされても。


「……死なないよ。あなたも、私も」


 その少女は、傷だらけの顔でふっと笑みを向けた。


「二人で元の世界に帰ろう」


「何言ってんの?」


 ギグルは拳を握った。体じゅうの力をそこに集中させて、目の前の女を確実に捉えた。


「っ……!」

 

 女は避けきれず、目を瞑った。

 そのはずなのに、腹を目がけて拳を撃つ寸前急に女の姿が消えた。拳は空を切って、その勢いで体は横転した。


「やっと見つけたぜ。バカな奴らだなホント」


 先ほどの女の傍に二人の女がいた。一瞬で彼女を避けさせたのだ。ギグルは奥歯を噛んだ。


「うずらちゃん、闌さん、どうして……」


「遅すぎたので探したんですよ! そしたら黄泉にいるってどういうこと!? なんで連絡しないんですか!!」


 うずらと呼ばれた女がコトカに向かって叫んだ。コトカは慌てて謝り倒しており、闌は虚をニヤニヤと眺めていた。


「お願いだから、ギグルさんを傷つけるのはやめてください」


「わかってるよ。あー……こりゃ最初からキミには倒せないやつだよ。ボクたちがやる」


「でも……」


 コトカが何か言う前に、闌は虚に向かって走っていた。武器を取り出し、その弱点を睨む。闌の大きな笑い声が聞こえた。


「ちょっと待っ……! あーもう闌さんは! コトカさんはここで休んでいてください。それと、ギグルさんは……」


 うずらが御伽を一つ噛んだ。するとギグルは瞬きが遅くなり、目を閉じてしまった。コトカがギグルの体に手を添えて、ゆっくりと横にした。


「この子、『お父さんの子どもにはなれなかった』って言ってた」


「Яのことですか。家族って複雑ですね、よくわかりませんが」


「そうだね」コトカは力なく笑った。「私だって、お母さんのせいで今ここにいるんだもん」


「……でも、私は御伽さんに感謝していますよ」


 コトカがきょとんとして見ると、うずらは晴れた顔つきで笑った。


「あなたに会えましたから」


 「じゃあ、行ってきます」とうずらも虚の方へ向かった。

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